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―アリスインゲート1―後編

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―アリスインゲート1―後編

リアクション

「さて、権限はどうにかなるとしても。問題は恐らくセキュリティー突破した後だな」
 佐野は考える。アリサと共に捉えられている咲耶の話ではハデス率いるオリュンポスが敵側に付いているという。今はまだ目立った動きを見せてないところを見ると、その【700N】区画に戦力を集中させているのだろう。概ね今出てきている警備は先行部隊といったところか。
「一番怖いのはゲートをくぐってテレポートした直後だわ。私なら使えるゲートを限定して待ち伏せするわ」
 アンブッシュの可能性をスノー・クライム(すのー・くらいむ)が示唆する。
「間違い無くそうだろうな。……アニスのほうは何か分かったか?」
 【神降ろし】にて霊的存在からの情報収集をするアニス・パラス(あにす・ぱらす)に尋ねる。
「う〜ん……」
 アニスが首を捻る。体ごと捻る。
「どうした?」
 くの字にねじ曲がるアニスに和輝が尋ねる。
「ESCに連れ去られた人がいっぱいだってみんな言うんだけど。ここで死んだって人が誰一人いなんだもん。変だよね……」
「どういうこと?」
 スノーも聞き返すが、
「沢山連れて来られてるけど、誰も死んでいないー。でも誰も出てきてないって」
 などと意味がわからない事をアニスが言う。自分でも理解できないので体を捻っているのだが。
「もしかしたら、連れ去られた人たちはまだこの会社にいるのかもな。彼ら全員を助けるかは、アリサの後で考えよう」


鉄心:アリサ無事か? 酷いことされてないですか?
アリサ:されるんですか!? スマート本みたいに……!?

 意外と大丈夫そうだ。

「どうも腑に落ちないな」
 源 鉄心(みなもと・てっしん)が眉をひそめ呟く。「なにが?」とティー・ティー(てぃー・てぃー)が尋ねる。
「何故ESCがアリサを拐ったのかだよ。列車付近では俺達を監視する目もあったという話だし。何か理由があるのかと思ってな」
「考えすぎですわ。アリサさんは勝手に迷子になってましたから、勝手に拐われてもおかしくないですわ」
 イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)がさっぱりした回答をする。
「連れ去ったのは『くまさん』ってことよね。ウサギの勘(《野生の勘》)によると、『くまさん』の一目惚れですね……!」
「なんですのティー、そのめるへんちっくな答えは……」
「きっとそうです。アリサさんは『くまさん』のお嫁さんとして拐われたんです。そして、それを邪魔する契約者たちとの奪い合い……色々と胸熱です!」
「……何をいってるんですの。変なものでも拾って食べたのでしょうか?」
 乙女モード前回のティーにイコナが引く。
 結婚式場はヤバゲな化学企業。式典ではケーキの代わりに新婦にメス入刀とか嫌すぎる。
 鉄心は無視して一口A太郎に意見を求めた。
「あなたはどう考えます? アリサが拐われた理由について。彼女の能力については詳しいでしょう」
 A太郎とは【グリーク】で見かけてからずっと、監視のつもりで行動を共にしている。寝室までは共にしていないが、グリーク軍軍事飛行場にある同じ訓練生宿舎で寝泊まりした。今のところ不審な行動はしていない。
 A太郎が答える。
「何故『アリサだったか』は考えられる材料が少ないですね。でも、どうして拐われたのが『アリサになったか」は予想出来ますが」
「と、いいますと?」
「単純です。アリサはあなたたち契約者の中では”ダントツに弱い”ってことです」
「ああ……確かに」
 契約者の中にはESCのビルくらい物理倒壊させそうなのがいたり、捕まった所で勝手に脱出するどころか社員全員虐殺して帰ってきそうなのが結構いる。その中でアリサと言えば、病み上がり、三年寝太郎で筋力は皆無、《スキル》と言えば《精神感応》くらい。
「あれ以降、強化人間のスキルも攻撃に向くものがないと報告がありますし、彼女の腕力じゃ《サイコキネシス》も役に立ちそうもないです。まあ、そういう情報を向こうが知っていたかは定かではありませんけど、彼らがあなたたちを監視していたという話なら、彼らは”捕まえやすそうな契約者を見繕っていた”ってことでしょう」
「あっちこっち一人でフラフラしていた見たいだからな……確かに俺らの中では捕まえやすそうだ」
 鉄心は納得する。
「と言うことはESCは捕まえるのがアリサじゃなくても良かった……契約者を捕まえて何をするつもりなのか……」
「それはたぶん僕達極東と一緒ですよ」
 A太郎が答える。
 その答えの意味するところに鉄心は気付き目を見開いた。


