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夏合宿、ざくざく

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夏合宿、ざくざく

リアクション

    ★    ★    ★

「なかなか出てこないわねえ。いったい、どこまで深く埋めているのよ」
 20番区の砂浜をザクザクと深く掘りながら、芦原 郁乃(あはら・いくの)がちょっと愚痴りました。
 それもそのはず、穴はもう芦原郁乃の身長よりも深くなっています。
 一応、ちゃんと蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)が崩れないようにしてくれているから安心ですが……。
 コツン。
「あっ、やっとあった!?」
 砂の奥底にやっと宝箱を見つけて、芦原郁乃がしゃがんでそれを取りあげました。
「見つけたよー」
「えいっ!」
「?」
 蒼天の書マビノギオンに声をかけた芦原郁乃でしたが、返ってきたのは謎のかけ声でした。次の瞬間、あれだけ堅固だった砂の壁が崩れ始めたのです。
「えっ、ちょっと、なんで!? まさか……」
 蒼天の書マビノギオンがわざと崩した……と言い終えることもできずに、あっと言う間に芦原郁乃は砂に埋まってしまいました。真っ暗で、何も見えないし、口や耳に砂が入ってきます。
「このままじゃ、化石になっちゃう……。ううん、その前に窒息して死んじゃう……」
 芦原郁乃が悲鳴もあげられずに困っていると、上から手がのびてきて、身体を勢いよく引き上げました。ズボッという音と共に、芦原郁乃の身体が砂から飛び出します。すぐに、蒼天の書マビノギオンが掘り出してくれたようです。
「ぺっぺっ、助かったあ……」
 砂を吐き出しながら、芦原郁乃がほっと一息つきました。
「マビノギオン、あなた、何を……」
「あたしは、主を掘り当てました」
「はっ!?」
 蒼天の書マビノギオンの言葉に、それがやりたかったのかと、芦原郁乃が納得しました。まあ、可愛い悪戯というところです。
「それじゃ、今日は、私はマビノギオンの物にならないとだね」
 芦原郁乃が、蒼天の書マビノギオンに合わせて言いました。
「そうです。いつもは他の方に譲ってますから、今日は独り占めにいたします」
「ではエスコートお願いするね」
「ええ、お任せください」
「そう言えば、お宝は何が出てきたのかな?」
 満足そうにニッコリと微笑む蒼天の書マビノギオンの前で、芦原郁乃が宝箱を開けました。中から出て来たのは『七草粥セット』です。なんとなく、身体によさそうでした。ちょっと、具材がもぞもぞしている気もしますが……。
「後で一緒に食べましょ」
 芦原郁乃は、そう蒼天の書マビノギオンに言いました。

    ★    ★    ★

「ここなら、明るいから幽霊なんて出ないのだあ。さあ、ガツガツ宝探しするのだあ!」
 21区画の砂浜を掘り返しながら、屋良黎明華が言いました。
 はっきり言って、屋良黎明華はお化けとかは苦手です。できれば遭遇したくありません。
 なので、こんなふうにお日様サンサンの、明るい砂浜でならば、絶対安全……。お日様サンサン……。いえ、なんだか、一天にわかにかき曇りと言うか、突然、屋良黎明華の周囲だけ真っ暗になりました。
「ひゃっはあ、く、暗いのだあ!」
 あわてて、屋良黎明華が火術で明かりを点します。その灯りの中、突然砂浜から勢いよく白い煙が吹き出し、みるみるうちに裸体の娘の姿になっていきました。その身体に、生き物のような霧をまとわりつかせて、幽霊が屋良黎明華に細く白い手を差しのばします。
「うっぎゃあ!! てつごころ助けてなのだあ! パトロールしているんじゃなかったのかなのだあ!」
 叫ぶなり、屋良黎明華がバレンタインデーキスの力で燃えあがり、周囲に狙い定めず火球を投げ飛ばしました。海面で激しい爆発がいくつも起こり、そのいくつかが当たって幽霊が消し飛びます。直後に、明るさが戻ってきました。
「どうした。また出たのか!」
 騒ぎを聞きつけて、29番区画まで進んでいた源鉄心たちが、あわてて戻って駆けつけてきました。けれども、すでに幽霊は撃退された後です。
「あーん、怖かったのだあ」
 屋良黎明華が、チャンスとばかりに源鉄心にだきつきます。
「どうやら、また分身だったようねえ」
 たっゆんな水着姿のテンコ・タレイアが、言いました。
「そのようだな」
 源鉄心が、テンコ・タレイアの胸の方を見ながら言いました。
「むっ。黎明華、胸きゅんなの〜
 何か、ライバル心を一方的に感じとって、屋良黎明華が源鉄心に自分の胸をすりつけました。
「こ、こら……」
 さすがに、源鉄心が屋良黎明華を引き剥がします。思いっきり、屋良黎明華が悲しそうな目をしました。
「あー、鉄心が、また黎明華をいじめたうさー」
「天誅ですにゃあ!」
 ここぞとばかりに、ティー・ティーとイコナ・ユア・クックブックがミニミニ軍団と共に源鉄心をボコります。
「先を急ぎますよ。早く、本人を見つけなければ……」
 ちょっと呆れたように、テンク・ウラニアが一同をうながしました。

    ★    ★    ★

「うーん、せっかく砂浜に来たのに、本当のお宝であるイケメンらしいイケメンは見あたらないですわねえ」
 せっかく夏合宿の最後にナンパされに来たというのにと、ソフィア・クレメントがつまらなそうに周囲を見回しました。
 目がつく範囲では、みんな宝探しに夢中です。イケメンも、イケメンでない男も、今はナンパどころではありません。
「仕方ないですわ」
 とりあえず、先にお宝を見つけだして、それを餌にナンパされるか逆ナンをしようと作戦変更です。
 ちょうど立っていた22番区画の砂を手で掘っていくと、あっけなく宝箱が出て来ました。蓋を開けると、中から出て来たのは『リン・ダージデート券』です。
「えっと、わたくし、女なんですけれどお……。これで釣れる男っているのでしょうかあ?」
 まあ、困ることはないだろうと、デート券をしまい込むと、ソフィア・クレメントは、ナンパ、ないし逆ナンに戻っていきました。