蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

【アガルタ】それぞれの道

リアクション公開中!

【アガルタ】それぞれの道

リアクション


★「嬉しい、とは素直に言えず」★


『……やからここの接続方法は――』
 住居から遺跡――アガルタまでは何事もなく来ることができた。
 土星くんはホッとしながら講義を始める。
 その様子を見ながら、許可のないものの遺跡内への侵入を防ぐため、リカインが入り口の警備に向かい、陽一がその場に残って護衛する。
「じゃあこっちはお願いするわ」
「はい。入り口は頼みます」
 片手を挙げて入り口へと向かっていった。

「なるほど。ここがこうなって」
 講義を受けている1人、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)がノートに講義内容を書きながらうなづいている。彼女の隣では、珍しく(?)セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)も真面目に講義を受けていた。
 ベアトリーチェは元々イコンの技術者であるし、セレンフィリティも理系女子なのだ。一般人にはちんぷんかんぷんな話を聞いて、なるほど、と頷いている。
「ねえ。つまり――ってことかしら?」
『そやな。厳密に言うとちょっとちゃうな』
 などなど質問もしているほど。

(土星くんもベアトリーチェも頑張ってる。私も!)
 美羽はそんな様子を見て気合を入れなおす。
 土星くんがどれだけ仲間と会いたがっているかを、彼女は知っていた。だから一刻も早く再会できるように、心から願っているし、協力しているのだ。
 小さな身体の美羽であるが、怪力の篭手のおかげか。大きく重い荷を軽々と担ぎ上げてトラックに乗せていく。

(土星くんの仲間と会えたら、皆で遊べるといいな)

「悪いけど、美羽さん。コレもお願い」
「うんわかった! 任せて」

 声をかけられた美羽が重たい箱たちを抱え上げ、指定されたトラックへと運んでいく。
 移動式住居は地上にあり、アガルタから少し離れた位置に停めてある。以前ならともかく、家があちこちに建っている今のアガルタに巨大な移動式住居が入らないからだ。

「……ああ、ちょっと待って。その箱の中身は?」
 箱を置いた美羽に、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が声をかける。
「えっとたしか、これがネジでこっちが――」
「そう。ならここに置いてもらってもいいかしら」
 美羽が荷物を運び込んだ創世運輸のトラックは、セレアナのものなのだ。
 そしてどう荷物を積むかと言うのは、中身を守るためにも大事なこと。セレアナは運ばれてくる荷物をチェックし、綺麗に整頓させていた。
 手元にある紙には、このトラックに乗せる部品の詳細が書かれている。

「こんなところかしら」
 もうこれ以上は無理、というところまで荷を積んだ後、セレアナは息を吐き出した。
 実のところ荷を積み上げたのはコレ一回ではない。移動式住居は巨大で、それを改造するために必要な材料は多く、さらには予備の部品も含めると、とても一度の運搬では無理だ。

(襲われる可能性も考えるとあまり重くしすぎるのは危険だし、仕方ないわね)
 さて出発しようか、とセレアナが運転席へと向かおうとしたとき

『いったん休憩するでー』
 遺跡中の拡声器らしきところから声がかかった。時間を確認すると、もうお昼になっていた。
「もうこんな時間なんだ」
「ほんとね」
 遺跡内はずっと明るいため、時間の感覚が鈍くなる。
 自分の身体を見下ろせば、疲労を感じる。昼食が用意されているようであったので、セレアナと美羽は土星くんたちの元へと向かった。

「空を飛ばすだけでいいの? どうせなら超合体変形ロボにしましょうよ!」
 弁当を受け取り、全員で輪を描きながら休憩していた中、セレンフィリティが目を輝かせて言う。
 実は改造と聞いてかなり血が騒いでいたのだ。そして土星くんが配った設計図のコピーを見て、そんな提案をした。
「セレン。何言って」
 真面目にやっていると思ったらやっぱり。
 と言った顔でツッコミをいれるセレアナだが、声を土星くんに遮られる。

『超合体変形ロボかぁ……ええな』

 ええっ?
 セレアナを始め、常識人たちは心の中で叫んだ。
「カッコいいな!」
「うんうん。楽しそう!」
 賛同するものたちも他にいて、このままでは本当に移動式住居がロボットアニメさながらの合体変形ロボになりかねなかった為、周囲で必死に説得。事なきを得た。
 休憩時間であるはずなのに余計に疲れる中、何も食べていない土星くん――食物としてのエネルギー補給を必要としないため――へ、鳴神 裁(なるかみ・さい)が駆け寄った。手にはバスケットを持っている。
「お疲れ様、スーちゃん。差し入れもってきたよ」
 はいっと裁が差し出したのは、コップに詰め込まれた何か。彼女が蒼汁(あじゅーる)と呼ぶジュースだ。
 作り方は簡単、栄養価の高そうなものを適当に鍋に放り込んで汁気がなくなるまで煮詰め、最後にアニメイトで生命を吹き込むだけ。――なるほど。だから蠢いているんですね。

