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リアクション
レン・オズワルド(れん・おずわるど) リィナ・コールマン(りぃな・こーるまん) 大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう) 斎藤 ハツネ(さいとう・はつね) 天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)
血のにおいがする。
気のせいかもしれない。でも、音は聞こえた。
ならば、たしかめに行くだけだ。
レン・オズワルトはパートナーのリィナ・コールマンと二人、真実の館の廊下を走った。
トレ−ドマークといってもいいサングラスを館内でもかけ、赤のロングコートをひるがえして、全力で駆けてゆくレンの姿に、彼とすれ違った館の使用人たちは、みな、けげんそうな表情で足をとめる。
しかし、誰かが声をかけようとしても、レンたちはその言葉が届くまえに走り去ってしまう。
冒険屋ギルドの創始者であるレンは、長年の幾多の冒険から得た直感を信じて、大ホールへの扉を開けた。
「うるせぇな。掃除中だ。よけいな埃をたてるんじゃねぇよ」
白の大理石が敷かれた床を柄つきモップでふいていたのは、長い黒髪を後ろで一つにまとめた、和服の姿の小柄な男だ。
ホールには彼一人しかいない。
鞘入りの日本刀を腰につけた着流しのこの男をレンは、知っている。
大石鍬次郎。
以前、移動刑務所兼少年院コリィベルでは、レンを襲撃したこともある、凶悪な犯罪者、元新撰組の人斬りだ。
大石のほうもレンが誰か気づいたらしく、表情のない目をこちらにむけ、唇の片端をつりあげた。
「ここでなにをしている。
おまえはマジェスティックに自由に出入りできる立場ではないはずだ。
コリィベルでの一件、かってのマジェでの人斬り事件。
どれも、まだ法の裁きを受けてはいないだろ」
「ククククッ。
そうだな。まだ、な。
ハッ。
まだ、ってなんだよ」
レンに続いて入ってきた、研究者風の白衣の女性、リィナは、レンと大石のやりとりにかかわらず、大石がモップがけをしていた場所に近づき、床に片膝をついた。
従軍医の経歴を持つリィナは、鞄から器具をとりだし、数滴の薬品をスポイトで床にたらすと、筒形の小型ルーペを片目にあて、顔を近寄せ、無色だった薬品の変化を眺めた。
「やはり、血だ。
レンのカンは正しかった。ここには真新しい血が流されたばかりだ」
「大石。おまえは、どういう意味の掃除をしていたんだ」
リィナに頷くとレンは、サングラス越しに鋭い視線を大石にむける。
「いちいちうるせーな。
俺はてめぇとくっちゃべってるヒマはねぇんだよ。
予期せぬケガ人がでたんで、ハツネと葛葉が応急手当をしてやって、丁寧に病院に運んでやってるってぇのによ。ボランティアで後片付けの掃除をしてやってる俺にまでからむのかよ。
てめぇ、疑心暗鬼じゃねぇのか、職業病だな。
誰も信じられねぇ、かわいそうな男だぜ」
「ヒマがないのなら、ここでなにがあったのか、さっさと教えてくれればいい」
ルーペで床を観察したまま、リィナが素っ気なく状況説明を催促した。
大石は無言でしばらく、大きな傷跡のあるリィナの横顔をみつめていた。
従軍医としての過酷な過去は、リィナの顔だけでなく、全身、そして心にも数えきれない傷跡を残している。
「くわしくは俺も知らねぇな。
ただ、上の階のどっかから、ここに落っこちてきたやつがいたから、この館にご厄介になってる恩義もあって、俺たちはお節介をしてるだけだ。
どこのどいつがどんな理由で落ちたのかなんて、俺にゃ関係ねぇし、興味もないな」
「おまえは、なにをしにここへ来たんだ」
たかぶる気持ちをおさえながら、レンが再びたずねる。
「しつけぇな。
なにもこうも、俺たち、大石鍬次郎、斎藤ハツネ、天神山葛葉の三人は、今回の3つの殺しの犯人ってやつだ。それこそ、ずっとむかしからあちこちでしてきたのも数えりゃ、3つじゃとてもたりねぇけどな。
ハハッ」
「それは本当なのか」
「なんだそりゃぁ。
俺が本当だと言ったら、てめえはそれを信じるってのか。
人を疑うのが習慣になっちまっているてめえがよう。
俺たちは事件の犯人として、アンベール男爵に真実の館に招待された。
そして、いまはただ居候させてもらうのもなんなんで、掃除をしてやってる、ってとこだ」
「札つきの犯罪者にしては殊勝な心がけだ。
先に言っておく、男爵の考えがどうであろうと、俺は、一連の事件の犯人に法のもとで裁きうけさせるためにここへきた。
3日間の間に俺は真犯人を突きとめて、そいつを捕え、ヤードに引き渡す。
おまえらにその邪魔はさせない。
おぼえておいてもらう」
レンの宣言に、大石はわざとらしく大げさに肩をすくめる。
「なら、さっさと俺を逮捕すりゃいいじゃねぇか。
俺は犯人だぜ。まぁ、取り調べとやらにはすべて黙秘するがな。
思い出したり、話してやったりするのが、メンドくせぇんだよ」
「逮捕か。
おまえが真犯人なら、近いうちに、な。
とりあえずいまは、転落した人物について知りたい。
おまえたち以外に、目撃した人間はいないのか」
「知るかよ。
俺たちだってたまたま見ただけだからな。
落ちたからには、落としたやつがいるのかもしれねぇが、いま、この館には、招待されたヤバイやつらばかりが集まってきてるだろ。
いつまでも、俺にへばりついてないで、どいつでもいいから、適当に話をきいてまわってみたらどうだ」
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