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【特別シナリオ】あの人と過ごす日

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【特別シナリオ】あの人と過ごす日
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リアクション


あなたに告げる言葉

落ち着いた照明の廊下を、何人かの静かな足音が響く。

騎沙良 詩穂(きさら・しほ)と、
パートナーの清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)
セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)
そして、高根沢 理子(たかねざわ・りこ)セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)は、
ともに、吸血鬼の少女 アイシャ(きゅうけつきのしょうじょ・あいしゃ)の病室の前を訪れていた。

代王である理子とセレスティアーナに、
青白磁とセルフィーナは礼を言う。
「理子様、セレスティアーナ様、申し訳ないのう。
忙しかっただろうに、足労をかけた」
「お2人にはお時間をいただいて感謝いたします」
理子とセレスティアーナは首を横に振った。

「気にしないで。あたしたちも、アイシャのことが気になっていたから」
「うむ。私も、アイシャには早く元気になってほしいと思っているぞ!
そのために私にできることがあるなら、なんだってしてやりたいのだ」

そんな2人に、セルフィーナは続けた。

「どうもありがとうございます。
わたくしたちも、その気持ちは同じです。

……ところで、
薄々気が付いているとは思いますが……。
詩穂様がお2人に『代王』としてではなく、
『アイシャ様の元パートナー』として立ち会ってほしいとのことです」

もちろん、それは、詩穂も、また、ロイヤルガードとしてではなく、
ひとりの個人として、アイシャに会いに来たことを意味していた。

セルフィーナの言葉に理子がうなずく。

「ええ。あたしたちも、アイシャのことを考える気持ちは、
ひとりの大切な友人を想う気持ちよ。
とりわけ、元パートナーだったんだから……。
アイシャに一刻も早く会いたい、顔を見たいと思ってるわ。
……でも」

理子は、悲しそうに顔を伏せ、告げた。
「それでも、アイシャと直接会うことはできないわ。
……たとえ、元パートナーのあたしたちであっても」

「そのくらい重い病状だということだが……。
本当は、私たちも毎日見舞いに行ってやりたいんだがなっ」
セレスティアーナが胸の前で両手の拳を握りしめる。

「アイシャのやつ、毎日、たった一人でいるのかと思うと……」

セレスティアーナの言葉に、詩穂の胸が痛んだ。

(アイシャちゃん……)
その苦痛を、もしできるのであれば肩代わりしてあげたい。
けれど、そのことができないもどかしさが、
ずっと詩穂をさいなんでいた。

そんな詩穂の方を向いて、理子が努めて明るい調子で言う。
「その代わりに、
今日だけは、特別に、
テレビ電話でお話をできるようにしてもらったわ。
これは、アイシャの願いでもあるそうよ。
それでも、かなり無理をさせてしまうことになるけれど……」
「うむ、アイシャもさびしいんだろうからな。
こうなったらテレビ電話越しでもかまわないぞ、大勢で励ましてやろう!」
セレスティアーナが笑顔で言い、テレビ電話の用意されている部屋へと入ろうとするが。

理子が、セレスティアーナの首根っこをひっつかむ。

「な、何をする、理子!?」
「いいから、こっち来なさい。
あ、あたしたちからも、アイシャによろしくって伝えておいて」
理子は、詩穂にむかってウィンクして見せた。

「わああああ! やめろ引っ張るな!
何をする、放せーーーーーーーーーーーーーーーー!」
理子は、さわぐセレスティアーナを引きずって退場していった。

理子が空気を読んでくれたのを見て、
青白磁とセルフィーナも、
それぞれの想いを詩穂に告げる。

「ここからさきは、わしらは立ち入らん。
これは騎沙良とアイシャ様の問題じゃけえ」
「詩穂様、恋愛は2人でするものです。
周りがどう思っていようが関係ないのです」

「騎沙良が身に着けていたアクセサリー、
それが離れているときでも、お互いのことを想いあえる、
勇気の出る、形のあるものとなっておったのう」
アイシャから贈られたブローチが
何度、詩穂の心を奮い立たせ、なぐさめてくれたかわからない。

それは、魔鎧である青白磁にとって、
とてもよくわかることであった。
物に込められた想いは、時空を超えて、人の心に届くのだと。

「『虹を見たければ雨は我慢しなければならない』。
ある、有名な歌手の言葉じゃ。
誰でもわかる当たり前のことじゃが、それに気づくどうかじゃとわしは思うけんのう」
「うん、わかってるよ。
……あの時、アイシャちゃんと一緒に見た虹。
もう一度、あんなふうに過ごせたらって。
だから、詩穂は待ち続けることができたんだよ」

