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リアクション
「朝早くからほんと熱心だね。感心感心」
ボサボサと頭を掻いてミナミ・ハンターが来訪者を眼鏡越しに見る。
来訪者は二人、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)と御神楽 舞花(みかぐら・まいか)。
御神楽 陽太(みかぐら・ようた)はいない。
二人は昨日の会社見学の続きという名目で、またミナミ博士の第三研究室を訪れていた。その実は、ESCに捉えられたアリサの情報を得るための取引にきたのだが、さて、この眠気眼な博士が何を何処まで知っているのだろうか。
だが、話すところはまずはアリサのことではない。
「ミナミ博士。あなたは”パラミタ”について御存知ですか?」
舞花はまず、自分たちの元いた世界のことから尋ねた。【機晶技術マニュアル】を差し出して反応を伺う。
「話は聞いているよ。この世界よりも変なところだってのは。ま、エメリッヒからの聞き伝の聞き伝だけどね」
間髪入れずノーンが尋ねる。
「ワタシたちそこに帰る方法を探しているのです。何か方法はないの? 『キンヌガガプ』って穴がパラミタに繋がっているとか、『ユグシールの大樹』を伝って別の世界にいけるとか?」
真面目に異世界の話をするノーンの言葉を聞いて、ミナミが大声笑い出す。
「アハハ、あんたら本当にそれを聞きに来たの? 残念だけどそんなお伽話はないよ。そういった話はあたしのところじゃなくて、ユニオンにでも持っていくべきだったね」
ユニオン――RD社傘下のグループ別称。
「あたしの専門はおもちゃだよ? 他次元移動とかそういうのは近距離転移装置作っている壁の向こうの国に聞いたほうがいいよ。一時期つながっていたとか言うあんたらの世界とこの世界を繋ぐ実験をしているって言うし」
「それじゃ、博士は何も方法は知らないのですか」
ミナミが舞花の言葉に頷く。デスクに置いてある試作品の『くまちゃん』を手にとって弄ぶ。
「あたしには興味のないことさ。異世界とかこの技術書のことも。モノポールモーター作ってこいつに入れて、自動AI組み込んで、愛らしく動く子供のおもちゃが出来ればそれでいいの。それが大砲になろうが、ロボットになろうが、他のことはなんにも知らない」
「――嘘だ」
ノーンの《嘘感知》が働く。彼女が嘘を付いていると。
「博士は『何も知らないって』言ったけど、いろいろしっているもん。多分ここに連れて来られた人のことも」
眠たい顔に剣呑さが宿る。
「へぇ……ピンポイントであたしの嘘をつついて来るなんてねぇ。それがあんたらの言うところの《スキル》ってやつか?」
「そ、そうだよ。ワタシたちが別の世界から来たって証明にもなったでしょう?」
「そして、あんたらの仲間の誰かを連れ戻しに来た?」
ノーンが押し黙る。自分たちが来た理由がバレている。
「ミナミ博士、あなたはこの会社がしている人買いのこと、しっているんですね?」
嘘が見破られると知ってか、ミナミは他愛もなく舞花の問に答えた。
「知っているんじゃないよ。知らないふりをしているだけ。そして、知る必要もないことは知ろうとも思わないし、教えるつもりもないってだけ。Need to Knowってやつだよ」
「情報は知る必要のある人のみに――ですか。私達にはその権利がないと」
舞花の言葉を首振り否定する。
「あたしにもないってこと。人買いの首謀が誰か知っているし、連れ込む時の搬入ゲートの開け閉めを手伝ったりはしたけど、何をしているかまでは知らない」
「アイザック・サンジェルマン博士のことですか?」
「アイツのこと知っているんだ? そこまで知っていてあたしに何を訊くんだい?」
これ以上答えることはないと言うのか、だがノーンが問いを投げる。
「アリサの、ワタシたちの仲間が捕まっている場所を教えて」
「詳しい場所は全くわかんないよ。これはあたしの予想だけど、第二搬入口から飛んだ先か、アイザックの第一研究所がある本社ビル上層階じゃないかな?」
それだけ分かっただけでもアリサ捜索の手がかりにはなる。αネットワークに情報をリークする。
「そんじゃ、原則破って色々答えちゃったし」
ミナミ博士がそう言うと、室内の隔壁シャッターが一斉に閉まる。
「なになに!? どういうこと!?」
三人とも閉じ込められ、ノーンが慌てる。
「本社の方で騒ぎを起こしてるのあんたらのお仲間でしょ?」
離れにある研究棟までは喧騒が届かない。しかし、ミナミに届いているセキュリティアラートには”彼ら”が起こしている騒動が届いている。隔壁を閉めたのはミナミ自身だ。
「ま、これは保険だけど、あたしはあんたたちの人質ってことでよろしく」
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