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無人島物語

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無人島物語

リアクション

 ちょうど同時刻。
 無人島の上空に、二機の『聖邪龍ケイオスブレードドラゴン』が姿を現した。
 乗っているのは、それぞれ二人ずつ四人の少女たち。
『聖邪龍ケイオスブレードドラゴン』は、島の上空を旋回し、位置を確認すると浜辺に急降下してくる。
「おーーーーっ!」
 と島の浜辺にいたメンバーが歓声を上げた。
 初めてこの浜辺に外部から人がやってきたので、皆はようやく救援部隊が駆けつけてきてくれたのか、と安堵した。案外早かったな……これで帰れる。
 だが、そうではなかった。
「無人島さんに着いたの〜! 探検を始めるのー!」
 浜辺に着陸した『聖邪龍ケイオスブレードドラゴン』から及川 翠(おいかわ・みどり)が降りてきた。
 続いてパートナーの徳永 瑠璃(とくなが・るり)も浜辺に降り立った。
「なかなかよさそうな島ですね。冒険しがいがありそうです」
 もう一機の『聖邪龍ケイオスブレードドラゴン』からは、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)ノルン・タカマガハラ(のるん・たかまがはら)と言う二人組み。
「みんないるですの〜。探検のお祭りですの〜」
 翠は、浜辺に集まってきている全員が彼女たちを注視しているのを知って喜んだ。聞いていたより楽しそうなお祭りだ。
「やれやれ、無人島ともなると、翠も瑠璃も止まらないから。……皆さんにご挨拶していくのよ」
 翠と瑠璃のお目付け役としてついてきていたミリアは、ぺこりとお辞儀をすると集まってきていた浜辺の住人たちを通り過ぎていく。
 あれ……? とみんなが思った。救援部隊じゃないのか?
 百合園学園生10歳の翠は、完全に勘違いしていた。
 桜井 静香(さくらい・しずか)から聞いた遭難者捜索依頼を探検依頼と勘違いし、好奇心が刺激されてしまい無人島を目指して一路空をやってきたのだった。
 地図も調査も彼女らには関係なかった。
 とにかく無人島。好奇心のまま、あてずっぽうに適当に無人島を目指しただけだったのだが。遭難から2日後に遭難者の居る無人島に見事辿り着いてしまったのだ。恐るべし子供たちだった。
「ああ、来てしまいましたのね、無人島に……」
 翠や瑠璃の好奇心に押し切られて無人島までやってきたノルンは、ぼんやりと海を見ていた。これからどうなるんだろう……。
「?」
 ふと、海の向こうに見覚えのある男の姿が見えたような気がしたのだ。目を凝らして確認してみる。
「え?」
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス! 以下略」
 ドクター・ハデスが海モンスターをけしかけて迫ってくるのを、ここからでもしっかりと確認できた。
「あらっ? あの顔、そしてこの耳障りな高笑いはもしや……。やはり、高天原御雷!」
 ノルンは、ハデスの本名を呼んだ。ドクター・ハデスの異母兄妹がノルンなのだ。
「よくもまあ、このわたくしの前におめおめと姿を現したものですね、高天原御雷! ここで遭ったが百年目ですわ、お覚悟を!」
 ハデスと深い因縁があるノルンは、この場で迎え撃つことにした。
「え、やるんですか? 皆さん見ておられますし、騒ぐのはやめておいたほうが……」
 瑠璃は言うが。
「あなたも手伝いなさい!」
 ノルンに迫られ仕方なく迎撃の準備をする。
「えっ、ハデスさん高笑いしてるの? いつも通りだけど、何となく面白そうなの!」
 島の探検に出かけようとしていた翠は、ハデスと聞いてノルンの傍に駆け寄ってきた。よくわからないけど、なんとなく面白そうだと翠は迎撃に参加することにした。
「仕方ないですわね」 
 と言いつつも、とりあえず、翠や瑠璃の興味がハデス達に移行した事に内心ほっとするミリア。
