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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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第22章 イルミンスールの祭典 Story14

 大唱石への芽吹きの元が終わりニクシーの水流による生を与える段階へ進む。
 オメガはニュンフェグラールを掲げ、零れ落ちた涙に1粒の血と入れて聖杯を揺らして混ぜた。
 紙に描いた魔方陣へ落とし、水の魔性ニクシーを召喚したのだった。
「ニクシーさん、あの大唱石にお水を与えてくれませんか…?」
 その言葉に応じたニクシーは黙ったまま頷き、手の平に作り出した水の玉を大唱石へと飛ばす。
 透明な玉が入り込んだとたん、内部で破裂し小さな気泡となって浮かぶ。
 教えられた通りに行ってみたが、オメガにとっては摩訶不思議な光景として見えた。
「あまり…上手くできなかったと思うのですけど…」
「扱うためには、使えるって自信をもたないとね。失敗するかもっていうのは、マイナスのエネルギーとして働いてしまうよ」
「そういうものなのでしょうか…」
 手習いの身なためか、自信がなさそうな小さな声音で言う。
「頑張ったほうだと思うよ、オメガさん。次もよろしくね」
「―……は、はい北都さん。皆さんのお邪魔にならないように努力しますわ」
「うーん、邪魔だなんて思ったことないよ?そう思っちゃうのもよくないからね」
「大変なのはずっとかわらないと思うわ♪しょぼんとしてたら、使い魔だって不安になってしまうわよ」
 オメガを励まそうと彼女の頬をカティアが指でちょんとつっついた。
「哀切の章をどう使えばいいのかしら?」
「下の階から供給される魔力源が、大唱石を囲んでいる陣に随時供給されているから。それを、哀切の章を使って中央へ流す作業だね。感覚的には、器に憑いた魔性を祓う時と似てるかも」
「たまった魔力を、器から出せばいいのね」
「ま、そんなところだよ。コードの耐性は剥がさないように気をつけてよ」
「勢い余ってやると、そうなるということか」
 “耐性を剥がすなよ”と言いたげに、仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)がカティヤをちらりと見る。
「何よ、そんなヘマしないわ!」
 不安げな目で見られたカティヤは顔をムッとさせた。
 いざ哀切の章を行使するとなったその時、カティヤ以外の者たちがハッと息を呑んだ。
 それは重大なものまで剥がされようとしていたからだ。
「カティヤさん、待って…待ってください!」
「あら、何?」
「―…あ、あの、非常に申し訳にくいのですが、耐性の部分が剥がれそうになっていたような…」
 気づいていない彼女にフレンディスは遠慮がちに言う。
「いがいと難しいのね」
「もう1度やってみましょう!」
 そう元気づけたものの…。
「わーーっ!?大胆すぎますよっ」
 …今度はリオンが止める。
「えー…どうして?」
「力をこめすぎてるんじゃないかな?」
「北都の言う通り、私もそう思います…。もすこーし、優しくやってみたらできるのでは!」
「大雑把なのだろうな、料理もそうだ」
「ちょっとそこ!今は料理なんて関係ないわよ、磁楠」
「フッ、どうだか」
 すぐ真っ黒に焦がす国宝級の腕前の彼女が何を言っても、数々の所業が関係しているとしか思えなかった。
 結局、1順目が終わるまでに30分ほどかかってしまった。



 2順目に入り今度はミリィが1人で詠唱にチャレンジしてみると挙手した。
 きちんと覚えきれているかの確認でもあった。
「芽吹いた大地に、収穫の時がきたり。種が世を貶め、世を汚し、世に罪を蒔くもならば刈取り除くであろう。恵みの種と偽り、芽吹こうとする種が悔い改めようとするか。これより二心ないか問う。否とするならば生命の水を枯らし、活力の天は閉じられる。されど我、責務負うべき所あり」
 順調に唱えていき、傍らから見守る涼介は娘のさらなる成長を微笑ましく眺めていた。
 すぐに言いきれなかったメンツは、何かがおかしい…という目で見ている。
「主の生を断絶させることなく、約束された地への道を残そう。我、権威をかざすことせず、等しく生ある種として、汝との芽吹きを待つ。終焉の地、それは都は種の帰るべき場所。等しく、我も帰る約束の地そのものでもあり。もし、違えれば、我の悲しみの涙は業火となり、その種との別離となるであろう」
