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リアクション
「ひゃうっ!?」
清泉 北都(いずみ・ほくと)は突然腰に伸びてきたクナイ・アヤシ(くない・あやし)の手に、つい声を上げてしまった。
そしてそれを非難するかのように、ぎろりとクナイを睨む。
「いや、ここの温泉は何か変だと思いませんか? 妙に赤く、ぬるぬるしていて」
「それはそう、かもしれないけど……」
だからっていきなり触る事ないじゃないか、と続けようとした北都の言葉は、彼の口から外に出ることはなかった。
きゅっと、北都が口を引き結んだから。
口を結んでいないと、変な声が出てしまいそうだったから。
何故かと言うと、腰に伸びたクナイの手は、まだその動きを止めていなかったからで……
「な……にするのっ」
漸く告げた言葉。しかしクナイの手を止める効果はなかった。
最初は、ちょっとした悪戯心だった。
それだけの筈、だったのに。
北都の反応に、つい止められなくなってしまった。
もっと見たい、もっと声を聞きたい、反応させたい。
「そうは言っても、北都様……こんなに、反応して」
「だって、ぬるぬる、して……っ」
「それだけですか?」
「は、あ、そこっ」
「ここを? どうしましょう」
日頃の我慢を嫉妬を抑圧を、取り戻すかのようにクナイは求める。
そして、北都もまた。
「う、ん……」
「ん……」
求めたのは、クナイの方からだったのかもしれない。
それとも、北都から求めたのかもしれない。
湯けむりで隠されるほど深い、深い口付け。
その後、北都の手がクナイに回されたのは、間違いなく彼自身がそう望んだからで。
「……ん、いいよ」
「……たくさん、愛してあげますよ」
◇◇◇
(主とクナイは上手くいっただろうか……)
モーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)はムティル・ジャウ(むてぃる・じゃう)と湯に浸かりながら、二人きりにしておいた北都とクナイの事を思う。
「弟はどうした?」
「ああ、ムシミスなら一足先に貸切の方に行っている」
ムティルとその弟、ムシミス・ジャウ(むしみす・じゃう)も、温泉を貸切にしているらしい。
「ムシミスの方は、お前が望む通りに外に目を向けるようになったな」
「……」
モーベットの言葉に、ムティルは無言で目を瞑る。
まだまだ、弟を巡る彼の懸念は深いらしい。
それには構わず、モーベットは言葉を続ける。
「お前は?」
「……俺、か?」
その言葉に、ムティルは目を開く。
紫色の瞳が、モーベットを見る。
「かつて家の事、弟の事ばかりを考えていたお前は、お前自身はこれから先、何をしたいのだ?」
「俺、俺は……」
ムティルの視線が揺らぐ。
「……分からん」
漸く絞り出した、答えにもならない答え。
苦しげなムティルの表情を見、モーベットはす、と手をムティルの頬に添える。
「今は、我と戯れていたいのであればいくらでも応ずるが」
「……ああ」
「上で良いのならこのまま、下が良ければ……」
「……久しぶりの戯れだ。全て、だ」
いつもの調子を取り戻したのか、ムティルはモーベットの手を取った。
が、それ以上先に進む様子はない。
「……それで、お前はどうなんだ?」
ムティルがモーベットに問い返す。
「我、か?」
「戯れに俺に構うかと思えば主人の方ばかり気にしたり。お前は、俺をどうしたい」
やや乱暴に、モーベットを押し倒す。
戯れは続けるらしい。
「その答えが聞けたなら、俺もまた自らの先を改めて考えてみよう」
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