 フルーツ取りをしていた高天原那美や恭也も、他の仲間たちを引き連れてやってくる。
 浜辺は一気に騒然となった。
 海モンスターが浜辺へ上陸し、襲い掛かってきたのだ。
 一気に戦闘が始まった。
「一体何が起こっているんですか?」
 それまで、目立たず島でひっそりと暮らしていたアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)が様子を見に浜辺へやってきた。
 遭難した後、何も持たず武器もなく、服も植物の葉で作った簡易水着しか着ていない。
 大勢人が集まっているのを見て、何気なく海に視線を移す。
「え、ええええ!? ハデス様!? それにキロスさんまで、何をやってるんですか!?」
 海モンスターを引き連れて襲撃に来たハデスとキロスをみて、アルテミスは声を上げた。
「どうしたのですか?」
 こちらは、アルテミスと一緒にいたペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)だ。彼女も、浜辺をみて驚いているようだ。
「あ〜っ、アルテミスとペルセポネさんなの! 一緒に、ハデスさん迎撃するの!」
 翠がアルテミスたちに気づいて声をかけてくる。
「あら、皆さんまでお揃いで」
 翠たちを見回して、アルテミスは事情を察した。
「貴女たちも、キロスさん達を止めようと……!?」
「そうなの! もう始めるの!」
 翠はハデスたちのほうへと駆けていく。
 それをなんとなく見送って、アルテミスはノルンのペンダントに気づいた。
「あれ、あなたは……?」
「え……?」
 アルテミスを見たノルンも視線を釘付けにする。
「あなた、もしかして親戚の方……?」
 アルテミスはノルンに聞いた。ノルンが身につけているブルーネックレスが一族の証だったからだ。
「失礼ですが、母親の名は……?」
 ノルンの問いにアルテミスが答えると、ノルンは、ああ、やっぱり……と頷いた。
 アルテミスとノルンは、母方の親戚同士だったのだ。こんな場所で、まさかの運命の邂逅であった。
 二人はしばし見つめあう。
 だが、それを遮るように、浜辺でドーーーン! と爆音が鳴り響いた。
「もっといくの〜!」
 接敵した翠は、『空飛ぶ魔法↑↑』で空を飛びつつ、機晶爆弾をハデス目掛けて投げつけていた。
「そうでした。私も戦わないと!」
 アルテミスは一気に現実に引き戻される。ノルンと一緒にハデスたちを迎撃だ。
「ハデス様! キロスさん! 海の生物たちに言うことをきかせ、無人島を我が物にしようとは、騎士として見過ごせません!」
 すぐ傍でぼんやりと様子を見ていたペルセポネを叱咤する。
「あなたも手伝いなさい。あの二人を止めないと、大変なことになりますよ!」
「そ、そうなんですか!? そうですね!」
 ペルセポネはアルテミスの言葉に、二人の悪事を止めなければとやる気になった。
「機晶変身っ!」専用のパワードスーツを装着しようと、変身ワードを叫ぶペルセポネ。【ブレスレット】が光輝き、身に着けている葉っぱの水着が光の粒子になって消えていく。
 そして、光の中から現れたのは……。露出度の非常に高い【アーマー】を身につけただけのペルセポネだった。
 遭難したときに【ブレスレット】が濡れて故障してしまったせいで、不完全な変身になったようだった。
 だが、そんな格好など気にすることなく、ペルセポネはハデスとキロスの方へと突撃していく。
「ハデス先生っ! アルテミスお姉ちゃんのご指示により、悪いことはメッ、です!」
「見損ないましたわ、キロスさん! ハデス様はともかく、あなたまでそんなことに加担するなんて! この私が性根を叩きなおしてあげます!」
 アルテミスも、海モンスターなどそっちのけでキロスに向かっていった。
 その瞳は正義感に燃えている。が、実は違った。 本人はキロスに対する対抗心と思っているが、恋心を抱いているのだ。その思いの丈をぶつけるべく、アルテミスは攻撃を繰り出す。
「ほう、アルテミスにペルセポネよ。主であるこの俺に楯突こうというのか? いいだろう、ならばお仕置きだ!」
