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リアクション
いち早く寝室を捜査していた騎沙良詩穂が、構成員を発見した。
敵は従業員になりすまし、隙をみて逃げ出すつもりだったのだが、次々と契約者が現れるので作戦を変更。
「た……助けてください!」
大胆にも、鏖殺寺院に襲われたふりをして、詩穂とたいむちゃんに助けを求めてきたのである。
だが、彼の思惑は詩穂の【嘘感知】によってなんなく見破られた。
「くっ……。俺はこんなところで捕まるわけにいかない! レイ様の待つ、グラウンド・ゼロにたどりつくまでは――!」
構成員は脱兎のごとく廊下を走りだし、逃亡を図った。
そこへ駆けつけたのは、フレンディスだ。
「逃がしません!」
【壁抜けの術】を使って敵を追い詰める。彼女の表情からは、いつものぽやぽやした雰囲気は消えていた。
「私は、あなたたちを絶対に許しません」
殺すことに躊躇のない、残忍な光が、彼女の瞳に宿っている。
「潔く諦めちまったほうが身のためだぜ」
フレンディスと構成員の間に割り込むようにして、ベルクが脅迫的に告げる。
「知っていることを聞かせてもらおうか。ああ、ひとつ忠告しておくが。お前に黙秘権はねーぜ?」
精神を狂わせる器『闇に囁く蝙蝠』をちらつかせながら、ベルクは言った。
一見すれば非情に思える彼の言動だが、それもすべては、怒りに駆られたフレンディスが殺戮に至らないための配慮である。
「……わかったよ。ひとつだけ、大切なことを教えてやる。よく聞いておけよ」
構成員は両腕を上げると、力なく肩をすくめながら、こう続けた。
「お前らに教えることは――何もねぇ!」
彼は叫ぶと、奥歯に仕込んだ毒で自殺を試みた。
「そんなことさせないよ!」
聞こえてきたのは、詩穂の声だ。だが、彼女の姿はどこにも見えない。
「ぐはっ!」
といううめき声をあげて、構成員はひとりでに倒れた。
よく見ると『神の衣』で気配を消していた詩穂が、背後から回り込み、抑え込みをしかけているではないか。
「ふぅ……。間一髪だったね」
追いついた空京たいむちゃんが、ホッと胸をなで下ろしていた。
捕らえた構成員を、彼女たちは寝室に連れ込んだ。
詩穂やフレンディスたちの他に、ジブリールも到着。さらには柊恭也、酒杜陽一とフリーレ・ヴァイスリートのコンビも、尋問のために合流した。
「こいつは死を覚悟している。ということは、単純な死の恐怖では、自白しないということだ」
陽一はそう言って、『どぎ☆マギノコ』を取り出した。
なんと彼は、自分に惚れさせて、堅く閉ざした構成員の心を開かせようというのだ。パートナーのフリーレも、彼に倣っている。
ふたりは『魅惑のマニキュア』で爪を彩り、魅了効果を高めた。陽一は【幸せの歌】、フリーレは特技の説得や魅惑も駆使するが――。
構成員は、口を割らなかった。
「色仕掛けなんて、回りくどい事する必要ねーぞ」
彼らを遮ったのは、恭也である。
「たしかにこいつは死を覚悟してんだろう。だったら逆に、『早く死なせてくれ』と思うような
尋問をしてやればいいのさ」
恭也は白刃一閃を抜くと、構成員の右腕をめがけて振り下ろした。
スパッ。
と、空気を切り裂くくらい軽やかに、構成員の前腕は切断された。骨がむき出しになった断面図から、血が流れだす。痛みは遅れてやってきた。
「う……うあぁあぁぁ……」
呻く構成員の胸ぐらをつかむと、恭也は冷徹な声で囁いた。
「話せよ。核ランジェリーの止めかたを。そうすりゃ、しっかり休ませてやるぜ。――永遠のお休みをな」
そして恭也は、構成員の上腕の皮をじわじわと剥いでいった。
