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学生たちの休日12

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学生たちの休日12
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海京のクリスマス



「ふふふ、段ボール箱をいかに使いこなすかが、この作戦の成功の鍵であります」
 年末のイコプラ即売会の会場近くで、段ボール箱をすっぽりと被った葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が、カサカサカサと移動していました。人目のある場所ではいったん止まり、隙を見ては少しずつ即売会会場に近づいていきます。これならば、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)の目も、ごまかせるはずです。
「この丁寧な段ボール箱の扱い。そして、この、あふれるような段ボールへの愛情。きっと、自分を聖地へと導いてくれるであります」
 さて、それから一時間後、やっと葛城吹雪は即売会会場内への潜入をはたしました。
「はい、お一人様一個になりますので、よろしくお願いいたします」
 売り子のバイトをしている大谷文美から、イコプラセラフィムの箱を手渡されて、葛城吹雪の興奮はMAXです。
「これが、第三世代機セラフィムのイコプラでありますか!」
 イコプラの箱のパッケージイラストを穴が開くほど見つめながら葛城吹雪が言いました。委託販売の限定版なので、極端に数が少ないレア物なのです。
「この軽装でありながら、隙のない装甲とフォルム。大型化されたウイングバインダーと最適化された蒼いエナジーウイング。攻防一体のシールドに内装されたライフル。新式の大型ブレード。なんといっても、このパーツの多さ。作りがいがあるというものであります」
 もう、キラキラと目を輝かせながら、イコプラの箱を持った葛城吹雪がクルクルと舞い踊ります。その視界に、売り場の看板がチラリと映りました。
「サクシード専用機……。なんでありますかあ! ください、もう一つくださいであります!」
 なんと、セラフィムには、バリエーションが存在したのでした。漆黒に金のモールドが施され、エナジーウイングは紅に変わっています。シールドがない代わりに、六機のブレードビットがオプションとしてついています。
「お一人様一個までとなっています」
 きっぱりと、大谷文美が言いました。
「そこをなんとか、お慈悲であります!」
「きゃー、放してくださーい!」
 いきなりすがりついてきた葛城吹雪に、大谷文美が悲鳴をあげました。
「もう一個、もう一個だけー」
「いやー!!」
 スカートをズリ落とされそうになって、大谷文美が大声で叫びました。
「これこれ、即売会会場で、女の子を襲ってはいけませんな」
 ちょうど通りかかったジェイムス・ターロンが、間一髪で大谷文美を救いました。たまたま主の命令でイコプラの買い出しに来ていたのですが、夏合宿のガイド仲間の危機は見逃すことができません。
「頼む、もう一個だけー」
 なおも叫びつつも、そのまま警備員によってお仕置き部屋へと連行されていく葛城吹雪でありました。

    ★    ★    ★

「遅かったか……」
 もぬけの殻となった葛城吹雪の部屋を見つめて、コルセア・レキシントンが悔しそうにつぶやきました。
 今日は、伊勢の大掃除をする予定だったのですが、まんまと逃げられてしまいました。
「自分で、ナパーム弾とか追加の弾薬の手配をしておきながら、このていたらくとは……。帰ってきたらお仕置きね」
 いや、今現在お仕置きされている葛城吹雪です。
 そんなコルセア・レキシントンが葛城吹雪のデスクの上を見ると、しまい忘れたバインダーが開かれたままおかれていました。
「伊勢の改装計画……。どれどれ……」
 好奇心にかられて、コルセア・レキシントンが計画書のページをめくってみました。
 そこに描かれている図面と、必要な部材に目を通していきます。
「また内部が狭くなっているじゃない。それに、だいたいこの膨大な費用は、どこから捻出するつもりなのよ。資金なんて、隣の部屋に転がっていたりはしないもの……」
 言いかけて、コルセア・レキシントンが葛城吹雪の部屋の押し入れの襖を音をたてて開きました。ドドドドッと中からイコプラの箱が雪崩のように飛び出してきます。
「ふふふふふ……、資金、見つけたわ」
 悪魔の微笑みを浮かべるコルセア・レキシントンでした。


ヒラニプラのクリスマス



「クリスマスは中止だあ、リア充は死ねー!」
 突然のマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)の叫び声が、教導団情報科室に響き渡りました。
「ちょ、ちょっと、マリー」
 いきなり何を叫び出すんだと、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)があわてました。
 いくら、クリスマスイブの当日に当直になって、クリスマスがクルシミマスに変わってしまったからと言って、爆発してはいけません。今日爆発していいのはリア充だけです。
「こら、誰だ、叫んでいるのは」
「あちゃー」
 あたりまえですが、叫び声を聞きつけて誰かやってきました。
「気持ちは分かるが、あまり風紀を乱さないように」
 しっかりかっきり、マリエッタ・シュヴァールがジェイス・銀霞に叱られます。まあ、仕方ありません。
「とりあえず、これの処理を頼む」
「は、はい」
 ジェイス銀霞から渡された書類を受け取りながら、水原ゆかりが敬礼しました。
「えっと、空京での任務遂行中の者に命令解除の連絡かあ。マリー、暗号通信お願いね」
「えー」
「やるのよ!」
 ぶーたれる相方の頭をコツンと叩いてから、水原ゆかりが言いました。
「なんで、あたしたちが今夜の当直なのよお」
「仕方ないでしょ、今年はそういうことになったんだから。ただのくじ運よ」
 そうマリエッタ・シュヴァールに答えつつ、水原ゆかりが自分自身をも納得させました。
 なんとか暗号通信も発信され、事務仕事は淡々と処理されていきました。
 そんななか、あくまでもマリエッタ・シュヴァールは居眠りしようとしたり、隙あらばサボろうとしています。テンションはだだ下がりです。
「仕方ないわねえ」
 頃合いを見て、水原ゆかりが秘密兵器を取り出しました。密かに買っておいたクリスマスケーキです。
「ちょっとしたささやかなクリスマスパーティー。内緒よ」
「わーい!」
 喜んで両手を挙げるマリエッタ・シュヴァールに、水原ゆかりがしーっと唇に指を当てました。