 ハデスは、くくく……と笑うと、連れていた【クラーケン娘。】たちをけしかける。
「きゃ、きゃあっ、服がっ!」
 キロスに気を取られていたアルテミスは、足元から迫ってくる【クラーケン娘。】には気づいていなかった。あっという間に触手に絡め取られる。
 簡易水着はあっけなくはだけて落ちた。戦闘のような激しい行動はデンジャラスだったのだ。
「や、やめてくださいっ! 変なところ触らないでください!?」
 アルテミスがもがけばもがくほど戒めは強くなっていく。
「アルテミスお姉ちゃんっ! 今助けます!」
 ペルセポネは【クラーケン娘。】に立ち向かった。不完全な変身で。上手く力も入らず、こちらも簡単に捕らえられてしまった。
「いやぁん。何か絡み付いてきました!」
 恥ずかしがるペルセポネに触手が襲いかかる。
「……へっ? きゃああっ! 見ないでくださいっ!」
 いやな感触にペルセポネは悲鳴を上げる。
 アルテミスとペルセポネは触手に思うままに蹂躙され始めた。
「い、いやぁ……っ、それ以上は、やめてくださいっ……。んあぁぁぁっっ」
「ひ、ひぃぃっっ、だめぇ、こんなの、だめですぅ……」
 その光景を眺めながら、ハデスはくくくと笑った。
「俺に逆らうから、そういうことになるのだ。俺に心から忠誠を誓うなら、助けてやらんでもないぞ?」
 作戦は、なかなか順調だ。気分がいい。ハデスは偶然目の前に流れてきた、りんごのような果実を見つけ何気なく手に取った。
 ちょうど小腹もすいていたところだ。なかなか美味そうだったので、ハデスはりんごのような果実をかじった。美味い! 勝利の味かも知れなった。
「ふははははは!」
 彼は、高笑いを上げる。
「『レジェンドストライク』ぅ!」
 次の瞬間、翠のスキルが命中する。
「ぐあああああっっ!?」
 完全に油断していたハデスは、まともに食らった。
「いい加減にしなさいっ!」
 モンスターたちに阻まれてハデスに近づけていなかったミリアが接敵してきた。『剛魔剣ヘルサンダー』を海に叩きつけて、相手の感電を狙う。
「あ、ああああああっっ!」
 アルテミスが巻き込まれて感電した。触手で弄られながら電気ショックをうけ、ちょっとヤバい状態になっている。
「ああ、ごめんなさい!」
 ミリアは、謝るもののハデスはまだ健在だ。『裁きの光』や『ファイナルレジェンド』で続けざま攻撃を加える。
「ぐはああああっっ!」
「『凍てつく炎』続いて、『ファイアストーム』!」
 瑠璃も攻撃をハデスに直撃させた。
「……ぐ、ぐぐぐ」
 ハデスは相当なダメージを受け、退散することにした。
「くっ、今日のところはこの辺で勘弁しておいてやる。覚えていることだ!」
 ハデスは、乗っていた大亀を反転させようとして。
「……ん?」
 足元に何もないのに気づいた。
 瑠璃が、従者の『マーメイド』に手伝わせ、ハデスの乗っていた大亀を連れ去っていってしまったのだ。
「ぶくぶくぶく……」
 ハデスは、沈みかけたが、すぐに海面に浮いてきた。
「くくく……、惜しかったな。俺は滅びぬ」
 大亀がいなくても何とかなる。泳げばいいだけのこと。
ハデスは、そのまま去っていこうとして。
「……!?」
 腹部に急激に違和感が襲った。腹が、とても痛い……! この痛みは!?
 それは、ハデスが先ほど食べてしまった果実の効果だった。
 ハデスは全然知らなかったことだが、それは洞窟を探検していた無謀な冒険者たちが見つけた『伝説の美容にいい果実』だ。その一つが、転がり出し、偶然波間を漂っていたようだった。
 新陳代謝を急激に活性化させ、体内の悪い成分を全て排出して、ダイエットに最適な効果をもたらす。
 超強力な下剤だった。
 今頃、洞窟では阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
 ピーーーーー!
 ハデスの腹が鳴った。
 これはやばい、やばすぎる。今すぐトイレを探さないと……。もちろん、無人島にあるはずがなかった。
「……」
 ハデスは、悟りを開いたように海に沈んでいく。そして、再び皆の前に姿を現すことはなかった。