パートナーの言葉に、青白磁はうなずいた。
「ああ、騎沙良ならわかると思うとったけん」

「詩穂様、『?だから』好きではないのです。
そんなものは外面的なものでしかありません。
ステータスも地位も、みな、同様です。
女の子『だけど』好き……そっちの方が自分と相手を認めることができていいじゃないですか。
互いの顔や瞳を見つめあうのではなく、2人で同じ方向の未来を見ることです」

「うん、好きになった人が、たまたま女の子だっただけ……。
たまたま、シャンバラ女王になるべき人だっただけ……。
そして、今は、その力を失ったけど、詩穂の気持ちは変わらないよ」
セルフィーナの言葉に詩穂はうなずいた。

「それでは、これから先は、わたくしたちは立ち合いません。
けれど、わたくしたちは、詩穂様がきっとこの試練を乗り越えることができると、
信じています」
セルフィーナは、いつもと異なる、真面目な表情で告げた。

「人間関係をうまくやっていけるコツを教えてやろうか。
伊達に長く生きてないからのう、年の功じゃ」
青白磁も言った。

「相手をおもいやること。
互いに信じあうこと。
そして、深く愛しすぎないこと。
この3つだけ……そう、たった3つだけじゃ。
3つが多いと思うか、少ないと思うか、自分のとらえ方次第じゃのう」

そう告げると、2人のパートナーたちは、ゆっくりと歩き去っていった。

ひとり、残された詩穂は、小さな声でつぶやく。
「……みんな、ありがとう」



病室の隣の小さな小部屋には、テレビ電話が設置されていた。

スイッチを入れ呼び出しコールを鳴らす間、
詩穂の胸は、早鐘のように鳴る。
(やっと、直接、話せる……アイシャちゃん)
手紙でのやり取りは行っていたが、
こうして顔を見ることができるのは、とてもひさしぶりだった。

やがて、電話がつながり、ディスプレイにはアイシャの姿が映し出される。

寝間着を着て、その上にカーディガンを羽織ったアイシャは、
やはり、かなりやつれて見えた。
それでも、かえって、その白い肌と、赤い瞳は、
美しさを増して見せるようであった。

詩穂は、予想以上に弱っていたアイシャの様子に心を痛める。
「アイシャちゃん……やっと、話ができるね。
大変なのに、お手紙の返事、書いてくれて、どうもありがとう」
アイシャは、気丈に応えた。
「こちらこそ、お手紙ありがとうございます。
どんなに力になったか……。
それに、この間は、献血も……。
私も、直接、詩穂にお礼を言うことができてうれしいです。
……でも、どうか無理はしないでくださいね」
「無理なんてしてないよ。
詩穂は契約者だから」
詩穂は、にっこりと笑みを浮かべた。
「身体は小さいけど、これでも丈夫なんだよ。
それに、アイシャちゃんのためだったら、
少しくらいの無理はさせてほしいかな」
「ふふ、どうもありがとうございます」
アイシャも、穏やかに微笑んだ。
「フマナのときもそうでしたが、
詩穂は、不思議な人ですね。
そうやって、私に無償で力を差し出してくれる……。
そのことが、とてもうれしかったです」
アイシャは、しみじみと言った。

詩穂は、簡単に近況を説明し、
そして、大切なことを告げる。

「ねえ、アイシャちゃん。
前も言ったかもしれないけど、お互いの立場は関係ないよ。
そして、性別も、関係なく、
詩穂は、アイシャちゃんが、アイシャちゃんだから、好きなの」

詩穂は、じっと、アイシャの真紅の瞳を、テレビ電話越しに見つめた。

「好きって気持ちだけで此処までこれました。
……だから、これまでのこと、ありがとう」
アイシャも、笑みを浮かべ、その言葉にうなずいた。

「愛しています」

詩穂が、初めて、口頭でアイシャに告げる言葉。
詩穂をじっと見つめ、アイシャは答えた。

「私を、愛してくれてありがとう」
笑みを浮かべ、うなずくと、アイシャは続ける。

「私は、幸せ者です。
創られた存在でありながら、
皆さんのおかげで、自分の選択で、シャンバラを救うことを願い、
それを途中までですが、達成できました。

もう、特別な力のない私ですが、
気にかけてくれる人たちは大勢いる……。
さっき、理子さんとセレスティアーナさんもいらっしゃっていましたよね?」

詩穂は、うなずく。

「うん、アイシャちゃんによろしくって言っていたよ。
他にも、アイシャちゃんが大切な人、
アイシャちゃんのこと好きな人たちが、いっぱいいるよ。
それに、詩穂は……」

「はい」
アイシャは、笑みを浮かべる。
それは、今まで、詩穂に見せた中でも、特別なものだった。

「どうもありがとう……」
笑みを浮かべたまま、アイシャは力尽きるように、ベッドの上で眠りについてしまう。
その目からは、うれし涙が流れていた。

その様子を見守り、詩穂はつぶやく。

「いつまでも……待っているからね」