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リアクション
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき) 布袋 佳奈子(ほてい・かなこ) エレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす) ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)
葛城吹雪が墜落するのと、彼女が落ちた途端、すぐに大石たちがホールにきて、ケガ人の搬出をふくめ、素早く処理した一部始終を3階の階段から手すり越しにみた布袋佳奈子は、パートナーのエレノア・グランクルスと2人で困惑していた。
「私が1番、不思議に思うのは、あの人がどこから落ちたかってこと。
どうみても、急に天井から降ってきたようにみえたんだけど、何度、見直しても天井には穴なんてあいてないし」
「私も佳奈子とほぼ同時にあの人が落ちてゆくのを見たと思う。
だからやっぱり、天井裏に隠し部屋みたいなものがあって、そこから落ちたんじゃないの。
あとは、テレポーテーションで出現場所に失敗したとか。
隠し部屋とテレポートなら隠し部屋のほうが可能性が高いでしょ」
2人の少女は、それぞれ佳奈子はメイド見習い、エレノアは執事見習いとして、この館でアルバイトをしており、さっき、館内の掃除中に墜落事件? を目撃した。
しかし、人が落ちたというのに大石たちがすぐに片づけてしまうし、少なくとも3ダースはいるはずの館の使用人は誰もこないしで、佳奈子とエレノアとしては、まさに、え、私たち、みたんですけど、どうすればいいですか、という感じなのである。
「どうしよう。執事長か、メイド長に報告したほうがいいよね」
「それはそうだろうけど、まずは、あの人が転落した場所をたしかめにいった方がよくない?
もし、そこでなにかがあったのなら、他の人にまで迷惑がかからないようにしないといけないし」
佳奈子もエレノアも髪の色は薄茶と金と違うが、2人とも、身長160cm弱の中肉中背の同じような背格好の少女たちである。
パッと見は、どちらもおとなしく優しそうな女の子なのだが、中身は外見ほぼそのままの性格の佳奈子に対し、エレノアはかなりの正義漢だ。
「でも、私たちだけじゃ危ないかも」
「うん。それもわかるけど、あんな事故が起きたってことは、かなり危険な状態であるって証拠よね。
次の被害者がでたりしたら大変だし、やっぱり、私、様子を見に行ってみるわ。
佳奈子は上の人に報告に行って」
走りだしたエレノアに佳奈子はあ然としてしまった。
えー、私を残して1人でいって危ないめにあったら、それこそどうする気よ。
「待って。私もいく」
自分の方向音痴を自覚している佳奈子は、エレノアを見失わないように必死に追いかける。
アルバイトしてても、このお屋敷はやたらに複雑に入り組んでて、毎日、迷ってるんだからっ。
佳奈子がついてきたのに気づいたらしく、エレノアは前をむき、駆けながら、後ろへ手をのばした。
佳奈子は彼女の手を握って、2人は手をつないだまま、階段をのぼる。
「どこへ行く気」
「とにかく上へいくの」
「落ちてきたのは間違いないから、それはそれで正しいでしょうけど。
私、そんな、上の階へなんて行ったことないから、どうなっているかわからないよ」
「ごめん。私もよ」
頼りない会話を交わしながらも、二人は走る速度を落とさない。
数分後、はじめての階段や廊下を散々、駆けまわったあげく、二人は館の天井がすぐ近くにみえる、踊り場へとたどりついたのだった。
そこには誰もおらず、手入れされた赤い絨毯が敷かれている。
「ここから手スリをこえて吹き抜けに落ちれば、さっきの人みたいになるんじゃないかな」
乱れた息を整えながら佳奈子は、つぶやく。
「ええ。でも、私には」
いぶかしげにエレノアはあたりを見まわしている。
「あの人は天井の中からでてきたみたいに思えたんだけど」
それは、私もそうだけど。
「まぁ、それは、私たちの錯覚で、やっぱりここから落ちたんだよ。
きっと、だって、ほら、天井にはどこにも穴もドアもないしさ。あの人は、ここから、きっと」
「にしても、踊り場の手スリから10数メートル下へ落ちるなんておかしいよね」
「お酒でも飲んでてバランスを崩したとか」
「だったら、悲鳴くらいあげる気がしない。
あの人、黙ってたよね。
なんだか、顔とか、腕とか、体中、傷だらけだったような。落ちた時すでに失神していたのかも」
「うーん。どうだっただろう」
エレノアの言う通りだった気もするけど、どうだったけっ。
腕組みして考えている佳奈子の側に、エプロンをつけたドラゴニュートが近づいてきた。
「おまえたちはなにをしているのだ」
「わっ。ブルーズさん。びっくりさせないでよ」
ブルーズ・アッシュワースは、調理師として館に雇われているアルバイトで、同じバイト仲間として佳奈子とエレノアとは、いちおうの面識はある。
働く場所が違うために廊下であったときに挨拶をする程度で、会話らしい会話を交わしたことはほとんどない。
「おまえたちこそ、さっきからここでなにをしているのだ。ドタバタと大きな音がしたぞ。
悲鳴も聞こえた。
我は調理場でじゃがいもの皮をむいていたのだが、気になってみにきてみたのだ。
今夜からは大事な客人たちがくるというのに、見習いとはいえ、執事とメイドがそんなふうではよくないだろう」
ドタバタ?
