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学生たちの休日12

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    ★    ★    ★

「これはまた、あからさまですね」
 寮枝に近づくにつれて強くなってくる甘い匂いに、非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)がちょっと口許をほころばせました。
 今日は、ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が開くクリスマスパーティーにお呼ばれしたわけですが、これはもう状況が分かりやすいです。きっと、部屋の中には山ほどのケーキが用意されているのでしょう。そうでなければ、ここまで通路中に甘い匂いが充満するはずもありません。もっとも、たった一つのケーキがこれほど甘い匂いをかもしだしているとしたら、それはそれでちょっと破壊的ではありますが。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
 ユーリカ・アスゲージの部屋のドアをノックしようとした瞬間、ひとりでにドアが開いてイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が非不未予異無亡病近遠を出迎えました。ドアのむこうで気配を察して、すっ飛んできたようです。
「パーティーの準備は、ちゃんとできてございます」
 ミニスカサンタの衣装に身を固めたアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が、非不未予異無亡病近遠を奧へと招きました。
「ええっと、その衣装は……」
 なんでと、非不未予異無亡病近遠がアルティア・シールアムに訊ねました。
「えっと、今日は、女の子はこの衣装を着るとアッシュさんに聞いたのですが……」
 それは、絶対にアッシュ・グロック(あっしゅ・ぐろっく)にだまされたんだと、非不未予異無亡病近遠がポンとアルティア・シールアムの肩を叩きました。なんで肩を叩かれたのか、アルティア・シールアムはきょとんとしていますが、皆までは言いますまい。
「いらっしゃいませですわ」
 招かれた部屋の中央にででーんと鎮座ましましていたのは、五段重ねの巨大なケーキでした。その前に、にこやかに笑いながらユーリカ・アスゲージがいます。
「こ、これは、何人分ですか……」
 思わず絶句しながらも、非不未予異無亡病近遠が聞いてはいけないことを口にしてしまいます。
「もちろん、私たち四人分ですが……」
 本気です。
 さらに、キッチンなど、他の部屋にも、無数のホールケーキがおかれています。クリスマスケーキという物は、クリスマスの飾りではないはずなのですが……。
「これと、どう戦えば……」
 どう考えても、腐る方が早い気がします。そうなったら部屋の中は……、怖い考えになってしまいました。
 そのときでした、巨大ケーキの土手っ腹にぽこっと穴が開きました。そこから顔を出したのは、パンパンにふくれたお腹をした小ババ様です。
「こばばーこばっ!」
 ごちそーさまと、ぺこりとお辞儀をすると、小ババ様はトコトコと部屋を出ていってしまいました。
「その手がありましたか」
 あれよあれよと小ババ様を見送った後に、非不未予異無亡病近遠がポンと手を打ちました。
 さて、しばらく後……。
「クリスマスケーキ、いかがでございますかあー」
「ただいま、無料でクリスマスケーキをお配りしております」
 ミニスカサンタの姿をしたアルティア・シールアムを中心に、部屋の前でクリスマスケーキの無料プレゼントが始まったのでした。
「ほんとに、ただでクリスマスケーキくれるの。ちょうだい、ちょうだい」
 無料という言葉につられて、雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)がホイホイとつられてやってきました。
「はい、無料です。どうぞ、これを、どうぞ、これを、どうぞ、これを、どうぞ、これを、どうぞ、これを、どうぞ、これを……」
 問答無用で、イグナ・スプリントが雅羅・サンダース三世の差し出した手の中に次々とケーキの入った箱を積みあげていきました。
「ちょ、ちょっと、こんなに持てない……」
「どうぞ、遠慮なさらずに……」
 相変わらず、不幸を呼び込む雅羅・サンダース三世のようです。
 なんとか、無関係な通行人に全て押しつけ……、もとい、ケーキを必要としている人々にただでお配りして、危機は脱したのでした。
「それでは、いただきまーす」
 適量の四人分のケーキを前にして、非不未予異無亡病近遠はやっとクリスマスパーティーを始めました。

    ★    ★    ★

「つまり、アストラルミストから、この子たちの現し身が作られているというわけですね」
 リクゴウ・カリオペが、これまでに集めた情報を書き込んだメモのページをしきりにめくりながら言いました。
 ちょっと考えてから、うんうんとコンちゃんランちゃんメイちゃんがうなずきます。
 ここは、宿り樹に果実の隅のテーブルです。大神 御嶽(おおがみ・うたき)が、ケンちゃんの今後について会議を開いています。
「より、生体組織に近い存在に進化したというわけですか、興味深い変化ですね」
 ショワン・ポリュムニアが、あらためてコンちゃんたちをじっと見つめました。
「なら、ケンちゃんも、同じように復活できるというわけですか?」
「理論的には可能ですね」
 大神御嶽の問いに、ショワン・ポリュムニアが即答しました。
「ただし、マスターの方は、魔法石の封印を解く必要があります」
散楽の翁様ならあ、絶対にできますわあ」
 タイモ・クレイオが、ちょっと安直に保証します。
「では、葦原島に渡って、その散楽の翁様に会えばいいということですか?」
「いえ、当然問題点はあります。コウジン・メレ様のことです」
 ショワン・ポリュムニアが、大神御嶽の言葉を遮りました。
「そちらを優先ということですか」
 それはある程度仕方がないかと、大神御嶽が言いました。一応、予想の範囲内ではあります。
「それもありますが、この子たちの組成を、コウジン・メレ様に寄生しているイレイザースポーンが知っているとしたら、自らの増殖用素材として取り込もうとするでしょう。封印されるときと、この間の戦闘でかなり消耗しているようですから。パーラ・ラミ大司書様のお力でいったん退けたとはいえ、その子たちを狙ってくるのは間違いないはずです。ですから、迂闊に、このイルミンスールを離れるのは危険です」
 ショワン・ポリュムニアが、大神御嶽に言いなおしました。
「いずれにしても、コウジン・メレ様からあ、イレイザースポーンを追い出さないと、ダメですねえ」
「それは可能なのですか? 融合してしまっているのでは?」
 大神御嶽がタイモ・クレイオに聞き返しました。
「完全融合しているのであれば、外観が変化しているはずですね。けれども、コウジン・メレ様は外観は変わっていませんでしたから、完全に融合はしていないと思われます。おそらくは、ヴィマーナのコントロールカプセルに避難したときに、分散して一緒に避難した散楽の翁様の一部が障壁となってコウジン・メレ様を守っているからと推測されますね」
「ですから、分離は理論的に可能です。ただし、問題はその方法です。無理に引き剥がそうとすれば、肉体にどれだけの負担がかかるか分かりません。一瞬でもいいですから、自分から出ていくように仕向けられれば、コウジン・メレ様と散楽の翁様の本来持っている力で、追い出すことは可能でしょう」
「では、その方法を考えなければいけませんね」
 大神御嶽としても、今はショワン・ポリュムニアの言葉に従うしかありませんでした。
「魔法石の方は、散楽の翁様であれば、開封することは可能だと思います。おそらく、そのことについては一番詳しいお方でしょうから」
 メモを見ながら、リクゴウ・カリオペが言いました。
「皆さん、ケーキはいかがですか?」
 そこへ、ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)がホールケーキを持って現れました。
「雅羅さんの差し入れなんですけれど、数が多くて。皆さんにおわけしているんですよ」
「ありがとうございます。一服しましょうか」
「わーい、美味しそうなケーキですわあ!」
 大神御嶽の言葉に、タイモ・クレイオが歓声をあげました。