「すごいな、ミリィ。全部あっているよ」
「本当ですか、お父様!」
「よーし、アークはミリィさんに一任しよう」
「えー!?陣さんたちも一緒にお願いします!」
「いやいや冗談だって。…お?ベルクさん、どうしたんや」
 扉のほうをじっと見つめている彼に気づき、そこへ目をやるとミリィが北都のほうへ駆け寄っていた。
「ヒトと別離した気配…ボコールたちが近づいていますわ、北都さん」
「分かった。他の部類はどうかな?」
「魔性のみの気配はありませんけど、…えーっと……。…彼らの中に、妙な感じが…」
 アークソウルを通して奇妙な感覚が伝わり、それが何なのか調べようとペンダントに意識を集中して探る。
「強制……それに近いような、2つ気配が重なっています」
「もしかして、それがサリエル?」
「たった今カフェ班から連絡がありましたわ、北都、ミリィ。エースが生やした植物が急速に成長したり、枯れたりしているようですの!」
 携帯から連絡を受けたエリシアは声を上げ、扉側にいる2人に伝える。
「時が狂い始めているようだね。ミリィ、仕上げを始めよう」
 急ぎ封魔術を発動させるべく涼介が娘を呼ぶ。
「は、はいお父様!」
 サリエルが到達しないうちに済ませてしまおうと、ぱたぱた駆けていく。
「ラスコット先生。まだ繰り返し魔道具の力を注ぐ段階かな?」
「いや、後はホーリーソウルによる発動だけだね、涼介くん」
「ではまもなくだね…」
 涼介は白の障壁をはり、襲撃に備えてからペンダントに手をかけた。
「大唱石に蓄積した力を解放して、浄化の能力を拡散させていくイメージで行うんだよ」
「皆が繋いだものが託されるのか。これはかなり重責な作業だ」
「詠唱なら1度で済むけど…?ただし、一言でも間違えると最初から唱えないとけないね」
「時を操作されてからでは、全てが無駄となってしまう…」
 繰り返し魔道具の行使を行う途中で、サリエルが先に能力を使う可能性を考えれば、ハイリスクハイリターンのほうを選択しかない。
 ラスコットから詠唱方法を聞き急いで暗記をする。
「―…大いなる都を裂こうとする種よ。差し出された葡萄酒を拒み、酒杯をかわすことなく、穢れし道へ堕ちるならば…」
「種は芽吹くことなく、新たな枷を与えるのも止むを得ず、終焉の地に踏み入れることを禁ずる」
「世と別離し、天に触れること、…地に触れることも叶わないものとする」
 涼介とミリィは息を合わせ半分まで終えたところで、大唱石から琥珀色の輝きがもれ始めた。
 それと同時にボコールたちは罪と死による魔法の杭で扉を破る。
 北都は侵入を阻むべく裁きの章を降らせて迎え撃つ。
 “エコーズ、花嵐!”とエリシアが声を上げ、ビバーチェに命じて白き花嵐を散らせる。
 魔性を取り込んでいない彼らにとっては、十分すぎるほどの致命傷となってしまう。
「石ころに変えてやんよっ」
「ペトリファイ!?」
「おっと、とらせないぜ」
 ソーマはエリシアの前に立ち、アンバー色の守りの壁で無効化する。
「ちっ、めんどくせーもん使ってんじゃねぇぞ!」
「お前らに都合が悪くっても、こっちには便利なもんでな」
「ソーマ、そのまま壁お願いますよっ」
 祓魔の光を柔らかな布状に変え、ふわりと被せるように落とす。
「上も前も見なきゃいけないんなんて、大忙しのようね♪」
 聖なる咆哮の術を受けたカティヤは美しくウィンクしてみせ、咆哮を発し侵入者たちを後退させる。
「くそ…。万年仏滅にーさん、これ以上は進めそうにないぜ」
「もうここでいい…です。クオリアも…テスカトリポカも…、皆…皆……穢れてしまえばいい」
 ボコールを器としているサリエルは暗くぶつぶつと小さな声音で呟き、群青色の瞳で祓魔師たちを睨みつけた。
「く、暗い。何なんですの、この輩は!」
「そいつがサリエルだよ、エリシア」
「万年仏滅……。わたくしとは相容れそうにないですわ…」
 活発的な自分と究極のインドア的オーラを放つ彼は、どこまでいっても理解し合えそうになかった。
「え、テスカトリポカ?彼とどう関係が……?」
 予想外の名を口にした相手に北都が首を傾げた。
「穢れて殺しあって、消えてしまえば…うっ」
「な、何。苦しそうだよ?」
「うぅ、……ごぱっ」
「えーーーーっ、血吐いた!?」
 眼前で吐血した相手に、冷静に対処していた北都も驚いてしまう。
「器の体がもたないんだろうな」
「てことは、器がなきゃ時も操作できないってこと?」
 器の寿命が尽きたら操作できないのではとソーマと顔を見合わせる。
「ただ、やつには強制憑依さえ行われれば代わりはいくらでもいるからな」
