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リアクション
過去と、今と、そして
湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)は、
パートナーのセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)と
エクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)、
そして、ベルネッサ・ローザフレック(べるねっさ・ろーざふれっく)とともに、遺跡探検にやってきていた。
遺跡の内部は外界より涼しい。
いくつかの罠を潜り抜け、雑談をすることができるくらいの余裕ができた時。
「ベルは本当にすごいですよね。
さっきも冷静に罠に気づいて……」
「まあ、慣れてるからね。でも、凶司のおかげで解除できたんだよ」
「いえ、ベルの的確な指示のおかげです。
ベルはいつも……」
そんな中、ふくれっ面をしていたエクスが、
ついにたまりかねたという様子で、大声を出す。
「まーた始まった……最近キョウジってそればっか!」
パートナーの凶司が、いつも、ベルネッサのことばかり話していることに、
エクスは不満を持っていたのだった。
「ベルもさ、あんまり入れ込まない方がいいよ!
ボク知ってるんだから、ろくでもない奴だって!」
「ろくでもない?」
きょとんとするベルネッサに、エクスがまくしたてる。
「キョウジはね、昔、環菜に逆恨みして、
いろいろ貶めようとしてたんだから!
涼司のことも、最初は気にいらなかったみたいだし……。
それに、何より、ボクのことをだましてパートナー契約して……!
絶対に許せないよ!」
「い、いやそれはその……誤解!
あ、いやたしかにそういうこともあったというかなかったというか……」
慌てて両手を振る凶司だが。
「あったよね!?
今さらごまかしても遅いんだからね!」
「ハイ……ありました……」
エクスに問い詰められ、凶司はうなだれる。
「まぁそういうことも……あったわねぇ」
セラフが笑みを浮かべたまま言う。
「けどまぁ、そんな大悪党じゃないしねん。
良くも悪くも子どもっていうか……。
本人は騙したつもりだったのかもしれないけど、ねぇ?」
本当に騙してパートナー契約したのは、エクスだけである。
だから、セラフはそこまで凶司を悪者とは思っていない。
「セラフお姉ちゃんはそういうけど、ボクは今でも大嫌いっ!
ベルも気を付けないとウスイホンみたいなことになっちゃうよ!」
「ウスイホンってなに?」
「わーっ! わーっ!」
ベルネッサに聞き返され、凶司が大騒ぎする。
「薄い本……って、エクスも意味わかって言ってるのぉ?
たしかに凶司ちゃんのコレクションはいろいろあるのは知ってるけど……」
「よ、よくわからないけど、えっちな内容なんでしょ!?」
「え、それって……」
セラフとエクスの発言に、ベルネッサが「ああ」という表情になる。
同人誌のことは知らなくても、だいたいのことは推測できたらしい。
「ほ、ほんとにもう勘弁してください……」
凶司が真っ赤になってうなだれている。
「それとも、ベルってばそういう趣味?
年下に調教されちゃうのが?とかぁ?」
助け舟を出していたはずだが、いたずら心から、セラフが冗談半分で言う。
「どっちかというと調教はする方が好きかもしれない、かな?」
ベルネッサはにっこり笑って、
やはり冗談半分で言ってみせた。
「ええっ!?」
真っ赤になる凶司の隣で、
エクスが浮足立つ。
「ちょ、調教!?」
「でも、なんだかんだで、
そんなにいろいろ話してくれるなんて、
やっぱり仲がいいのね」
ベルネッサに言われ、エクスが慌てて首を左右にぶんぶんと振る。
「違うよ、別に……!」
「だって、本当に嫌いなら、
こんな危険な場所、一緒に来ないはずでしょ?」
ベルネッサに指摘され、エクスは固まる。
「そ、そんなこと……ボクは極悪人のキョウジに騙されて……。
でも、最近は確かにそうでもないような……いや、でもでもでもっ……!」
エクスの頭から湯気が上がっている。
「あらあらぁ。知恵熱出しちゃったみたいねん」
セラフが気楽な口調で言う。
しかし、その時。
「……ベルネッサ! 来ました!」
モンスターが襲撃して来たのだった。
そのことに気づいた凶司が指摘し、
一行は戦闘態勢に入る。
無事に敵を倒した一行は、
遺跡の奥にあった秘宝を手にすることができたのだった。
「さっきはありがとう。でも、呼び方は、ベルでいいって言ったのに」
「すみません、まだ、つい……。
でも、少しずつ変わろうとはしてるんです。
えっと、呼び方以外も……真人間になりたいなって」
凶司が言う。
「そういう、その……さっきのエクスの話みたいに、
最低な部分があるのは確かだと思います……。
あ、あと、『そういう本』も持ってます、すみませんっ!」
「……いや、本のことは別にいいんだけどね?」
ベルネッサがくすくすと笑う。
「ただ……今は嫌いです、自分のそういうところ」
うつむいて言う凶司に、
ベルネッサは言った。
「そうね、たしかに、本当に悪いことをしてたのなら、
褒められたことじゃないわ」
バッサリと言われ、縮こまる凶司だが。
「だけど、あなたが変わってきていることは、私は実感してるの。
……私は、あなたのそういうところは好きよ。
潔く自分の欠点を認めて、前へ進もうとするところが」
ベルネッサは微笑を浮かべた。
「エクスやセラフもきっとそうよね?」
「ちょ、だからそんなんじゃ……!」
「まあねぇ。凶司ちゃんは、見てて飽きないのは確かだわねぇ」
振り返ったベルネッサに言われて、
エクスは慌て、セラフは笑みを浮かべる。
凶司は、進み出ると、ベルネッサの手を取った。
「あ、あの、僕、頑張ります、ベル……!」
緊張して震えながらだったけれど、
凶司は、はっきりと宣言する。
「もっと、ベルにふさわしくなれるように……!」
「期待してるわ」
ベルネッサがうなずく。
エクスは、その様子を複雑な表情で見つめていた。
(あらあらぁ?)
セラフは、それを見て、笑みを深くした。