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学生たちの休日12

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ヴァイシャリーのクリスマス



「寒くはないですか、大丈夫ですか?」
 秋月 葵(あきづき・あおい)の首に巻いたマフラーの位置をなおしてやりながら、エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が言いました。
「うん、大丈夫だよ」
 ちょっともこもこしながら、秋月葵が答えました。
 デートに出かける前に、エレンディラ・ノイマンがきっちりとコーディネートしてくれたのですから、秋月葵はもこもこぽかぽかです。お揃いのコートに、ブーツに、マフラーをしているエレンディラ・ノイマンも、秋月葵と同じようにもこもこぽかぽかでした。それでなくても、二人一緒にいればぽかぽかですが。
 はばたき広場も綺麗にクリスマスデコレーションされています。自然と魔法による闇と光のクリスマスであるイルミンスールと比べると、煉瓦造りの家々にキャンドルや電飾のイルミネーション、そして湖に降る雪という、北欧系の落ち着いたクリスマスの趣があるヴァイシャリーでした。
 ショッピングデートへと繰り出した二人が、まず訪れたのはブティックでした。こちらは、どちらかというとエレンディラ・ノイマンの趣味です。
「葵ちゃんは、何を着せても似合いますねえ」
 あれこれと取り替え引っ替え秋月葵にいろいろな服をあてがい、まるで着せ替え人形のように楽しんでいます。秋月葵の方も、いろいろな服を着られるのと、何よりもエレンディラ・ノイマンが喜んでくれるので楽しそうです。
「じゃあ、次は、アクセサリー屋さんね」
 なんだかんだで結局お揃いのペアルックをいくつか買い込み、お揃いのブランド紙バックをぶら下げながら、次に秋月葵たちがむかったのはアクセサリー屋さんでした。今度は、秋月葵の趣味です。
「さっき買った服に似合う小物はと……」
 お互いに、相手には内緒でアクセサリーを選びます。もちろん、クリスマスプレゼントです。中身は、あけたときのお楽しみです。
 デートの締めは、予約してあったレストランでした。
 窓から、雪に飾られたはばたき広場がよく見えます。
「メリークリスマス♪」
 クリスマスディナーを間に挟んで、秋月葵とエレンディラ・ノイマンが、キャンドルライトの中でジンジャエールの入ったグラスをカチンとぶつけあいました。
「綺麗だねー。やっぱり、予約入れて正解だったよ♪」
「ええ」
 満足そうな秋月葵に、エレンディラ・ノイマンがニッコリとうなずきました。
 オシャレも一杯、プレゼントも一杯、お腹も一杯。なかなかのクリスマスデートでした。
 そして、デートのアンコールシーンは、はばたき広場のベンチです。
 雪が積もって真白い広場には、ライトで雪の結晶が描きだされ、どこからかクリスマスソングが流れてきています。
「クリスマスだよね〜」
「ええ、クリスマスですね〜」
 ベンチに座ってクリスマスの風景を楽しんでいた秋月葵とエレンディラ・ノイマンでしたが、さすがに少し寒くなってきました。肩を寄せ合って、ちょっと暖め合います。
 なんだか、顔が近いです……。
「ええと、キスする?」
「……」
 なんとなく訊ねてしまう秋月葵に、エレンディラ・ノイマンが静かに目を閉じました。

    ★    ★    ★

「いらっしゃいませー、尻尾美容室でーす。皆さん、ちゃんと尻尾のお手入れしていますかー。」
 トラックのクシナダを改造した移動尻尾美容室を開店したミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)が、道行く人たちに声をかけていました。
「いらっしゃいませー。尻尾のお手入れどうですかー」
 お手伝いとして、フランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)も一所懸命呼び込みをします。
「きゅー。んきゅー♪」
 クルクルと回転して踊りながら、立木 胡桃(たつき・くるみ)も看板尻尾としてお手伝いです。
 尻尾美容室としてはもう何度も開いているので、少しではありますが常連さんも増えつつあります。
「今日は、どんな尻尾になさいますか?」
 そんな常連さんの尻尾を、慣れた手つきでミーナ・リンドバーグが梳っていきました。しなやかな尻尾はしなやかに、ふさふさの尻尾はふさふさに、くるりん尻尾はよりくるりんぱに、丁寧に丁寧に仕上げていきます。
 フランカ・マキャフリーと立木胡桃も一所懸命手伝ってはいましたが、残念ながらお昼過ぎで電池が切れてしまいました。
 今は、立木胡桃のくるりんとしたリスの尻尾に、二人共くるまって寝ています。ところが、それがまた可愛いと、道行く人たちが足を止めます。寝ていても看板娘としての役目はしっかりとはたす、フランカ・マキャフリーと立木胡桃なのでした。
「いかがですかー。みんな、尻尾美人になれますよー」
「あら、面白そう。ねえねえ、やってもらったら?」
「ちょっと待て、なんで俺の方なんだ!?」
 ちょうど通りかかったデクステラ・サリクスが、ミーナ・リンドバーグの呼び込みを聞いて、シニストラ・ラウルスの腕を引っぱりました。
「いいじゃない、いいじゃない」
 そう言うと、デクステラ・サリクスが、シニストラ・ラウルスのズボンに手を突っ込んでお尻から尻尾を掴み出します。結構大胆です。
「こらー!」
 サングラスが変な方向にずれるのも気づかずに、シニストラ・ラウルスが叫びました。
「仕方ないわね。じゃあ、あたしも一緒にお手入れしてもらうから、それならいいでしょう」
 そう言って、デクステラ・サリクスが、普段から顕わにしている白い尻尾をひょこひょことゆらして見せました。
「一人でできないんなら、最初から言え。まったく、しちめんどくさい」
 やれやれと言う感じで、シニストラ・ラウルスが言いました。結局、デクステラ・サリクスは、自分の尻尾をお手入れしてもらいたいがために、シニストラ・ラウルスをつきあわせたいだけのようでした。
「えーっと、じゃあ、そこに座ってください」
 足の長い椅子に二人を座らせると、ミーナ・リンドバーグがお仕事に取りかかりました。
 無理矢理ズボンの後ろから出した感が一杯のシニストラ・ラウルスの尻尾は、狼型のふさふさの尻尾です。これは、梳りがいがあります。対するデクステラ・サリクスの尻尾は、しなやかな猫型の白尻尾です。
 丁寧に梳って、シニストラ・ラウルスの尻尾をふさふさにし、デクステラ・サリクスの尻尾は艶を出してしなやかに纏めました。
「うーん、もふもふ。気持ちいーわー」
「こ、こら、よせって……。代金はここにおくぞ! ええい、放せって!」
 尻尾をデクステラ・サリクスにもふもふされて、シニストラ・ラウルスがあわてて店から逃げだしていきました。
「ああ、待ってよー」
 あわてて、デクステラ・サリクスが後を追いかけていきます。
「まいどどもー、また次もよろしくお願いしまーす」
 ミーナ・リンドバーグが、ちゃんとぺこりとお辞儀をして、二人を送り出します。
「ふう、なんだかたくさん働いちゃった。でも、これでチビッコたちのクリスマスプレゼントはばっちりだよね」
 そう人知れずつぶやくと、ミーナ・リンドバーグは、まだ立木胡桃の尻尾にくるまっているフランカ・マキャフリーたちの頭をなでてやりました。