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夏合宿、ざくざく

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夏合宿、ざくざく

リアクション

    ★    ★    ★

「さあ、いよいよですわ。このわたくしに、お宝のありかを告げるのですわ! ポチッとな」
 58番区画の岩場に来ると、エリシア・ボックが持ってきていたロボット型トレジャーレーダーのスイッチを入れました。
 玩具のような小型ロボットの背中のモニターに光が点り、クルクルとロボットがその場で回転するのに合わせて画面の中のレーダーも回転します。
「ぴゅるるるるるるる……」
 急に独特な電子音を発してロボットが動きだしました。
 岩場の岩盤の一つを指し示すと、その前で止まります。
そこですわねー
 すぐさま、エリシア・ボックがロボットの許に駆け寄りました。
「うーん、いったい、ここのどこにお宝があるというのですか。故障しましたかしら。まったく、これだから安物は……」
 どこにもお宝が見つからないので、エリシア・ボックが思いっきりロボットに疑いの目をむけました。
 見渡す限り、しっかりとした石畳で、さすがにこの石を掘るのは無理そうです。かといって、宝箱が無造作に石の上においてあるわけではありません。
「ぴゅるるるるる、ぴゅるるるるる!」
 難癖をつけられても、ロボットはここにあると言いはります。もともと、だいたいの位置を示すものですから、少し座標がずれてしまったのかもしれません。
「まったく、期待外れでしたわ」
 やれやれと、エリシア・ボックがロボットを回収しようと前に進み出ました。
「んっ?」
 なんだか、足許の感触がぽこぽこします。調べてみると、岩の一部が樹脂製の偽物でした。引っぺがすと、その下に宝箱が隠されていました。
「ふっ、姑息な手を。こーんなことで、このわたくしがだまされるものですかあ」
 勝ち誇るエリシア・ボックでしたが、見つけたのはロボットです。
 宝箱を開けると、何やらチケットのような物が出て来ました。『キーマ・プレシャス一日バイト雇用券』と書かれています。ヴァイシャリー担当ガイドさんとして今回も同行しているキーマ・プレシャスを一日だけどんなバイトにも雇える券のようです。
「これは……。はたして価値がある物なのですの?」
 まるっきり分からないので、審判兼連絡係である御神楽舞花に携帯で聞いてみます。
「ほほほほほ、わたくしが一番乗りですわね。さあ、写真を送るから、さっさと鑑定なさいな。もちろん、現在一位は確定ですけれども」
 エリシア・ボックが御神楽舞花に勝ち誇りますが、まだノーン・クリスタリアと御神楽舞花はお宝を発見してないのですから、暫定一位はあたりまえです。
『ちょっと待ってくださいね。今、陽太様にお宝の写真を再転送して鑑定していただきますから』
 携帯のむこうで、御神楽舞花が言いました。自分の宝探しを一時中断して、鑑定作業を優先します。
『ええっと、時給換算? 日給換算? まあ、それくらいの価値の物だと思うけど……』
 聞かれた御神楽陽太も、ちょっと困ったように携帯のむこうで答えました。
 と言うことで、現在、三人の戦いではエリシア・ボックが暫定一位となりました。

