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リアクション
あの時から、これから
空京スタジアム。
酒杜 陽一(さかもり・よういち)が、高根沢 理子(たかねざわ・りこ)に、
初めて告白した場所。
改めて、2人は、この場所を訪れていた、
現在、競技は開催されておらず、
客席には人はいない。
「シャンバラ独立記念紅白歌合戦」の際、
理子に告白した陽一だったが、
その時は、理子に走り去られてしまった。
(あの日の晩は、布団の中で恥ずかしさと悲しさで大泣きしてしまったっけ……)
そんなことも、今ではほろ苦い思い出である。
「あの時は、あたし、パニックになっちゃって……。
陽一のこと考えられなくてごめんね」
理子が、当時のことを想い返し、言った。
陽一は、まるで心を読まれたように思い、どきりとする。
「そんな、理子さん。俺が突然告白したわけだから……」
神妙な顔になっている理子に、陽一がフォローの言葉をかける。
勇気を振り絞っての行動に、後悔はないが、
理子を驚かせてしまったのは事実だ。
「俺がもっとスマートにできればよかったんだけど」
理子は、陽一の言葉に、にっこり笑った。
「ふふ。そういうの、あんまり陽一らしくないと思うな」
「理子さん、そんな……」
「ごめんごめん。
……でも、あたしは、いつでも、まっすぐな陽一のことが好きなの。
いつでも、まっすぐに、あたしのことを想ってくれる、陽一のことが好き」
理子は、陽一の肩にそっと寄り添った。
「まだあのころ、陽一は『酒杜先生』で……。
まさかあんなことになるって思ってなかったな」
「俺も、高根沢家の跡取りである理子さんと、
こうして結ばれるなんて……。
理子さんが高根沢家の跡取りでよかった。
そうでなければ、この広い世界で俺は君に出逢うことはなかった筈だから」
「そうね。あたしが、
今の立場がなければ、
出会えなかった人がたくさんいると思う。
せっかく出会うことができたその人たちのことを、幸せにしたいって、
今では思うの」
かつては特別扱いをされることを嫌がっていた理子だが、
今では、自分の立場の責任を背負う覚悟を持ってきている。
そんな成長も、陽一にとってもうれしく誇らしいことだった。
「大事にしたい。君のことも、
俺達を引き合わせてくれた高根沢家や日本のことも」
「ええ。あたしも、陽一のことを大切に……そして、幸せにしたい」
陽一は、笑顔でうなずく。
「ああ、ふたりで幸せになろう」
理子は、陽一の瞳を見つめ、そして、そっと、口づけを交わす。
「今は誰もいないわよ。……いても別にいいけど」
少し驚いたような表情の陽一に、いたずらっぽく笑う理子を、
陽一は、愛おしく見つめ、そして、ぎゅっと抱きしめる。
ふたりは、再びキスを交わす。
今度は、より、深く、熱く。