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リアクション
西カナン中央の海岸沿い。
不時着した古代戦艦ルミナスヴァルキリーの周辺では、すでに生徒たちが土地の開拓と建物の建造等を行っていた。
生徒たちの傍でそれらの様子をドン・マルドゥークが見守っていた。
そんな彼の姿を遠くに青葉 旭(あおば・あきら)が歩み寄り来た。
「連れてきたぞ」
「ん? おぉ! おお!」
マルドゥークが、そして旭が連れてきたカナンの民たちは揃って歩み寄り、手を取った。
「無事であったか」
「マルドゥーク郷こそ、ご無事でなによりです」
集落長だと言った男が皆を代表して、その喜びを伝えた。
マルドゥークの居城が落とされた事は彼らも知っていた。ここまでの歩み中、マルドゥークがネルガルを討つべく立ち上がった事を伝えると、彼らはそれを涙して喜んでいた。
「少人数だったから連れてきたんだ。ここの方が安全だろうからな」
「うむ、よくぞ見つけてくれた。感謝する」
旭にも手を差し出したマルドゥークに、彼も強く握ってそれに応えた。
連絡のとれなくなっていた民を保護するため、旭は山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)と共に川上の集落を訪れた。
必ずその周辺に居ると信じて川岸を上っていたのだが、何せ、川は砂に埋まってしまっている。何度も見失い駆けたながらも、しぶとく川沿いを行ったおかげで出会うことができたのだった。
聞けば集落はモンスターの襲撃に遭い、そのほとんどが損壊してしまったそうだ。幸い、モンスターは退けたものの、再襲の危険性も考えて、身を隠しながら川を下ってきたのだという。
「お引っ越し〜〜〜、お引っ越し〜〜〜」
「〜〜〜〜〜へぃ! 〜〜〜〜〜へぃ!」
歌っているのが集落の子供たち、ノリノリで合いの手を入れているのがにゃん子である。
山猫のゆる族である彼女はそれだけで子供たちの興味を引いたが、ノリの良さと声の美しさも相まって、今では子供心をガッチリしっかりと掴んでいた。
子供たちとジャレ合う姿は、見ている大人たちをも笑顔にしていた。
「そう言えばマルドゥーク郷、仮面の兵士殿お出でですかな、是非とも彼に礼を言いたいのですが」
集落長の言葉に、マルドゥークは首を傾げた。
「仮面の兵士?」
「牛鬼の鉄仮面を被った方です。軍の鎧を纏った……筋肉質でとても大きな方です」
マルドゥークはしばらく思い返していたが、集まった兵の中にそのような者は居ないと答えた。そもそも『牛鬼の鉄仮面』自体が10年以上も前から使われていないタイプなので、そのような兵士は存在するわけがないという。
「オレたちも一応捜してみたんだけど、仮面の男どころか、人一人見つからなかったよ」
道中にこの話を聞いた時から、旭にはある疑問が頭から離れなかった。
――そもそも、なぜ姿を消したんだ?
マルドゥークの配下の者なら、彼が反旗翻したことも、ルミナスヴァルキリーに滞在していることも知っているはずだ。それなのにその男は、一切にそれらの事を語らなかったという。そうしなくてはならない理由が分からない。
「そういえば鎧も旧タイプだったように思えますな。恐ろしく強い槍使いの方でしたが」
「槍使い……」
思い当たる節があるのか、マルドゥークは眉を寄せて考え込んでしまった。そんな彼に、今度は紳士な男が声をかけた。
「壁面の修復は終わったぜ」
ロビン・グッドフェロー(ろびん・ぐっどふぇろー)は、コンコンと戦艦の外壁を叩きながらに言うと、
「あとは底面の修復だが……」
と空を見仰いだ。その視線の先ではゾリア・グリンウォーター(ぞりあ・ぐりんうぉーたー)が足場を跨いだままに顔を覗かせた。
「うぅ〜ん、こっちはもう少しかかりそうにょろ」
パートナーのロビンが壁面、ザミエリア・グリンウォーター(ざみえりあ・ぐりんうぉーたー)が機関部、そして彼女が底面の修理を担当していた。戦艦底面を修復するにはまず、埋まった船首を引き出して固定する必要がある。そのための足場を拵えていたのだが、ここに来て進捗状況の差が明るみになったようだ。
「機関部の修復も終わってます、いつでも浮上できますわ。あとは……」