    ★    ★    ★

「幽霊ですか。なんでも、去年は洞窟の中に出たようですね」
「出たというか、肝試しのときにお祭りしてあった祠を壊したから化けて出て来たって話だよ」
 なんだか和気藹々と幽霊の話をしながら、千返 ナオ(ちがえ・なお)エドゥアルト・ヒルデブラント(えどぅあると・ひるでぶらんと)が歩いて行きます。目的地は、もちろんその幽霊が出たとか言う洞窟です。
「化けて出るって言うことは、この世に何かしらの恨みがあるというか、未練たらたらと言うことですよね。いったいどんないきさつがあるのでしょうか」
 なんだかわくわくした目で、千返ナオが言いました。
「それは、本人に聞くのが一番だろう」
「会えるといいですねえ。いったいどんな幽霊さんなのでしょう」
「そりゃ、幽霊と言うぐらいだから、足がないとか、血まみれとか、口が裂けてるとか、頭に矢が刺さっているとか、半分腐ってるとか……。おい、かつみはどんなだと思う?」
 和気藹々と千返ナオと話していたエドゥアルト・ヒルデブラントが千返 かつみ(ちがえ・かつみ)に話を振りました。
「まあ、それは、そう、そうだなあ……」
 なんだか、千返かつみが適当にごまかすような返事をしつつ、視線で合図しました。同時に、背中にしがみついていたノーン・ノート(のーん・のーと)を掴みます。
「服がのびるから、こっちに来い」
 そう言うと、ノートの姿である魔道書のノーン・ノートを小脇にかかえなおしました。
 こう背中にガッチリとしがみつかれては、まるで妖怪子泣きじじいです。重いということはありませんが、貼りつかれても困ります。まるで取り憑かれているようです。
「ああ、ごめん。ノートは、こういう話苦手だったな。ごめんね」
 あわてて、エドゥアルト・ヒルデブラントが謝りました。そうだったのです。ノーン・ノートはこういった怪談話が大の苦手なのでした。もし百物語など聞かせでもしたら、卒倒してしまうでしょう。もちろん、本人の開いているページに怪談を書き込むなどと言うことは、絶対にやってはいけません。
「ほら、持ってきたサンドイッチでも食べて落ち着いて」
 目的の洞窟の真ん前まで辿り着いたので、千返かつみがノーン・ノートを落ち着かせるために、中に入る前に軽いランチをとることにしました。持ってきたサンドイッチとコーヒーをみんなでいただきます。
「いいか、目的は宝探しなんだからな。すっごいお宝を見つけて、ゲットするんだぞ」
 千返かつみが、話を幽霊から宝探しの方に戻して、みんなに念を押しました。
「お宝ですかあ。みんな、どんなお宝がほしいですか? 俺だったら、遊園地のチケットだったら嬉しいですねえ。だって、ほら、みんなで一緒に行けるじゃないですか」
 千返ナオが、みんなに希望のお宝を聞いてみました。
「俺は、この前の誕生日にシンプルなアクセサリーをみんなからもらったからなあ。これといって希望は……」
 千返かつみが、あまり興味なさそうに言います。
「私は、あえて言うなら、この前みんなが美味しいって言っていた紅茶かな」
 エドゥアルト・ヒルデブラントが、少し前を思い出して言います。
「巨大な図書館に一日中こもれる権」
 ノーン・ノートも少し元気を取り戻したのか、はっきりと希望を言いました。
「なんだか、全部俺が用意できそうだな。まあ、お宝を見つけてから少し考えてみるか」
 みんな欲がないなあと、千返かつみがちょっと考え込みました。たとえお宝をゲットできなくても、実現は難しくなさそうです。
「なあ、宝箱って、あれみたいな物のことなのか?」
 洞窟の入り口近くのくぼみを指さしてエドゥアルト・ヒルデブラントが言いました。思いっきり、宝箱がおいてあります。はっきり言って、セットした人の手抜きです。
「わーい、開けてみるのだよ」
 ノーン・ノートに急かされて、千返かつみが宝箱を拾いあげました。
「分けられる物だったら、みんなで分けましょうね」
 千返ナオの言葉に、全員がうなずき合います。
 さあ、千返かつみが宝箱を開けました。中から出て来たのは、『パンツーハット紐』でした。なんともセクシーな紐パンツが、あろうことかきっちりと四枚あります。
「ああああ、しまった。先を越されてしまいました!」
 そこに駆けつけた御神楽舞花が、もの凄く残念そうに叫びました。いえ、顔は全然残念そうではありません。エリシア・ボックのお宝の鑑定に手間取ったのが、幸いした……と言えるのでしょうか。
「いや、よければお前にや……」
「残念ですね。じゃ、私は別のお宝を探しに行きますので」
 千返かつみの話を聞こうともせず、御神楽舞花は逃げるようにして洞窟の中に入っていきました。
 ちなみに、パンツーハットを手に入れてしまった者は、嫌でもP級四天王になってしまいます。はれて、P級四天王紐パン番長が四人誕生しました。
「くそう、こっちも、もっといいお宝を見つけるぞ!」
 紐パンをみんなに押しつけると、千返かつみはノーン・ノートをかかえたまま別の場所にむかって走りだしました。