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リアクション
VS ファット・ガール
ファット・ガールも動き出していた。
体育館付近。零が送り込んだ刺客との、ラストバトルがはじまる。
「タカネザワリコ、だっけぇ? さっさと死んでほしいんですけどー」
ファット・ガールが、その名の通りファッティな胸を見せつけながら、理子と対峙していた。
「ってゆーかぁ。レイ様のために生きていい女なんて、あたしくらいなもんなんだけどねー。その他の女はみんな死ね、って感じ? きゃはは」
名実ともにナスティな黒ギャルの前に、颯爽と登場したのは、風森 巽(かぜもり・たつみ)こと仮面ツァンダーソークー1だ。
「黒幕の正体を掴めたと思えば、先手をうたれてこれか……」
ソーク―1はマスクの下で、悔しそうに歯噛みした。
どうにか後手に回るのを防ぐ為にも、ここらで相手の目的を追求しておきたい。
凶行を止めるために。黒幕の情報を得るために。――そしてなによりも、子供たちを護るために!
とはいえ、目の前の女性は零によって洗脳を受けているという。無闇に洗脳を解いてパニックになったら、核ランジェリーを脱ぎだしてしまうかもしれない。
他の契約者が解除法を聞き出すまで、ここは時間稼ぎに徹しよう。ソーク―1はそう判断した。
「貴女はどうしてそこまで八紘零に心酔している?」
ソーク―1は、黒幕の正体を暴く狙いも兼ねて、零の話題を振った。
「ぜひ、聞かせてもらいたいね。我は一度も会った事がないし」
「レイ様はめっちゃ凄いんだから! なにが凄いかってね……その、言葉じゃ言えないくらい凄いの!」
洗脳されているからなのか、もともと頭が悪いのか。ファット・ガールは要領を得ない返答をする。
「とにかく凄いの! そんな凄いレイ様の愛人になったあたしだって、チョーすごぉいんだから!」
「愛人……ねぇ」
ソークー1が首をかしげる。蠱毒計画、アトラスの瘡蓋強奪、そして今回の代王暗殺。
愛人の死まで前提にした計画に、どれほどご立派な目的があるというのか。「
「八紘零は、一体なにをする気だ?」
「むずかしいことは、あたしにもわかんない。でも、レイ様がやることなんだからきっと良いことだよ! みんながアゲアゲになっちゃうような、すごーく凄いこと」
「誰かに犠牲を強いる奴が……ヒトを幸せにできるもんかっ!」
ソーク―1の正義の雄叫びが、ニルヴァーナの蒼空に木霊した。
「そんな……大声ださなくってもいいじゃん」
いきなり怒鳴られて、たじろぐファット・ガール。
その隙に、ゴッドスピードをかけたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、西シャンバラ代王のもとに駆けつける。
「お待たせ、理子! 怪我はない?」
「ええ。平気よ」
理子が無傷であることに安心すると、ルカは、『朱雀』による火球を投射。ファット・ガールに引火しないぎりぎりの位置へ、火の塊を落とす。
「な、なにすんの! 危ないでしょー!」
敵が火球に気を取られているあいだに、【ポイントシフト】で理子の真後ろに出現したルカは、すばやく彼女を抱き上げた。
「理子、ちょっと重くなったんじゃない? みたらし団子の食べ過ぎよ」
「なっ……そんなことないわよ!」
「えへへ。冗談♪」
ドラゴンアーツを持つルカが、女性ひとり抱きあげるくらい、造作もなかった。
ルカが理子を移動させるのと入れ替わるように、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がファット・ガールの前に【ポイントシフト】した。
「事情が事情なんでな。いざとなれば、貴様を殺す」
ダリルは、左手に実体化させた銃を向けた。
今はまだ教導団による妨害電波が、ファット・ガールの核ランジェリーを止めている。しかし、再び活動をはじめたら。
