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ロウソク一本頂戴な!

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ロウソク一本頂戴な!
ロウソク一本頂戴な! ロウソク一本頂戴な!

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■ 2泊目 ■



 葦原島、とある忍者屋敷。
 七夕巡礼二泊目に、宿として使えと自宅を提供してくれたのは紫月 唯斗(しづき・ゆいと)だった。
 葦原島のとある屋敷。半分ほど引かれた玄関に子供達は物珍しげである。
「あれ、どうした?」
 玄関に入ったらすぐに歌うものだと思っていた唯斗は、マジマジと
「忍者さんの家もへーん!」
 変だと言われて、唯斗はなるほどと笑った。先にフレンディス達の家に行くと予定は聞かされていたので、唯斗の家″も″先の家と一緒だと子等は騒いでいるのだ。
 忍者というかそういう別の文化があるのはフレンディス等の姿で慣れてはいても、実際触れた事がない子供達は葦原に来てからその好奇心を更に剥き出しにしていく。
「皆、一旦並んで」
 状況に慣れてきて無遠慮になっていく妹や弟達にシェリーは、挨拶は大事よとひとりひとり並ばせていく。最年長として忙しなくする少女に唯斗は急かすこともせず、準備が整うまで待っていた。

竹に短冊七夕祭り 多いは嫌よ ローソク一本頂戴なー くれなきゃ顔をかっちゃくぞー

「おう、よく来たなー
 ほれ、好きなもんもってけー」
 唯斗が両手にぶら下げているお菓子が入った袋にソワソワしていた子供達は「ほらよ」と出されたそれに歓声を上げて群がり、袋からお菓子を取り出しては各々のバックに詰め始めた。一種のバーゲン会場みたいな様相にシェリーは「もー、お菓子は逃げないから、もう少し落ち着いて」と賑々しさに照れて、諦念に両肩を落とし、唯斗に向き直る。
「今晩はお世話になります」
 頭を下げたシェリーの挨拶に子供達はバッと唯斗を見た。全員の注目を浴びて唯斗は腹の前で両腕を組んだ。
「ここが俺の家で、そして今晩お前らが泊まる宿だ!
 ただ、中は広いから迷子になるなよ。
 飯はウチの嫁さんがスゲェ美味いの作ってくれっから期待しとけ!」
 どーんと仁王立ちの唯斗の宣言に、
「待て」
 子供達が騒ぎ出す前に玄関の外で様子を見ていた破名が動くなと制止の声を上げる。
「そうよ、みんな。さっきのフレンディスの家と一緒。靴を脱いでね。それと『お邪魔します。お世話になります』ってちゃんと言うのよ」
「シェリー、お前お姉さんだな」
 面倒を見る姿に唯斗が小さく漏らすと、シェリーは首を横に振った。
「みんなが教えてくれたことよ。私も前までどこかに泊まりに行くことが無かったから、どうしてお邪魔しますとかお世話になりますとか言うのかわからなかったもの。
 唯斗、今日はありがとう」
 経費節約になるだろー? 等二つ返事で快く快諾してくれたが唯斗達に相応の負担をさせているのだろうとシェリーは逡巡しては思う。
「いいって、気にすんな。なんなら出世払いでもいーしな!
 って、チビ達は元気だねぇ」
 お邪魔しますと挨拶の声は大きくても靴も揃えずに上がり込んだ子供達の行動で、顔を真っ赤にさせるシェリーに、良い事じゃねぇかと唯斗は笑う。
「シェリー、なんかあったら言えよー」
 もてなしはこれからだ。



 パラミタでも葦原島は独特な文化を築き上げている地域だ。
 仕事柄足を運ぶことはあっても、足を止めて見て回ることのなかった破名も例外ではなく、作法も全くわからないという顔で玄関から動かない男が二人。キリハは庭が見たいと唯斗の家族に申し出てこの場には居ない。
「おう、どした? 靴を脱いで、こっち」
 そんな破名と運転手に唯斗は、なーにやってんだと笑いながら誘う。
「すまない」
「チビ共はさっさと慣れたみてぇだぜ?」
「子供は順応するのが早い」
「そだな」
「気を使わせている。すまない」
「いーってことよ。それに、もしかしたらウチの学校に来て欲しいからサービスしているのかもしれんぜ?」
 冗談だと笑われて、破名はほっとする。
 破名はまだ少女がどこに行くのか聞いていない。



 それはかとなく唯斗の忍者屋敷。
 冒険する子等の声も興奮に満ちて、夜も遅いというのに、まだ誰も寝付かない。