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リアクション
序章
葦原島、某所。
そこからやや離れた住民たちは共通して思う。
ああ、またか、と。
地面を響かせる衝撃と空気を震わせる爆音が鳴った。
発破用の爆弾が爆発した。しかも今晩だけで十発目だ。この向こうの森の小高い丘に、温泉の源泉が見つかったというから数日前からがりがり工事が始まっていた。温泉旅館を鋭意建築中だ、
まだそこはいい。それは許す。
温泉は地元の住民たちも楽しみだし、多少の騒音は覚悟していた。
事前の業者の話では、発破用爆弾は使っても五、六発程度という話だった。もしも源泉を岩盤が塞いでおり、なおかつ手持ちのツルハシやハンマーなどで破壊できなかった場合のみ使用するということだった。
まあ大体一発でイケますけどね。ははは。
とか言っていた業者の言葉が腹立つ。最後の『ははは』という笑い声が特に。
住民たちの予想通り、工事は手こずっていた。
作業をする人たちは皆ベテラン。魔法やスキルこそ大して使えない人たちだが、道具と筋肉でそれをカバーしてきた優秀な作業員だ。その証拠にすでに宿泊施設そのものは完成していた。ガスも水道も通った。あとは温泉を掘り出して風呂を完成させるだけだった。
ところが、旅館の中は中で、致命的な大問題が発生していた。
■■■
「んー、イマイチなんだよな。どこがどうって訊かれたら困るんだけどよ」
休憩中の作業員は、これから旅館で働く料理人たちから振る舞われた料理を食べてそう言った。
「そこを、どうか! 至らない部分を指摘してください!」
「いや、分からねえんだって! そもそも俺は建築作業員であって料理のことは一切分からねえんだよ! 塩辛いような、そうでないような……」
「どっちなんですか!」
「だーかーらー!」
と、こんな具合に、料理人たちはやる気に満ち溢れているのに今ひとつ美味しくない。
至らない部分を指摘されればきちっと取り入れて料理を作るし、客を満足させる工夫だってノートにびっしり書くくらい考えてある。
なのに、客を満足させるだけの素晴らしい料理が作れていない。
「誰でもいいです! 俺たちの料理のどこがダメなのか、具体的に指摘してください!」
■■■
オープン予定日まであと少し。
とてもではないが、このままではオープンできない。
旅館のオーナーはここ数日、どうすればいいのか悶々と頭を抱えていた。
彼らに救世主たちが現れたのは、その夜が明けてからのことだった。
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