ダリルは躊躇なく、彼女の脳天を撃ちぬくつもりだった。
「そう簡単に殺しはさせぬよ。そこの女子(おなご)を守るのが、わらわの仕事じゃからのぉ」
ダリルの前に現れたのは、ファット・ガールよりもさらに若い少女――。
辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)であった。
新たな敵は彼女だけではない。刹那とは反対の位置にあたる、体育館の屋根では。
【カムフラージュ】で身を隠すイブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)が、スナイパーライフルを構えていた。。
ふたりは零によって雇われた殺し屋――第七の不愉快な仲間たちだったのだ。
「……任務遂行、開始シマス」
ダリルを捕捉したイブが、静かにライフルを発砲する。
放たれた弾丸が彼に直撃する寸前。
危機を察知したダリルは、紙一重でショックウェーブを発動し、弾丸をはじき飛ばした。
「何者だ!?」
弾道から敵の位置を測定する。イブの姿を見て取ったダリルは、すぐさまポイントシフト。
「今日は狂った機晶姫がよく集まるな。どうだ、お前も治してやろうか」
機晶姫医師のダリルが、イブに皮肉な笑みを投げかけた。
「目標ヲ、排除シマス」
イブは両肩の六連ミサイルポッドを発射、合計12連のミサイルでダリルを迎撃する。ショックウェーブで身を守るダリルが、攻撃に転じようとしたその時。
彼の背後に仕掛けていた小型空中機雷を、イブはライフルで撃ちぬいた。立ち込める爆煙!
前後からの爆発をくらっては、さすがのダリルも無傷では済まないだろう。
だが、致命傷ではないはずだ。
止めを刺すため、イブが煙のなかへライフルを向ける。
「――どうやら、壊されるほうがお望みのようだな」
突如、煙のなかからダリルのスポーン触手が鞭打った。しなる触手がイブのライフルを叩き落す。
ダリルは爆発の際、屋根に穿たれた溝に身をひそめていたのだ。
武器を失ったイブは、一気に窮地へ立たされた。
形勢は逆転した。
追い込まれた屋根の端。実体化させた銃を向けられて、彼女はこれ以上の戦闘をあきらめる。
「……戦線ヲ、離脱シマス」
イブは身をひるがえし、『小型飛空艇ヘリファルテ』に乗り込んだ。
飛空艇から、イブは地上を見下ろしながらつぶやく。
「後ハ……オ願イシマス。マスター刹那」
「イブがやられたようじゃな」
体育館の上空をみやりながら、刹那はルカルカ・ルーと対峙していた。
少し離れた位置では、ルカから譲り受けた魔剣『朱雀』を握りしめ、理子が戦況を見守っている。
「しからば。わらわ一人で、お主を殺すとしようか」
刹那は周囲に、【しびれ粉】と【毒虫の群れ】を散布した。それらを利用して死角を作ると、袖口のなかに仕込んでいた短刀を投擲する。
『青龍』を構えるルカは、敵の攻撃をかわしながら懐にもぐりこみ、腹部へ【疾風突き】を放つ。
「――少々、遅いかのぉ」
剣戟を老練なしぐさで受け流した刹那は、いったん距離を取り、またしても【しびれ粉】を散布。
死角のなかを移動する。
一進一退の、攻防がつづいていた。
ルカの俊敏さを持ってしても、毒粉や毒虫のなかを舞う刹那は、とらえどころがない。
「助太刀するわ、ルカ!」
戦況を見守っていた理子が『朱雀』を振り下ろした。魔剣の切っ先から火球が放たれる。
メラメラと燃える灼熱の炎が、刹那の毒粉を焼きつくしていく。
周囲を覆っていた毒粉の中から、刹那の姿が顕現した。
「見つけたよ! 観念しなさい!」
啖呵を切って、魔剣を向けるルカ。
「……いささが分が悪いかのぉ」
冷静に敵の戦力を分析し、彼女は劣勢を認める。イブの護衛があれば別だが、この状況で逆転するのは難しいだろう。
去り際にもういちど【しびれ粉】をまき散らすと、刹那は、戦場から消えた。
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