「……腹が……減った……」
 ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)は空腹に耐えかねていた。
「ピザでも食ってろ……ってピザないんだけど」
 緋王 輝夜(ひおう・かぐや)は空腹で動かないネームレスを見かねていた。二人はビルの外に居た。エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は勿論いないのでご安心を。
 今更ながら、このビルの構造を外見で説明する。
 40階の高層ビルであるのは間違いないが、その形状は側面に跳び控え壁を持ち、上に行くほどに凹型アーチ曲線が床面積を狭めている。これはゴシック建築に見られる側圧を外へと分散させる三角形の構図利用した建築物だとわかる。
 そんな知識が輝夜にあるかどうかは別として、彼女はこれをみて登りやすそうだと思った。正面は垂直構造でも、反れた側面なら《グラビティーコントロール》で楽に登攀できるだろうと。
 しかし、ネームレスには同様の能力もやる気もないので、ここで見張りと言うなのお留守番。ビル内と違って外の警備はお留守のようだから、二人が見つかることはないだろう。
「そこでおとなしく待ってろよ」
 ネームレスを置いて、輝夜は登攀を始めた。
 ――置いていかれたネームレスは壁をじっと眺めていた。

「………………この壁……美味しいいのでしょうか……」


 登攀してしばらく後、輝夜は最上階に近くの階に入り込んだ。
「あたし参上って誰も居ないじゃん。いても困るけど」
 机などの物陰に身を隠しつつ、前進。頭上の全方位性カメラの物理死角となる場所を行く。《隠れ身》と《ポイントシフト》で管理外に逃れる。
 《ディメンションサイト》で廊下の様子を伺う。空間を移動する物体なし。
「誰も居ないな」
 小声で呟き、廊下へと出る。足音は《グラビティコントロール》で靴と床との空間を開けて着床しないことで立てない。
 再度《ディメンションサイト》で、近くの部屋の中に誰か居るのかを確かめた後、聞き耳を立てる。
 声を押し殺すと中から声が聞こえてくる。

「概ね、お前の予想通りでしたが、現状こちらの損害が大きすぎやしませんか?」
「フフフ、なにを言うかね? 契約者相手に少々の犠牲は付き物だ。その気になれば彼らはこのビルごと破壊してくる。まだ穏便に済んでいると言っていい」
「たかが小娘一人にこのようなことになるとは」
「一人ではない。俺からも一人提供して二人だ。で、二人をどう改造する?」
「改造よりも解剖が先です。DNAサンプルは既に三組採れている。今から機械検査と中身を開いて見る。模造品ができたそのあとはお前の好きにしなさい」
「契約者の模造品(コピー)か。この世界でどれだけ再現できるか楽しみだな」

「契約者のコピーって……アリサたちをベースにこの世界で強化人間を作るつもりじゃんか!?」
 口に出した瞬間、「しまった!」と輝夜は息を飲んだ。
 音声感知に引っかかったのだろう。警備の駆けつける足音がする。
「情報は不十分だけどしかたない」
 輝夜は入ってきた部屋の窓から外へと脱出し、傾斜のあるビル側面を滑って降りた。
 場所は分かった。敵は39階、そしてアリサたちはすでに検査室にいることを。
「早く伝えねーとな……ッ!」


 【第三世界】には契約者はいないかつ能力をもつものもいない。ただ、それを可能にする技術と人材はある。高度科学で人体と遺伝子を操作し、強化人間の生体を模倣すれば、改造を受けたものは契約者同様の力を持つようになるだろう。
 しかも、【第三世界】の人間は種族的にティル・ナ・ノーグ人であると見解が出ている。地球人を強化人間化するよりも人工強化しやすいと言える。