寝室で尋問が行われているころ。食堂の厨房にも動きがあった。
神崎荒神が、床下から《アトラスの瘡蓋》のレプリカを大量に見つけたのだ。
「どうやら、これらはすべて核反応を終えているようだな」
レプリカを調べていたテレサ・カーマイン(てれさ・かーまいん)が、その診断結果を告げる。
放射線はすでに出ていないようだが、それでも確実に安全なシロモノとはいえないだろう。用意した密閉ケースは満杯になり、もう詰め込めるものはなかった。
「なら。わたくしが食しましょうか」
アルベール・ハールマン(あるべーる・はーるまん)が、レプリカをガリガリとかじり始めた。
「おいおい。そんなもの食って大丈夫なのか?」
「ちょっと苦味が強いですが。コクがあっておいしいですよ」
「いや、味の心配はしてねーよ」
荒神が呆れたように呟いた。パートナーの突っ込みも気にせず、アルベールはレプリカを食べ続ける。
「……お前の存在は頼もしいなぁ」
「主もいかがです?」
「俺はいらねぇから、食えるだけ食っちまえ」
荒神が苦笑しながらそう告げたとき。
厨房の入り口で、人影が動いているのが見えた。
構成員である。
敵は大量のレプリカを回収しにきたのだが、荒神たちの存在に気づき、慌てて逃げようとしていた。
「逃さへん。ワレには聞きたいことが、ぎょうさんあるからのぉ」
及川 猛(おいかわ・たける)が、すばやく構成員の腕をつかむと、そのまま締めあげた。
彼らが聞き出したいのは《多国籍企業ZERO》および《八紘零》についてだ。
レプリカを食べるのを中断したアルベールが、荒神に訊く。
「主。こいつも食べましょうか?」
「お前は、石だけを食ってればいい」
荒神はアルベールを制すると、及川に言った。
「尋問はまかせたぞ。……まぁ。殺さない程度にな」
その後、及川は情報を聞き出すために、極道ばりの取り調べをおこなった。爪を剥ぎ、指を折り、耳を切り落とし、眼球をくり抜こうとしたところで、ようやく構成員は口を割った。
しょせん下っ端なので、得られた有力な情報は少なかったが――。
彼は気を失う直前、及川に向けてこう囁いた。
「貴様のやり方など……拷問島での生活に比べたら……屁でもない……さ」
「拷問島、やと……?」
気絶した構成員を見下ろす及川の顔は、驚愕に歪んだ。
そんな彼に、テレサが訊いた。
「どうしたのだ。いつもだったら、『おう、カバチたれるしかないんやろが、このクソ馬鹿たれが』くらい言うくせに。なに呆気にとられている?」
「……まさか、その名を聞くことになるとはのぉ」
「こらこら。一人で納得してないで、早く教えるのだよ。なんなのだ。その拷問島というやつは?」
急かすテレサの問いかけに、及川はサングラスを押し上げると、重々しく話しはじめた。
彼は《蠱毒計画》の後も独自に調査をすすめ、とある製薬会社に行き当たっていた。会社はすでに解体されていたものの、その先のつながりを調べていくうちに、ひとつの噂を耳にする。
シャンバラの西地方――葦原島の付近にある、無人島の噂だ。
その島では、製薬会社によって化学兵器の研究が進められていた。だが、ある日バイオハザードが発生し、島全体が感染する。
ただちに島の保有者は、被験者を残したまま、人の出入りを禁止したという。
完全に閉鎖され、地図からも消されたその島を、いつしか人はこう呼ぶようになった。
――拷問島と。
「くだらん都市伝説やと思っとったが……。にわかに信憑性がでてきたわ」
及川がつぶやいた時。
食堂の方から、常軌を逸した笑い声が轟いた。
ついに、リトル・ウーマンとの戦いがはじまったのである。
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