リアクション
○ ○ ○ ツァンダに存在する、レグルス・ツァンダの私邸にて。 蒼空学園所属の陰陽師であるエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は、ここで集中を続け、ダークレッドホールの先の世界を見ていた。 「お体、大丈夫ですか?」 エリシアが休息の為に集中を解いた時に、イングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)が声をかけた。 イングリットは白百合団の副団長ティリア・イリアーノの指示で、エリシアから情報を貰う為に訪れていた。 「怪我でしたら、大丈夫ですよ。こんなこともあろうかと普段から身体は鍛えてありますの」 「そうですか……。ですけれど、もう随分と長い間、遠隔操作をされていますから。 他の方に代わっていただいた方がいいかもしれませんね」 時間の流れが違う為に、向こうの世界の1時間を把握するために、10日くらいの集中を要してしまうのだ。 「飲み物持ってきたよ!」 続いて、レグルスの元に相談に訪れていた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、トレーを手に現れた。 「お砂糖多めに入れた方がいいかも。少しでも疲れとらないとね」 美羽は紅茶の入ったティーカップを、エリシアとイングリットの前に置いた。 「こちらもどうぞ」 それから、近くのお店で買ってきたクッキーも一緒に出した。 「ありがとうございます。いただきますわ」 紅茶に少し砂糖を入れてかき混ぜて、一口飲んでから、エリシアはクッキーもいただいた。 怪我は完治していたが、確かに疲れはかなり溜まってる。 「レグルスにツァンダ側としてどんな対策をとっていくか聞いてみたんだけどね」 美羽も紅茶を飲みながら話しだす。 「ダークレッドホールの監視と魔法による抑え込みを続けながら、エリシアを補うための陰陽師の派遣に協力したいって言ってた」 「……そうですか。それは助かりますね」 「ただ、すぐには手配出来ないから、百合園の救護艇に乗せることは無理みたい。だから大変だと思うけど、もう少し頑張ってね!」 美羽がエリシアを労わりながら言うと、エリシアは勿論というように強く頷いた。 「抑え込みお願いしますね。本来離れている百合園より、ツァンダ家の方がより積極的に動くべきなのですけれどね……」 ツァンダ家も、そしてヴァイシャリー家もそう積極的にこの事件の解決に動いてないように見えた。 「ところで、橘美咲達に何かお伝えしたいことはありますか? 10文字くらいまでののメッセージでしたら、お送りできますよ?」 エリシアがそう言うと、イングリットは少し考えて……。 「『むり× まってて!』とお伝えできますでしょうか?」 「わかりました。そういえば、レオーナ・ニムラヴスが地面に文字を書いていました。『ごめんね』と」 その言葉を聞き、イングリットは首を強く左右に振った。 「お2人の勇気ある行動がなければ、ダークレッドホールの先の状態をわたくしたちは知ることが出来ませんでした。危機的状況にあると知ることが出来たからこそ、救護艇の派遣が決定されたのです。百合園だけではなくてきっと……シャンバラの人たちが力と知恵を貸してくださいますわ」 イングリットの言葉に頷いた後、エリシアは集中に戻るために立ち上がった。 「他にもメッセージが届きましたら、通信でお送りします。急ぎの件は電話で優先的にお知らせしますので、ダークレッドホールの調査、もしくは百合園に戻っていてください」 エリシアがそう言うと、イングリットは少し不安げな表情ながら頷いて。 「よろしくお願いいたします。ご馳走様でした」 エリシアと美羽に頭を下げ、百合園に戻っていった。 ○ ○ ○ 百合園女学院の会議室では、今後のダークレッドホール対策について話し合われていた。 ダークレッドホールの側では、魔術師達が広がりを抑え、状況を見守っている。 救護の為に救護艇が向かうことが知らされた為、広がりは抑えるものの、消滅させようという動きは無くなっていた。 「うーん、つながりはあると思うんだけど、どうしてもわかんないんだよね……」 会議に参加していたネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は眉間に皺をよせて、うーんうーんと考え込む。 これまで見聞きしたことについて、自分なりに調査をしているのだけれど、一連の事件とのつながりがどうしてもつかめずにいた。 「サーラさんが言っていたこと、それが今回の事件の鍵のように思えるんだよね……」 ネージュは、白百合団の団長の風見瑠奈(かざみ・るな)のパートナーのサーラ・マルデーラに付き添い、看病をしてあげていた。 しかし彼女は、突然パートナーロストと思われる症状を発症し、病院に緊急搬送されたのだ。 未だ意識は戻らないという。 「指輪……が関係してるみたいだけど……」 噂で聞けたのは、夏の合宿の夜、瑠奈がシスト・ヴァイシャリーという、ヴァイシャリー家の男性から指輪を渡されていたということ。 システィがサーラに尋ねていた、瑠奈が持ち帰った『百合の指輪』とはその指輪のことだろう。 サーラは「知らない、ただ、その指輪があれば瑠奈を助けれるかもしれない」と言っていた。 瑠奈に異変があったと思われる日。 苦しみながらサーラは「黙っていれば、瑠奈に手を出さないって約束だった」と言い、そして「瑠奈を助けて、シスト様」とシスティに向かって必死に懇願していた。 「システィの声、男の人の声のようだったんだよね」 それから、モニカ・フレッディが「シスト・ヴァイシャリー」と言い、システィに手を向けた。掴みかかるかのように見えて、ネージュは止めたのだ。 つまり、システィがシスト・ヴァイシャリーで、夏祭りの日に瑠奈に指輪を渡した張本人。 “指輪があれば瑠奈を助けられるかもしれない”のだから、その指輪が欲しいのなら、瑠奈が行方不明になった後、サーラは瑠奈の部屋を探したはず。 モニカももし、その指輪を欲していたのなら、一緒に探していたはず。 「それでも指輪は見つからなかった?」 サーラの動向を見る為に、モニカは傍にいたのだろうか。 「システィもその後、瑠奈の部屋を見に来たけれど、部屋の中探してなかったよね」 瑠奈が死にかけていると知ったサーラは、システィに助けを求めた。 その時、サーラを監視していたモニカは、システィがシストだと知り彼に手を向けた。 「シストに用があったってこと? あと、サーラは何かを渡してたみたいだけど……」 サーラがブリジットに何かを渡していたのを、ネージュは見てはいたが、それが何であったのかは分からず、その後ブリジット達と話をする機会もなかったので、知らないままだった。 「あと、約束って誰としたんだろう? モニカに命令出してる人?」 一人で考えていても答えは出ず、調査しようにもどう調査したらいいのか、分からなった。 サーラが渡していたものについては、受け取った相手に聞くしかないだろう。 交わした約束に関しては、モニカに聞くしかないけれど、モニカの行方は分からず、パートナーのティリアも何も知らないようだった。 「システィ、どこにいるんだろう」 システィ・タルベルトはあれ以来、学校を休んでいる。 ネージュには連絡をとることもできず、住んでいる場所もわからなかった。 (でも、彼女が、シスト・ヴァイシャリーなら……!) ネージュは立ち上がると、付き人と共に会議室から出て行こうとした人物に駆け寄った。 「教えてほしいことがあるの。あたしが知っていること、何かの役に立つかもしれない……」 そう言って、その人物――ミケーレ・ヴァイシャリーに、サーラの側で見聞きしたことを話していった。 ミケーレはネージュの話を聞きながら、指を一本自分の口に当てた。 「その話は広めないでほしい。シスト・ヴァイシャリーとは友人と共に面会できるように取り計らうよ」 小声でそう約束をして、ネージュの連絡先を聞くとミケーレはその場を後にした。 |
||