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リアクション
第一章
岩盤破壊活動
翌朝、作業員たちがのろのろと発破現場に戻ってくる。
するとそこにはすでに、旅館のオーナーがたまらずに呼びかけた契約者たちが集まっていた。
「珍しい依頼が来たなと思ったが……」
そのうちの一人、ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)は一部むき出しになった岩盤に手を触れていた。
「なるほどな。かなりの硬度と厚さだ。発破用爆弾で手こずるわけだぜ」
ハイコドは腕に闘気を集中させて、岩盤の硬さがどの程度かを探っている。
「時間は掛かるが粉砕できるとは思うぞ。早速やるか?」
拳を合わせて、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)も自信ありげに言った。
「そうしたいところだが、とりあえず岩盤をもっとむき出しにしておこうぜ。こっちはいっぱいいるし、邪魔な物が少ない方が後の作業もやりやすいだろ」
と、ハイコドは周囲を見回す。
「それもそうだな。やっとくか」
唯斗は頷き、集まった契約者たちは方々に散って、周囲の地面を破壊、岩盤を掘り出し始めた。
「あ、あんたたちはちょっと離れてな。岩盤は俺たちでなんとか砕くからよ」
唯斗は去り際に、集まってきた作業員たちにそう告げた。
「では、やるか」
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がスキル・ハルマゲドンを発動。手加減した。
高熱で地面を刺激し、岩同士の結合を脆くする。
「よし。行くよ!」
ダリルのパートナー、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)もスキル・怒りの煙火を控え目に発動。地盤を突き破って炎が吹き出し、地面をめくり取っていく。
そしてハイコドたちが脆くなった地盤をまず叩き割り始めた。作業現場はあれよあれよと言っている間にどんどん広くなっていた。
■■■
三十分後、約三十メートル四方の地面が抉られ、丈夫な岩盤がだいぶむき出しになった。
岩盤はまだまだ大きそうではあったが、これだけの広さがあれば充分。ようはこれを割って温泉を噴出させればよいのであって、岩盤を丸ごと破壊するのが目的ではない。
いよいよ作業開始。先ほどのルー、ダリル両名のスキルにより、岩盤にはある程度の熱ダメージがあり、表面が少しだけ脆くなっている。
「さて、それでは早速……行くよ!」
「言っておくが、やりすぎるなよ。あの術は下手をすれば温泉を蒸発させかねない」
「分かってるよダリル!」
ルーがとっておきのスキル、火門遁甲・創操焔の術を発動。その気になれば大災害をも引き起こせる超絶スキルだ。本当はこれで岩盤を全部溶かして溶岩にして吹っ飛ばすつもりだったのだが、それを集まったメンバーに伝えると猛反発された。理由はダリルが言った通り、あまりの高熱のため、下手をすれば源泉を蒸発させかねないからだ。
というわけで、溶岩となって吹き上げ始めた岩盤を、ダリルの風門遁甲・創操宙の術の風が包み込む。その風は見た目は大して強くはなさそうだが、溶岩からの輻射熱をほぼ完全に遮断しており、よほど近づかなければ熱はほとんど感じられないほどにコントロールされていた。そのまま誰もいない、何もないところまで運ばれると風で冷やされて固まった。
「施工の業者の話と地形から判断するに、そのあたりが掘削しやすい場所のはずだ。他にもいくつかあるようだから、俺とルカの遁甲術で深めに穴をあける。そのまま叩き割って源泉を掘り出してくれ」
「りょーかい。このへんね」
と、最初の穴に向かったのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とパートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だ。
「さて、まずは破壊工作を使って、効果的に爆破できる位置を探りますか。ところでセレアナ」
「何よ」
