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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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第8章 イルミンスールの祭典 Story4

「ねぇ。カフェの担当すくないけど大丈夫なの?私たち、そっちのほうがよかったんじゃ?」
 大まかな担当が書かれた用紙をテーブルから手に取り、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はカフェ担当でもよかったかと小首を傾げる。
「祭典までまだ日もあるし、もてなす料理の1つでも作りに行こうかしら」
「セレン、却下よ」
 校長室を出ようとする恋人の首根っこをセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が掴む。
「ちょっと、向こうは大変なのに。なんで止めるのよセレアナっ」
「間に合ってるから大丈夫よ」
 顔をムッとさせて抵抗する彼女を放さず、テーブルのほうへ戻るように言う。
「水着カフェって流行ると思わない?」
「思わない。今のうち、しっかり休憩をとっておきなさい」
 冷静な態度を変えずセレアナはイスを指差した。
「うぅ…」
 これ以上逆らったらカフェに近寄らせてもらえなくなりそうだと感じ、抵抗をやめてしょんぼりと小さく呻く。
「(あんなもの、無用な犠牲者は出せないわ)」
 ナラカ人を二度殺しそうな地獄の料理を口にしたら最後、一月以上は寝込んでしまいそうなものだった。
 見るもおぞましい殺人兵器級料理人的な腕前は、もはや世界遺産に登録されるんじゃないかと思われるほどだ。
「他の人は作ってるのに、なんで私だけ…」
「セレンフィリティさんも料理作れるんだね?どんなものか気になるな」
 気落ちする彼女にエースが一厘の花を差し出す。
「本当…?私でよければいくらでも作るわよ!」
「そうだね今度…」
「よしなさい、あなた正気なの!?」
 突然血相を変えたセレアナのエースの言葉を遮る。
 普段は冷静な彼女がいきなり大声を出し、驚いたエースは言葉を失った。
「え、そのはずだけど…。いったいどうしたというんだい、セレアナさん」
「セレンの料理だけは絶対食べないで!!じゃないと……この世の地獄を見ることになるわよ」
「あ…あぁ」
 いつになく真剣な眼差しのセレアナに、さすがのエースも頷くしかなかった。
 その傍らセレンフィリティは膝を抱えてしくしく泣いていた。
「だ、大丈夫ですよセレンフィリティさん。食べることなら、すごい能力を発揮するじゃないですか!私も負けてはいられませんっ」
「フレイ、それ違くないか?」
「へ…?食べものつながりならあっているはずですよ、マスター?」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)のつっこみにハテナと首を傾げる。
 慰めようとした言葉が余計留めを刺すことになり、いっそうセレンフィリティをへこませてしまった。
「初めて参加したけど、なんだか分からないことばっかりだわ…」
 封魔術を成功させるために、あれやこれや作戦を立てる言葉が飛び交い、愛には何をどうしたらよいのやら分からなかった。
「あの…もしかして新人さんですか?」
「えぇ、そうなのよ」
「私たちと一緒に頑張りましょう!」
「ほとんど見てるだけになっちゃうかもしれないけど、私に出来ることがあったら何でも言ってね!」
「はい、心強い味方が増えるのでとても助かりますっ」
「―……ほー、フレイも先輩になるんだな」
 手習いの頃と比べて格段に成長していたが、後輩ができるまでになったんだなぁ…と呟いた。



「時間操作系か…。何かもうチートなんやない?」
 都合よく結果のみを現実に残し、間にある起こりえるものは全てなかったかのようになる。
 だが大抵は個人的な目的で利用により行使される。
 しかもろくでもない理由がほとんどだろう。
 七枷 陣(ななかせ・じん)としても見過ごせない事態だ。
「魔性にそんなこと通じないって、陣くん」
 もはや常識では考えられない存在なのだとリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)が言う。
「やつの能力の一つに、我らを弱体化させる術があるらしいのぅ?」
「ちびっこにしたり、じーさんばーさんにするってことやね、ジュディ」
「うむ。あれにバイベルの力を反映できればよいのじゃが…」
「封魔術にですかぁ〜?それに関しては、これからお話しますぅ〜」
「ほう?む、そろそろ時間かのぅ」
「ですねぇ♪では〜、会議を再開しまぁ〜す!」
 砂時計の砂が落ちきり、エリザベートが休憩の終わりを告げた。
「封魔術とは祓魔術と用いるので、それと同様のものと考えてくださぁ〜い。これを発動するためには、皆さんが今まで使ってた魔道具を通して行使する必要がありますぅ」
「つまり、我らのバイベルも必要なのじゃな?」
「はぁ〜い、そうなりますねぇ。これを行っている時に、他のことをされると循環が悪くなりますからぁ。それぞれ、何をするか分担を決めておいたほうがよいですよぉ」
「やっぱり襲撃に備える人、封魔術に集中する人で分担したほうがいいんですね」
「えぇその辺りは私が先程も言った通りですぅ、歌菜さん。術を敷く準備もあるため数日かけて行うので、臨機応変に動いてくださぁ〜い」
 エリザベートはそう告げるとテーブルに大きな用紙を広げ、封魔術の設置の手順をペンで書き込んでいく。
