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―アリスインゲート1―後編

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―アリスインゲート1―後編

リアクション

 翌日の午前――

「コーヒーはいるかい?」
「お構いなく。俺らは俺らで持ち寄ってますので」
「そんなに警戒しなくても僕のとこにはソイレント的なものはおいてないよ」
 エルメリッヒ・セアヌビスが新風 燕馬(にいかぜ・えんま)を説く。しかし、それでも燕馬は頑なに断るので早々に何かを出すのは諦めた。
 同席するサツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)フィーア・レーヴェンツァーン(ふぃーあ・れーう゛ぇんつぁーん)ローザ・シェーントイフェル(ろーざ・しぇーんといふぇる)の三人も差し出されたものを断った。燕馬から「向こうから提供されたものは、水一滴たりとも口にするな」と言われてたからだ。エルメリッヒ同様にローザも「警戒し過ぎじゃない?」と言われたくらいだが、結局みんな従った。
「改めて――お久しぶりです、博士。お元気そうで何より」
 改まって燕馬が再会の挨拶をする。
「一年ぶりと言ったところかな? 向こうの世界はどうだい?」
「概ね平和かな」
「そうか、こっちは相変わらず冷え切ってるけど、まずまずマシな方だね」
「聞いたわよ、あなたがフィーニクスを作った科学者の一人だそうね?」
 ローザの言葉に「うん」と肯定するエルメリッヒに彼女は続ける。
「フィーニクスの量産にあたってパラミタから機晶石の提供が有ったじゃない。《機晶技術》を用いた研究とかされてないのかしら?」
「【ノース】ではされていないね。【グリーク】では石自体の希少価値が上がって、使わているのは初期生産型のフィーニクスだけかな。研究はあまり進んでいないよ」
「じゃあ異世界の壁をぶち破るような超兵器とかないですかぁ」
 フィーアに「今のところはね」と答える。
「なるほど、君たちは元の世界に帰る方法を探しているというわけだ。その答えに近いのは僕よりもキョウマの方だろう。彼のほうが僕よりも《機晶技術》についても理解しているし、その技術の第一利用者だ」
 その利用の仕方が、ミクロ以下分解した機晶石を人体に流しこんで定着させるだから、彼には何をされるのかわからないので近づきたくはない燕馬だった。
 つまり、ここには元の世界に渡る方法はない。ということか。 
 と、ここで黙っていたサツキが口を開く。
「トロイア基地の生き残りは、あれからどうなったか御存知ですか? いえ、そもそもあなたは――どうして、未だにこの世界にいるんですか?」
 サツキが声を張り問う。
 重層世界崩壊時、多くの人間が狂乱錯乱し、基地では武装した兵士たちの同士討ちまであった。その終わっていた光景をサツキと燕馬は目の当たりにしている。それならまだしも、燕馬はその終わった光景のなかで多くの助からない者達を助けている。一人一発づつの鉛球で。
 そして、このエルメリッヒだが、彼はハデスの飛空艇にてキョウマとともに回収され、パラミタへと救助されたはずだった。
 だがどうだ、彼は未だにこの世界にいるではないか。あろうことか普通に。
 なら、あの光景と燕馬の行いはなんの意味があったのか、サツキにはあれが正しいことだお思いたいがために、ただ普通にある世界を否定していた。
「……まず、あの後何が有ったかを話そうか」
 エルメリッヒはが崩壊直後の【第三世界】の話をする。
 世界はオリュンズを周辺に多くの人が錯乱していたという。けど、それについてはそれほど問題じゃなかった。影響が大きかったのはゲートの付近、つまりは基地。オリュンズは知っての通り、RAR.の精神安定波のおかげで、僕も意識を保ってた。
 外世界とのゲート、そしてヘリオポリスの大穴が閉じた後、この世界も無くなると君たちから聞いていたけど、そうはならなかった。錯乱した人たちも以前のとおりになった。ただ、崩壊による地理的破壊のほうが凄まじくて、世界の殆どが無くなって異次元の海が広がった。今ではまともな国は【ノース】と【グリーク】の二つだけ。オリュンズ地方も残ったけど、国家としての基盤は瓦解して【グリーク】の領土になっている。
 あの時基地に所属している人間で助かったのは非番の兵士とオリュンズのジオフロントの研究所にいた研究者、そしてロンバート大将くらいだよ。
「今では徐々に世界が崩壊している最中と言ったところだよ。直にすべてのモノが次元の亀裂に飲み込まれてしまうだろう。その時が本当のこの世界の終わりかな」
 フィーアが尋ねる。
「別の世界に逃げるという発想は生まれなかったのです?」
「実際グリークで生まれている。崩壊後のグリークでは外世界とつながるゲートの開発と研究はされてたよ。でも、残念だけど、失敗した。結論から言って僕らはこの世界から出る方法がない。これは正確じゃないね。この世界の物質は外世界にはいけない。唯一の例外は崩壊時におけるオリュンズ地方民のみってことになるのかな」
「それならあなたとキョウマ博士もではなかったですか?」
 燕馬の問に首を横にふる。
「僕は違うよ。あの時は抗精神薬で正気を保ってただけだよ。キョウマはオリュンズ出身だったから通れたはずなんだけど、結局外世界には行かなかったよ」
「それは何故ですか?」
「さぁね、僕にはわからいよ。ゲート付近で飛空艇から降りた所で『オレはゼッタイ向こうには行かない!』って駄々をこね始めたからね。なんでなんだろうね」