 土星くんはせっかく持ってきてくれたのだから、と『じゃあもらうわ』と口を開け、そのジュースは自分から土星くんの口の中へと飛び込んでいった。

「…………」

 ソレを見た周囲が静まり返る中、土星くんはぱぁっと顔を輝かせた。
『おおっ中々ええやないか。口の中で勝手に動く感覚といい味といい、成分も中々。
 気に入った』
 土星くんは気に入ったようだ。
「ほんとっ? 喜んでもらえて嬉しいよ! あ、飲み物だけだと物足りないかなって、スイーツも用意したんだ」
『どれどれ……にゅむもくもぎゅ……美味い! いい腕しとるやないか』
 謎料理で作られたシュークリームにアニメイトで生命を吹き込んだ、名づけて「いーとみ」が、「いーとみー☆」と鳴きながら土星くんの口中に飛び込んでいった。
『この辛味が中々ええな。しかし後味スッキリしとるし』
「良かった。まだあるからどんどん食べてよ」
『そかそか。……あ、お前さんらも食後のスイーツにどうや……ってなんでそんなに離れとるんや?』

 戦々恐々としている周りを見て、土星くんは心のそこから首をかしげた。


***


 というパプニング? が落ち着いたころ、巡回を終えたリカインが戻ってきた。
「お疲れ様です。良ければどうぞ」
 そんな彼女に、ベアトリーチェがお菓子を渡し、北都がそれにあわせて紅茶を入れた。
「ありがとう」
「いえ……警備のほうはどうですか?」
「そうね。時折中に進入しようとするチンピラがいたり、運搬中に魔物が襲ってくるぐらいかしら」
 軽い口調で言いながら、リカインはふよふよと浮いている土星くんを見上げ、そういえば聴きたいことがあったのだ、と彼を呼ぶ。

「ニルヴァーナ人って、どんな人たちなの?」
 技術がすごいと言うのは分かっていても、実際の彼らがどんな人たちだったのかは分からない。
 思い思いに休憩していた者たちも、2人の会話に耳を済ませていた。

『そやなぁ。別にお前さんらとなんも変わらんと思うで。
 ただわしは、ほとんど一般人とは会話する機会のうて、技術者とか研究者としか接しとらんからなぁ』
 住居には大勢が過ごしていたが、土星くんは日々彼らを守るために奔走していたため、交友関係は狭い。
 それでもいいのなら話すが、という土星くんにリカインは頷いた。
「俺たちも聞いても良いですか」
 陽一が声をかけると、土星くんは構わないと言い、周囲にいた面々も集まってきた。

『まあ改めて話すとなると、何から話したらええんかわからへんけど』
 土星くんは頭の中で整理しながら、とつとつと話す。
 とても研究熱心で、真面目だったこと。土星くんたちを、我が子のように扱ってくれたこと。実験に失敗したときのこと。成功して一緒に奇妙な踊りをしたこと。

『今思えば奇妙な輩ばかりなんやろうけどな。でも、やっぱり……』
 顔を上げ、高度を上げた土星くんはしばし無言だった。高い位置にある顔をうかがうことは出来ないが、なんとなく。どんな顔をしているか想像ついた。
 ベアトリーチェは柔らかく微笑み、立ち上がる。

「そろそろ休憩は終わりにしましょうか」
 やらなければならないことはたくさんある。
「そうね。この設計図も、少し書き直したほうがよさそうだし」
 セレンフィリティが同意して設計図を叩く。土星くんがその一言にようやく視線を下ろした。
『どこか間違っとったか?』
「間違いではないけど、ここはこうした方がよくない?」
「そうですね。こちらの部品を使ったほうがより丈夫で素早い飛行が可能になるのでは」
『む。たしかにそうやが』
「じゃあこっちはこうじゃないかな」
『出おったな、デンガー!』
 真剣に話し始めた土星くんたちを見て、皆も立ち上がる。

「俺らも行くか。北都……ガブーリとレイギ?」
「それは止めてほしいな。でも、そうだね。もう一頑張りしようか」
「ははは。ええ、私ならまだまだいけますよ」
「じゃあ昶と一緒にこれ運んでもらえますか? 大きいので気をつけて」
「任せろ!」
「了解です」

「ね、次はどれ運んでいったらいい?」
「まったく。いつもああ真面目ならいいんだけど……ええ。そうね。大き目のはあちらに任せるとして」
「じゃあここらへんの箱かな。よっと」
「ええ……ああ。こっちを下にして」

 講義や話し合いを終え、いよいよ改造作業に入る直前。土星くんの元に一件のメールが届いた。
 宛名はルカルカ・ルー(るかるか・るー)。内容は、自分たちは行けないけど頑張って、というものだ。

『街も大変みたいやな……でもまさか工場がこんなににぎやかになるとは』
 故郷とも呼べるこの場所の風景は変わってしまったが、また再びこの場所に活気があふれるのは、なんだかこそばゆい気がした。

「土星くーん、始めるわよー」
『おおっ今行く』