 まずは外側の部分とし、出入り口から少し離れたポイントを赤ペンでぐるりと囲んで示す。
「1日目はどっちでも自由ですが、2日目からのほうを決めま〜すぅ。外側はルカルカさんたちとエースさんたち、セレンフィリティさん、セレアナさん、コレットさんにお願いしまぁ〜すぅ。祭典が始まったら一般客もいるのですがぁ、術に集中してくださいねぇ」
「分かったわ。避難誘導はカルキの仲間がいるから安心ね」
「探知は弥十郎や真宵の2人に任せるの?」
 自分も周りへの配慮はいらないのか、セレンフィリティがエリザベートに聞く。
「こればかりは仕方ないので、それでお願いしたいですぅ。外側が先に発動しないと、内側のほうに敷いた陣の反応はしなくなっちゃうのですよぉ」
「万が一、私たちが敷いたほうに破損があったとしたら、内側はどうなるのかしら」
「1度発動してしまえば、こっちは続行して行えますぅ。ただ〜、そちらの破損度合いによっては、能力を封じる術が弱くなってしまいますぅ」
「せっかく敷いたものが、一瞬で無意味になるってことはないのね」
 リスクを分散するためには、それがベストなのだろうと頷く。
「守り手のこともあるので、名前を呼ばなかった方々は内側をよろしくお願いしますぅ〜」
「我らは内側のようじゃな。初日の守備は誰がやるかのう?」
「今までここで行っていることを知られていないようだから、初日のこちら側は大丈夫じゃないかな?」
「お父様の言う通り、そこまで警戒する必要はなそうです」
 たとえ怪しい者がうろついていたとしても、外で未然に防げるはずだと考える。
「あら、エリシアさんから連絡が…」
 ノートパソコンからネット通話の着信が聞こえ、エリザベートはカチッとクリックする。
「お疲れ様ですぅ、そちらどうですかぁ?」
『例の品を調達したので、まもなく到着しますわ』
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)はイヤホンつきマイクをつけながら、ヴァイシャリー駅に届いた積荷を大急ぎで魔法学校へ運んでいる。
「助かりますぅ〜♪今から封魔術について説明しますからぁ、そのまま通話モードにしててくださぁ〜い」
『了解ですわ』
「さて、皆さん。これからご説明するので〜、ちゃーんとメモの準備をしてくださいねぇ♪」
 皆が聞き逃さないようエリザベートはパンパンッと手を叩き、ノートやメモ用紙を手元に出させる。
「封魔術に必要なものをエリシアさんが運んできてくれるので〜、届いたらそれらを使って行いますぅ」
 テーブルに広げてある大きな用紙に水色のペンで大きな四角を描き、その中心に橙色のペンで小さく四角を描く。
「よく見て覚えてくださいねぇ。水色が外側で、橙色が内側に敷くポイントとしますぅ〜」
 遠くにいるエリシアにもパソコンの画面から見るように、カメラをテーブルへ向けた。
「次に、効果をもたない宝石を用意しますぅ。魔道具の試作品を作ったことがある人は、見覚えありますよねぇ?」
「エコーズリングを作るお手伝いの時に借りましたわ」
「えぇ、そうでしたねぇ♪先程、効果はないと言いましたがぁ、これに備わっている魔力の属性を利用しますぅ。皆さんの魔道具の力を、この宝石へ流してもらう形になるんですぅ」
 何も知らない者からすれば、ただの小さな宝石にしか見えず何をしているかも分からない。
 侵入してくるであろう彼らの目を欺くにも丁度よいものなのだ。
「外と内で魔力を繋ぐ手段は、皆さんの詠唱によるものですがぁ。休憩前にも言ったのですけど敷いた陣が破損すると、その流れが悪くなったり〜…最悪の場合は供給不可能になってしまいますぅ」
「万が一、外側がやられた時は、そこの担当はボコール退治をするわけじゃな?」
「そうですぅ!なんとしてでも、内のほうへこさせないでくださぁ〜いっ。ちなみに、発動元は中心の大きな宝石になりますので〜。これが破壊されると、サリエルの能力を封じることはできません〜」
「なるほどのぅ…。了解したのじゃ!」
 ジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)は赤いマーカーで記された大唱石部分へ目を落とす。
「詠唱の順は外からなので〜。守り手の人を通りして、内側の人へ詠唱のタイミングを伝えてくださぁ〜い」
「携帯かスマフォでいいのか?」
「えっと、ツーコールで合図してくれると助かりますぅ一輝さん」
「あぁ了解。…うん?誰か来たのか」
 扉をノックする音が聞こえ、一輝が扉を開けてやる。
「お待たせしましたわ」
「エリシアか、入ってくれ」
「端っこに置かせてもらいますわ」
「おねーちゃん、重い〜〜っ」
 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)も大荷物を抱え、校長室へと入る。
「ノーンも一緒だったのか。これはまた随分と買い込んだな」
「おなかすくかなーって思って、お弁当とか持ってきたんだよ。うぅ、疲れた〜っ」
 駅舎の駅弁やインスタント類を人数分運んできたノーンは、ぐったりと床に座り込む。
「ご苦労様ですぅ♪」
「そうそう校長。我らのアイデア術を封魔術に組み込めるのかのぅ?」
「いえ〜、それはちょっとできないですねぇ。必要とするパターンの仕組みが異なるんですよぉ〜」
「―…残念じゃのぅ」
「初日は陣を敷くお手伝いのほうをお願いしますねぇ」
「うむ、頑張るのじゃ!」
「では〜、封魔術の陣を敷き始めるのですぅ!外は私が教えるので、内のほうは人はラスコット先生に教えてもらってくださ〜い!!」
 陣の設置開始を告げるエリザベートの言葉に、祓魔師たちはそれぞれの担当エリアへ向った。