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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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第5章 手習いタイム

 桜庭 愛(さくらば・まな)は自分の治癒魔法や、光魔法の新たな能力開放、術式の強化、敵の伝承や封魔術関連の書物を書庫で読みふけっていた。
「魔性と対峙して普段使っているような魔法などを使って…、魔法耐性が弱い者相手にした記録では…と。あー…消滅しちゃうね。いたずら程度でも殺しちゃうことになるのね。心得の授業でも、やたらと滅しちゃいけないと言ってたし…」
 バニッシュなどをぶつけない理由も、細かく書物に記されていた。
「んーと、憑依した器も壊したり死なせたりする危険性もあるからなのね。…で、それでも使ってしまうと、憑依している魔性が自爆して器も犠牲に…」
 無理に使えば誰も救えずに終わってしまう。
 その一文だけで、愛も使うべきでないと理解しやすかった。
「それで人が死んだ記録はないけど、運よく助けられたのかしら。まぁ、こんなのは試さないほうがよさそう。中にはまったく効果ないやつも存在するのね。ふむふむ…だから魔道具が必要になったわけね」
 魔道具とは上位の魔性に対抗する手段を身につけるため、器にされたモノを救うために作られたのだと読み取った。
「普段相手にするやつと違うって、だいたい分かっただけど…。封魔術の体系や術式構築理論とかは、この図書館ないのかしら?」
 基本的な知識を蓄える本はあっても、他の特殊な文献がなかなか見つからない。
 愛の声を耳にしたエリザベートが詰まれた本の後ろから顔を覗かせた。
「あぁー、ごめんなさいねぇ。ここの部屋にはないんですよぉー」
「え、じゃあ別の場所にあるってこと?」
「皆さんが教室で訓練するために邪魔になるので、ちょこちょこ校長室へ置いたりしてたんですぅ。そのあとすぐ…掃除しなきゃいけない時期になって、いったん私の家の本棚にしまってあるですよぉ。祓魔師としてよく育ってきたので、教室内で魔道具を使うことも少なくなるでしょうからぁ。普段は一部だけ、特別訓練教室で閲覧可能なようにする予定ですぅー」
「んー…残念ね」
 大切な書物たちを術に巻き込んで破損させるわけにはいかないのだから、愛もそれは理解できた。
 ただろくに学べないまま、今日をいう日が過ぎてしまうのかと思い、がっくりと肩を落とした。
「ええっとですねぇ。知りたいことがあれば、私が答えますよぉ♪」
「うーん、封魔術の体系などについて教えてもらいたいな」
「はい♪私たちが使う祓魔術を媒体に、発動するものなんですぅー。目的としてはー…相手の能力を封じたりー、その存在を封印するためなんですよぉ。今回は、能力を封じるためなんですぅ…」
「そこまでしなきゃいけない存在ってこと?」
「えぇ、徐々に弱めるため、段階的に行っていくのですが〜。和解もできないので封魔術を使うしかないのですよぉ」
「歩み寄ってはみたのね」
「もちろんですよぉー!魔性と人が共存する都があるんですけどねぇ。過去に…そこで大きな誤解が生じてしまったのですぅ…。そのことは、この文献にも書いてありますよぉ」
「これね。えーっと…時を操る魔性…?」
 暗い藍色のカバーの本を開き、細かく詰まった文章を指でなぞりながら読み始める。
「当時の異常気象などが、その魔性による時を操作した仕業だと思われていた……とあるわね」
「原因がどうしてもわからなくって。そこに暮らしていた者たちが追放してしまったのですぅ」
「それはまた…酷い話ね」
「私やラスコット先生も、まだ生まれてないですしぃー。私たちみたいにそういった知識のある人はなかったみたいで、魔道具も存在しない時代でしたからねぇ。今となっては、和解が不可能になってしまったまま…時が過ぎてしまったのですぅ。ただ、時をめちゃめちゃにされて、この世界を傷つけられてしまうわけにはいかないので。こういった術を、毎年行っているんですぅ」
 自分たちのような者がパラミタにいれば、和解できたかもしれない。
 一方的に罪を問われ、追い出されるまでに至ってしまった。
 原因が判明するまで、いったいどれだけの月日が流れたのか。
 長い…とても長い年月の間、孤立させられたサリエルの心をさらに歪ませていったのだ言う。
「なるほど…。世代的に校長たちや皆も、誤解を生じさせたことに対して関わりないのよね」
「まぁ、そうなんですけどねぇ…。こればかりは、誰かがやらないと…」
「その時の人間に話を…といっても、年代的に無理なのかしら」
 当時の者が生存しているのなら、許しを求め続けないのかと首を傾げる。
「えーっと…。都に、まだ残っている者はいるんですけどねぇ。それでも、和解に応じてくれなくって…」
「その段階は、とっくに過ぎてしまったわけね」
 何年もかかってやっと時の魔性の仕業ではないと判明し、当時の者たちが許しをいくら求めても、元の関係に修復するまで至ることは不可能だったようだ。
 許してもらえるまで、何度でも謝るべきではと思いつつ、その間に時の流れをめちゃめちゃにされていいはずはない。
 封印しない理由は、過去の誤解があるからなのだと理解した。
「時の魔性サリエルは…、追放される時こういったそうですぅ。皆……汚れてしまえばいいと」
「いくら誤解があっとはいっても、そんな…!で、でも…どうして今まで時が…」
 時間を操作できる能力があるなら、いくらでも復讐する機会はあったんじゃないかと言う。
「都の者たちとの戦いで、能力を費やしかけたようですぅ。それで、憑依するための器がないと、何も干渉はできないはずなんですよぉ。都を管理する魔性…クオリアの話しによるとですねぇ、自力で憑依する力も残ってなかったようですぅ〜」
「誰かに憑く能力がないのに、なぜ能力を……」
「えぇ。だからといって、のんきに何もしないってわけにはいかないですぅ」
「うーん。確かに…それはあるかも。祓魔師を育成してまで、行う必要があるほどの事態だって認識していいの?」
「はい!魔性の力を破壊に使うボコールという集団がいるのですが。彼らが、サリエルの存在をいつまでも知らないまま…とは考えにくいですからねぇ。彼の手引きで、器に憑依できてるかもしれないのですぅ。だから速やかに術を行ったりするためにも、たくさん人手がいるのですよぉ!!」
「そそのかされて、本格的に復讐のために活動…ね。ありえないことはないわ」
「封魔術を行うときは、愛さんもみていってくださぁーい。今年は特に、何が起こるかわかりませんからぁ。皆さんと一緒にいたほうがいいと思いますぅ」
「ある意味、一番危ない地帯な気がするけど…。……そうね、相手に怯えちゃこの先何もできないわ!」
 愛は闘う神官を目指す者として、術の行使を見届けようと図書館をあとにした。