悲鳴?
「それは私たちじゃない」
天井を眺めていたエレノアがブルーズに顔をむけた。
「私とエレノアは、下でここから人が落ちてきたの目撃して、なにか起きたんじゃないかと思って、調べにきたんです。
だから、ドタバタも、悲鳴も私たちのじゃ、ありません」
「人が、落ちたのか」
ブルーズは手スリに歩みより、吹き抜けから1階のホールをのぞきこんだ。
「なにもないではないか。ウソをつくな」
「いいえ。すぐに人がきて片付けちゃったの。だから、いまはもうなにもないけど、私もエルノアもほんとうにみたの」
顔をあげ、ブルーズは佳奈子の瞳をみつめた。
ブルーズさん、私たち、ウソつきじゃありません。信じてください。
佳奈子は想いをこめて、ブルーズをみつめかえした。
「わかった。おまえたちの話を信じるとしても、それはそれで奇妙な話だな。
まったく、持ち主も持ち主だし、この館には奇妙なことが多すぎるぞ。
天音はなにを考えておるのだ」
「そうよね」
終わりのほうは、口の中でむにょむにょと言っていて聞き取りづらかったが、佳奈子は相槌を打つ。
「私も同じ意見。
ここで働いてるとスタッフの人からもヘンな話をよく聞くもの。
深入りすると身に危険が及ぶとかで、みんな深くは追求しないけど、ヘンなものはヘンよ。
そういえば、男爵様に呼ばれてきた、なんとかっていう神父さんが、幽霊をみたって青い顔してぶつぶつ言っているのを聞いたわ。あの人、「ママンの幽霊」って言った。昼夜を問わず悲鳴や怪しい物音が聞こえるっていう人もいるし、それもこれもみんな、幽霊の仕業かしら」
「それは違うであろう」
「え」
ブルーズがあまりにもきっぱりと否定したので、佳奈子もエルノアも、思わず声をそろえてしまった。
「神父が悩み苦しんでいるのは、やつの日頃の行いが悪いからだ。
我が思うに幽霊の件は、神父の勝手な思い込みであろうぞ。
気にする必要はすこしもないのだ。
そうだな、そもそもおまえたちは、墜落してきた者が気になってここまできたのだったな。ならば、ついでに、この屋敷の天井裏を調べてみたらどうだ。
我は常から、非常時の保存食の置き場としてその一部に出入りしておるのだ。
館同様、かなりの広さがあるのでな、我も全体を探索したことはない。
ほら、鍵なら持っておるぞ。入り口はこちらだ。一緒にこい」
「あ、あの」
「屋根裏部屋など、じゃがいもとあいつのための衣装があるだけで、なにもないとは思うがな。
昨夜もゴーストハンターとやらがきたので、事情を説明してみなかったことにしてもらったのだ」
「いま、衣装がどうとか言ったよね」
「衣装じゃなくて、事情じゃなかった」
「知らぬ」
強引に話題をはぐらかされる感じで、天井裏に誘われた二人は、それでもやはり気になってしまってブルーズについてゆく。
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