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学生たちの休日12

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学生たちの休日12
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リアクション

    ★    ★    ★

「調整は良好のようだな」
 調律者専用の入出力デバイスに手をおきながら、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が言いました。軽く目を閉じているのは、電脳支配の使用中はリアルでの視力情報はノイズでしかないからです。金メッキされたタブレット型の入出力デバイスは、体表面電位の変化を繊細に感知し、より正確に回路への侵入をサポートします。
 もっとも、現在ダリル・ガイザックが操作しているのは、ストーク型の{ICN0005094#レイ}のエネルギー伝達回路のチェックですが。機晶石そのもののジェネレータコア部分とその制御回路は完全なブラックボックスなのです。軍事機密であるため、たとえアクセスが可能であったとしても、それは許されません。後で判明したら、懲戒ものです。まあ、それですめばでの話ですが。
 そこは整然と避けつつ、ダリル・ガイザックが調整しているのは、機晶石から引き出されたエネルギーを、地球型の回路にコンバートし、伝達する部分の調整でした。簡単に言えば、エナジーウイングなどの技術はパラミタの物ですが、その他の、電磁コイルによる電磁加速装置や、バッテリーコンデンサー、補助推進装置のベクターノズルの角度調整や反応速度、そう言った部分は地球製なわけです。それらの地球の技術をフィードバックした回路とパラミタとの回路をうまく同調させるのが、ダリル・ガイザックの腕の見せどころです。それによってエネルギーロスやデータのビットずれがなくなり、最高の精度で本来の性能を引き出すことができるのです。
「こちらのメンテナンスハッチ、開放終わったわよ」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、イコンホースのメンテナンスハッチを開放してダリル・ガイザックを呼びました。今のルカルカ・ルーの役目は、ダリル・ガイザックのアシスタントです。
 イコンの根幹技術は天御柱学院が秘匿しており、機晶石の根幹技術は教導団、いや、ヒラニプラ家が独占しています。解析が進んだとはいえ、全てがオープンになっているわけではありません。未だブラックボックスは最重要軍事機密であり、その技術の漏洩や無許可の解析は軍事裁判ものなのです。
「ちょっと待ってほしい」
 そう言うと、ダリル・ガイザックが遅延処理をかけてからベクターノズルのチェックプログラムを走らせ、今度は実際に自分の目で動作確認に行きました。リアルでの動きを目で確認した上で、携帯端末でベクトル移動量の数値データを確認してすりあわせます。誤差の範囲内に収まっているのを確認した上で、メンテナンスチェックマーカーとなる長いリボンのついたスティックをノズルの部分にセットしました。整備終了の印です。出撃の際には、平時であればパイロットが自身でそれを取り除いて最終確認をすることになるわけです。
「待たせたね」
 やっとルカルカ・ルーの所に行くと、ダリル・ガイザックが、開放されたメンテナンスハッチの中に上半身を滑り込ませました。イコンホースの第一装甲板のハッチと、やや位置のずらされた第二装甲板のメンテナンスハッチをすり抜けて、半ば顕わになった機晶石ジェネレータユニットに近づきます。機晶音叉を取り出すと、機晶石に歪みや亀裂が発生していないかをチェックします。澄んだ音が、機晶石が綺麗な非アモルファス構造であることを証明してくれます。
「オッケー、次だ」
 メンテナンスハッチの開閉ノブ部分にマーカーをセットすると、ダリル・ガイザックがルカルカ・ルーに言いました。
「もう、人使いが荒いんだから」
 軽く文句を言いつつも、すぐにルカルカ・ルーが次のチェック箇所へとむかいます。こうした日々の努力が、有事には力となるのです。それが、今ナラカへでの一件に忙殺されている金 鋭峰(じん・るいふぉん)のためになるはずでした。

    ★    ★    ★

「やはり、年の瀬は、銃器のメンテナンスに限るでありますな」
 そして、ここにも武器の手入れを黙々と行っている男が一人、大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)です。
「え、ええ……」
 なんだか仕方なさそうにコーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)がうなずきます。
 これでは、またもや去年の二の舞です。
 コーディリア・ブラウンとしては、空京にでも繰り出して大洞剛太郎とクリスマスデートを満喫したいのですが、いかんせん、大洞剛太郎は仏教徒のため、クリスマスという概念が限りなく希薄なのです。今は、クリスマスではなく、ただの年の瀬なのでした。
 ですから、大掃除なのです。
 ちなみに、無宗教のコーディリア・ブラウンにとっては、クリスマスはカップルがいちゃいちゃする日です。そのはずだったのですが……。
 今日は、メンテナンスの日と決まりました。たぶん……。
 まずは、分解できる銃は全て分解して、丹念にカーボンの掃除です。油を差す部分は、きっちりと油を差します。小銃・機関銃・拳銃・散弾銃・狙撃銃と、その数もハンパありませんが、大洞剛太郎は慣れた手つきでテキパキとそれをこなしていきました。
 さらには銃剣も研ぎ直し、スコープなどのアタッチメント類も磨きなおします。
 弾薬類も、異常がないかちゃんとチェックします。
 その間に、コーディリア・ブラウンが迷彩服の洗濯や、パワードアーマー類の洗浄をテキパキとこなしていきました。
 一通りの行程が終了したときでした。
「ちょっと、お使いを頼んでもいいかのう」
 大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)が大洞剛太郎に切り出しました。言いつつ、陰でこそこそっとコーディリア・ブラウンに目で合図を送ります。
 実は、クリスマスデートに行きたいコーディリア・ブラウンが、事前にどうしたらデートに行けるかを相談していたのでした。任せときんしゃいと軽いノリで引き受けてくれたものの、その方法は内緒でした。しかし、意外とストレートな企みです。
「なんでありますか、珍し……くもないでありますが」
「せっかくのクリスマスじゃ、ケーキとシャンパンを買ってきてくれんかのう」
 引き受けてくれるという大洞剛太郎に、大洞藤右衛門がテキパキと注文を出しました。
「で、ケーキの種類とシャンパンの銘柄はじゃのう……」
「そんな細かい指定があるのでありますか?」
 ちょっと迷惑そうに大洞剛太郎が顔を顰めました。だから、クリスマスには縁がないのです。何をどう選べというのでしょう。
「仕方ないのう。じゃあ、コーディリアを連れていってくれんかのう。こういうのは、女の子に限るわい」
 そう言うと、また大洞藤右衛門がコーディリア・ブラウンに目配せをしました。
「分かった分かったであります。じゃ、コーディリア、手伝うであります」
「はい、もちろん」
 コーディリア・ブラウンは元気に答えると、大洞剛太郎と共に空京へとむかいました。