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リアクション
アイリの答え
柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は、
バレンタインに告白したアイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)の返事を聞こうとしていた。
「よっ、アイリ。予想より早かったな?」
アイリに呼び出された恭也はいつもの感じで言う。
自分が告白した前回と異なり、
アイリがどんな答えを出しても、
それを受け入れるだけ。
そう考えていたため、恭也は落ち着いていた。
「んじゃ、お前さんの答えを聞かせてくれ」
「わ、私、は……」
一方、アイリは、顔を紅潮させ、普段の落ち着きをなくしていた。
「あの、少し、歩きませんか?」
「いいぜ」
すぐに答えを聞けると思っていたので、
やや拍子抜けしたものの、
アイリが必死で気持ちを落ち着けようとしているのを感じて、
恭也はついていく。
誰もいない公園には穏やかな初夏の風が吹いている。
「あれから、ずっと考えていたんです。
恋人の好き、というのがどういうものなのかを」
アイリが、歩きながら、前を見たままで語る。
「私は、恭也さんが好きです」
「そうか、なら……」
「いえ、その、ただ、それは……!」
アイリは、恭也の言葉をさえぎって続ける。
「その好きは、どういう意味の好きなのか……。
私の好きは、恭也さんが私を好きなのと同じ好きなのか、
ずっと、考えていたんです。
でも……」
「でも?」
「……答えは出ませんでした。
ただ、ひとつ、わかったことがあります」
アイリは、振り返って、恭也をじっと見つめる。
「あの、バレンタインから、
私は、ずっと、恭也さんのことを考えていました。
そして……これから先の未来、
ずっと、隣にいてほしいと、そう思ったんです」
アイリの瞳には真剣な色が宿っている。
「これって、一般的に、恋人に対して求めることと同じですよね。
だとしたら、私も、恭也さんと同じように、
恭也さんが好きなのかもしれないと……」
「あはははは!」
恭也は、緊張しているアイリとは対照的に、大声で笑いだす。
「な、なにか、私、おかしなこと言ったでしょうか?」
どぎまぎしているアイリに、恭也は、首を振った。
「……いや。何もおかしくはねえよ。
真面目なアイリらしいな。
……じゃあ、これが、お前さんの答えなんだな」
アイリは、うなずき、恭也に近づいて口づける。
「……今、自然と、こうしたいって思ったんです。
私、恭也さんが、好きです」
「ああ、俺も、お前が好きだ、アイリ」
恭也は、アイリをしっかりと抱きしめ、口づけを返す。
ベンチで寄り添いながら、
アイリが、ぽつりと言った。
「……好きって、言葉では説明できないことなのかもしれませんね」
「ああ。そういうようなことは、いっぱいあるぜ。
これからも、きっと、言葉では説明できない気持ちが、たくさん湧いてくると思う」
恭也は、アイリの手を優しく握り、初夏の日差しを浴びながら、答えたのだった。