蒼空学園へ

イルミンスール魔法学校

校長室

シャンバラ教導団へ

空を観ようよ

リアクション公開中!

空を観ようよ
空を観ようよ 空を観ようよ 空を観ようよ 空を観ようよ 空を観ようよ 空を観ようよ 空を観ようよ

リアクション


あたしたち

 2024年大晦日。
 空京のホテルの一室で、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)と、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、新年の訪れを待っていた。
 教導団に所属し、忙しくしている2人だが、幸い年末年始は休みがとれたので、新年は空京神社への初詣から始める予定だった。
 既に着ていく晴れ着のレンタルも予約済で、今は部屋でテレビを見ながら、のんびりと新年のカウントダウンを待っているところだった。
「来年は幸先がいいわ〜。神社で引くおみくじは大吉で決まりね!」
 先ほど、年末パラミタジャンボ宝くじの当選発表があり、一等は逃したけれど、4等の5万ゴルダをゲットしたのだ。
 そのため、セレンフィリティは踊り出しかねないほど、はしゃいでいた。
「セレン、落ち着いて。座ってみましょう」
 セレアナは苦笑気味な顔で、セレンフィリティを見る。
「はーい」
 ソファーに戻り、セレアナの隣でセレンフィリティはテレビをわくわくと見る。
 年明けまであと少し。
 テレビから流れてくる映像は、神社の静かな風景に変わっていた。
 ソファーに深く腰掛けて、のんびり待っていると――セレンフィリティの脳裏に、今年の出来事が浮かび上がり。
 少しずつ、セレンフィリティの顔から笑みが消えていく。
 2人は、長い間すれ違っていた。
 ほんの些細なズレからすれ違いを生み、すれ違うたびに互いを激しく傷つけ合って……互いの心の距離が回復不能なまでに広がっていくのではないかと、セレンフィリティはずっと恐れていた。
 二度と互いの心が通うことはないのかもと、諦めかけてもいた。
 だけれど、今年に入って、奇跡的に。
 導かれるようにして。
(あるいは還るべきところへ還ってきたかのように……再び、バラバラだった心と心は、ようやく一つになった)
 今の幸せと、苦しかったころのことを思い浮かべて。
 セレンフィリティはいつしか思い詰めた表情でうつむいていた。
「セレン、どうしたの?」
 セレアナの心配そうな声が、耳に響いた。
 ハッとして、セレンフィリティは顔を上げる。
 以前ならば、心配させたくないから黙っていただろうけれど、今はきちんとセレアナの顔を見て、打ち明ける。
「ごめん、セレアナ……あたし、あの時のこと、まだ引きずってる……でもあたし、それでも、自分が正直に自分の胸のうちを話せる人がいるだけ、幸せだと思うの」
 思いのままに、セレンフィリティは話していく。
「それにあたし、セレアナのことを不安がらせたり、傷つけたりしたくない……なんというか、その……ごめん、何だか自分で何言ってるか、ちっともわからない……」
 そこまで話して、セレンフィリティは失敗したとまた自己嫌悪に陥ってしまう。
 セレアナの事を不安がらたりするのは、セレンフィリティの本意ではない。
(なのに……また……)
 自己嫌悪の泥沼にはまり、セレンフィリティはまたずぶずぶと際限なく沈み込もうとしていた……が。
「!?」
 突然、セレアナの腕が、セレンフィリティを覆った。
 強く引き寄せられて、セレンフィリティはセレアナに抱きしめられた。
 セレンフィリティの唇がセレアナの耳に近づいて、優しい声が響いた……。
「セレン……私だって、今もあの時のことを引きずっていないとは言わないわ。私もあなたも、散々苦しんで、散々傷ついて……それでも、私たちは離れることができなかった。
 そうじゃなくて……離れたくないの。いまこうして、私が抱き寄せている人はセレンでないとダメなの」
「セレアナ……」
「……ねえ、セレン。心の重荷は、一人で引きずるより、二人で一緒に持って行きましょう。一人で抱え込んだら、その重みでつぶれてしまうわ。それに……セレン、私とあなたは“私たち”でしょう?」
 優しい抱擁と優しくて切なげな言葉に。
 セレンフィリティの心が、すっと軽くなっていく。
 手を伸ばして、自らもセレアナのことを抱きしめた。
「そうだよね……“あたしたち”だよね……こんな大切なこと……何故気付けなかったの……」
「そうよ、セレンと私は“私たち”なんだから……セレンは本当に鈍い子よ、こんな大切なことに気づかないなんて……」
「本当、あたしって鈍いよね……泣きそうになるわ」
 セレンフィリティの声が僅かに震える。
「……泣いたら、年明けのキスをしてあげない」
「……え、それは嫌! あたし絶対に泣かない!」
 浮かびかけた涙をこらえて。
 セレンフィリティは顔を起こして、セレアナをみつめた。
 セレアナもまた、セレンフィリティをみつめる――。

 花火が上がる音が響いた。
 テレビから、新年を祝う人々の声が響いている。

 どちらからとでもなく、2人は唇を重ねていた。
 長い長いキスを終えて、息をついて2人は再び、見つめ合う。
「おめでとう、セレン」
「おめでとう、セレアナ……2人でこうして新年が迎えられて、とても……幸せ……っ。
 ああ……っ、う、嬉し涙だから許して!」
「私も感動で胸がいっぱい……」
 微笑み合いながら目を潤ませて、二人は強く抱きしめ合った。