「ボコールを殺しちゃうわけにもいかないし…。うーん…」
「昇天させず半分っていう優しさがあるんやない?」
「おいおい、加減が難しくないか」
「んまぁ、ほんの冗談として。気絶程度にぼこってしまえばいいんや…と見せかけて、雷様の仕置きやっ」
 白の衝撃による雷を落として感電気絶させてやる。
「きったねーぞ、祓魔師!」
「うっさいっつーの。近づいたら石化でカッチーンってされるのがヤマやからな」
 ブーイングをするボコールたちに中指を立てて挑発する。
「ま、おまえらが何しようがこっちの勝ちみたいやね?」
 大唱石から祓魔の光が拡散を始めたことで陣はにやりと笑う。
 封魔術による白き鉄鎖が出現し、サリエルの体に絡みつき拘束する。
 彼の体から魔法文字が噴出していき能力を削いでいく。
 最終駆動を開始した封魔術は、もはや誰にも手の出しようもない。
 だが、1つの手段を除いては……だ。
「あぁあああぁあ…、よくも…よくも、穢してやる!」
「な、何なんや?いくら抵抗しようとしたからってなぁ…」
「時はきたり、復讐という文字は…ボクのためにあるですよおおぉおお」
「おま…アホかっ!?おまえが苦しみを受けたからってなぁ、なんも関係ないやつまで巻き込むなっつーの」
「じ、陣くんっ。なんかいっぱい時計が!」
「えっ、時計?な……っ」
 リーズの声に辺りを見ると、部屋中に捻じ曲がった時計が現れていた。
「ははは…、そんなもの…時を戻して消滅させてあげますよ」
「へっ、駆動で受けた分は戻らんやろうがっ」
「確かに、今まで受けたものも……もはや戻すことはできません。ですがね、全てを封じられる前に壊してしまえばいいのですからね」
 時を逆行させていき敷かれた媒体を消滅させていく。
 その光景を目にした愛が、何をどう対処していいやら分からず、あわわと慌てていた。
 サリエルの干渉を受けてしまったものは、今の段階では止める手段は何もなかった。
「な…ただの素材に分解されている?」
「悔しいですが…形になる前に戻されているようです、愛さん」
「そんなっ、せっかく皆で作ったのに」
「えぇ、本当に……」
「フレイ、何かいやな予感がする。俺がから離れるな」
「は、はいマスター」
 ベルクに抱きかかえられ、変わっていく世界をただ見ているしかなかった。
「ラスコット先生、これはサリエルの仕業ですかぁ!?」
 異変に気づいたエリザベートが大慌てで室内へ飛び込んできた。
「ずっと、ずっとね、この時を待っていたんですよ…。器さえあれば、本来…造作もないことだったのですからねぇえええっ」
「もしかしてあなたがサリエル…?」
「エリザベートさん。あなた方に散々、能力を削がれきましたからねぇ。まずはお返しをしてあげませんと…。ボクにとって、気高い精神の持ち主こそ、最高の器となりえるものですから…。フッフフ…ハハハハハッ!」
 時計の時刻を無茶苦茶に回した影響で空間がぐねりと曲がる。
「今度はあなたが誤解しているというに、まだ分からないのですかぁ!?都の方々はあなたのことを…っ」
「うるさい、うるさいうるさいうるさぁああい!!黙れぇええっ、たかが人間の分際で説教するつもりですか!!!」
 サリエルは怒り狂いエリザベートの腕を掴みかかろうとする。
「校長、下がって」
「あぁっ、ラスコット先生!」
「今、こいつに何を言っても聞きやしないよ」
「…逃がしませんよ?」
 エリザベートは逃したものの代わりを掴み、にたりと笑う。
「フハハハ…あなたでも別に構わないんですよね……。とても壊しがいがありそうな…」
「お前はいったい何を…」
「先生ーーーっ!!」
「おやおや、そちらの方も理想に近いようですね?クスクスッ」
「来るんじゃない、涼介!」
 駆けつけようとする涼介に近寄るなと声を上げる。
「だ…だけど」
「何があっても揺さぶられるな。でないと、つけこまれなるぞ」
「体が…消えていく?」
 周りの者だけでなく全身が透明になっていくことに驚き、いったい何が起こっているのか理解できなかった。
「それは時間転移の魔術ですぅっ」
「転移?…そんな、時が……」
 時計の音がカチカチカチカチカチ忙しなく響き、パラミタとそこに住まう者たちの時が強制転移されていく。
「お父様、なんだか恐ろしいですわ」
「ミリィ、手を離すんじゃないよ。(これほどの使い手だったとは…。だが、私たちは彼に負けてはならない。…屈指はしない!)」
 娘を抱きしめ時の流れに抗う手段を必死に考えようとしたが思いつかず、娘と共に捻じ曲げられた時へと転移させらてしまった…。