「本当に私が料理のほう、手伝わなくて大丈夫なの? 私にやらせれば万事解決でしょ?」
セレンフィリティはどこか釈然としない面持ちで爆弾を設置。
「な、何言ってるのよ。あっちはあっちで心強い味方がいるのよ。それにほら、私たちはこの格好だし、温泉が噴き出してずぶ濡れになったところで何も問題ないでしょう?」
この二人、セレンフィリティはビキニ姿、セレアナはレオタード姿で作業をしていた。
「つまり、この作業は私たちのためにあるようなモノなのよ」
「ふーん。ま、私が出るまでもないってことね。私の失神させるほどの超料理スキルが見せられなくて残念だわ……っと、設置完了。離れて」
セレアナはそんな彼女の言葉に苦笑いと冷や汗を一筋。
セレンフィリティはこう言っているが、セレアナはそんな彼女が料理をしたいといってうきうきしているところを口八丁手八丁で上手くこっちに連れ込んだ。
これでいい。これが最善の選択なのだ。この旅館にとっても、そして今ここにいる人たちにとっても。
その料理の爆発力は、彼女が今仕掛けている爆弾レベルを誇っていることを誰よりも知っているセレアナは、自身にそう言い聞かせた。
やがて仕掛けられた機晶爆弾が多重爆発。相乗効果で増幅された衝撃が岩盤を深く削り取った。
■■■
ルーたちが開けた次の穴に、ハイコドと唯斗が立った。
「うし。俺たちもぶち抜くか。ん? 唯斗さんも素手?」
「ああ。一応武器は持って来たけど、まあたぶん素手でも余裕だろ。これでも鍛えてあるつもりだし、硬い岩くらいならスキルと地力でイケるだろうと思って」
「俺も同意見だ。ここの温泉が良かったら家族も連れてみんなでゆっくりしたいし、岩盤くらい粉砕してやろうぜ!」
二人は互いに頷き合い、両の拳に力を溜めはじめる。
「行くぜ!」
ハイコドの攻撃系スキル・滅破牙狼拳。岩盤の奥深くに気を送り、溜め込ませる。凝縮された闘気はやがて爆発を引き起こし、物を内部から破壊する。爆発するまでの間にハイコドは軟体化と自在のスキルを合わせて発動。触手と自身の身体を網のようにして地面に張った。これにより、爆発による岩盤の飛散をほぼ阻止することができる。やがて岩盤が弾け、しかし破片は周囲には飛び散らずにほとんどその場に留まった。あとはこれをどかすだけだが、それでも現役の現場作業員も茫然の破壊力を見せつけた。
「よし、俺もやるか」
続いて唯斗も潜在解放その他身体強化系のスキルを併用。装束による身体強化も掛け合わされ、武器など使わなくても強烈な攻撃力を誇る。その状態で、唯斗は深呼吸をひとつ。
やがて呼吸のタイミングに合わせ、岩盤に向かって一撃を叩き込んだ。
ハイコドとは対照的に、表面から豪快に叩き割る一撃は、発破用爆弾も真っ青なほど深く深く砕いた。
「どっちが先に温泉噴かせるか勝負してみようぜ! うら、もう一発牙狼拳!」
「お! 面白いじゃねえか。受けて立つぜ! てやー!」
やる気に拍車がかかった二人が、あの拳には爆薬でもついてるんじゃねえのか、と思うくらい力強く岩を叩き割っていく。
■■■
今日こそこの岩盤を叩き割って温泉を噴かせてやろうと意気込んで持って来た大量の爆弾の出番がまったくないまま作業はスムーズに進行。昨日までの苦戦ぶりがまるでお遊びだったように岩盤はボコボコにされていく。作業員も彼らを真似てグローブを付けた素手で叩き割ろうとしてみるが、小石一つ割れなかった。
そして正午も過ぎた頃。
各々が破壊していった穴がやがて一つにくっつき、大きな穴になって行った頃、人一人分くらいの深さにまでなった。
「そろそろいいか。せーの、でいくぞ」
応、と岩盤破壊作業の全員が頷いた。ハイコド、唯斗、セレンフィリティ、セレアナ、ルー、ダリルの六人を筆頭に、力自慢たちが力を集中する。
岩盤はだいぶ破壊できた。専門家の話でも、そろそろぶち抜けてもおかしくないということで、このまま全員で一気に叩き割ろうということで話はまとまった。
「「「せーのぉ!!」」」
ずどん、と叩き込まれる、地響きすら起こる衝撃。途端、岩盤がついに割れ、その下から熱い温泉が天高く噴き上がった。
作業開始からおよそ一時間。
噴き上がった温泉に大歓声が上がり、はしゃぎ、さながら祭りのように沸き上がった。