言ったザミエリアは見上げみて。
「あぁ、お嬢を待つばかりだ」
言ったロビンも見上げみた、先には2人のパートナーゾリアの姿が……。
「だ! か! ら! 待つにょろよ!! こんなに大きな船体を支えるものを作っているにょろ! 時間が掛かって当然にょろ!!」
手足をバタバタさせて抗議していた。何だかとっても元気そうである。
「そりゃそうじゃ、実際に施工しておるのは、わしらじゃからのう」
木材を肩に乗せ抱えながらグラン・アインシュベルト(ぐらん・あいんしゅべると)が梯子を登ってゆく。その言い種には一切に皮肉は込められていなかったが、ゾリアはビシッと指さして言った。
「戦艦の警護なんて言って、いつ来るか分からない敵をじっと見張ってるなんて暇でしょ! 暇なら手伝う、これ当然にょろよっ!!」
「おぉ〜指揮官殿は怖ぃのう」
「しかし、ゾリア殿の指示は的確である」
アーガス・シルバ(あーがす・しるば)も足場の上を木柱を抱えながらに歩んでいた。『ドラゴンアーツ』を発しているからだろうか、とても軽々と歩んでいるように見える。
「なるほど、これほど円滑に進んでおるのは指揮官殿の厳しくも容赦のない指示のおかげであったか」
「視野も判断力も申し分ない、指揮する姿も……実に様になっているであろう」
「ありゃこりゃ確かに」
一聞すれば誉め称えているようにも聞こえなくはないが、
「ぅう〜〜〜〜!! 指示だけ出してるみたいに言うな! 私も作業してるにょろよ!!」
とゾリアがツッコむと、2人はスタコラと去っていった。それと引き替えという訳では決してないが、大きな叫び声が響いて聞こえた。
「のわぁ〜〜」
叫ぶは狼の獣人オウガ・ゴルディアス(おうが・ごるでぃあす)、彼は今まさに落下している最中であった。
「おふっ、あふぅっ」
それを受け止めたのは伽耶院 大山(がやいん・たいざん)、山のように大きな体でオウガを抱き受け止めた。
「大丈夫ですかな?」
「いやぁ、助かったでござる。思わず梁の上から落ちてしまったでござるよ」
ゾリアに強要―――いや、協力して造っている足場の上から落下したようだ。幾ら地面が砂だからと言って、まともに落下すれば、それこそ大怪我になりかねない。
「これで82回目の落下ですぞ、気を付けねばいつか本当に地面に落下してしてしまう」
足を滑らせる、釘を拾おうとしてバランスを崩す、首にかけたタオに視界を遮られる、何もない所で転ぶ、などなど。82回のバリエーションともなると覚えておくのも一苦労である。
「それにしても、警備をしながらの作業は困難を極めますな」
「そうでござる、そうなのでござるよ。しかし、そこがまた、やりがいを感じる所でもある、でござるなぁ」
「まったくその通りですな!」
大男2人の豪快な男笑いが始まった……なんだろう、この一体感は……と、今度はロビンが憂鬱になった。
「はぁ……俺たちも手伝うとするか」
「いいえ、わたくしは見張りに戻りますわ」
ザミエリアは笑みに怒りを滲ませて断った。忘れもしない、忘れられない前回の屈辱。欺かれ、出し抜かれ、そして背を焼かれた! あの4人は許さない!
「二度と……二度とあんな勝手な真似はさせませんことよ!!」
「……………………不審者が居ても……殺すなよ?」
返された笑みに挑戦的な含みが加わっていた……。
何とも心配でたまらないが、敵もまさか同じ奴に2度も仕掛けさせるなんて事はしないだろう。気を付けるべきは模倣犯か……。
――まぁ、俺なら修理が終わった所を狙うがな……。
ロビンがそう思い馳せていた頃、彼の対面、海を見つめながらルカルカ・ルー(るかるか・るー)が唸っていた。
「そろそろのはずなんだけどな〜」
『首を伸ばして待つ』とはよく言ったもので、ルカは首だけでなく背と足の筋も伸ばして地平を見つめていた。
「どなたをお待ちなのですか?」と優しそうな物腰で訊ねたセレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)に、彼女は、
「うん……パートナーのカルキがね、もうすぐ色々と運んでくるはずなんだけど」
と悩ましげに応えた。
聞けば『水、食料、武器弾薬、医薬品に電池や無線の類、修理に必要な資材や精密機器など』多岐に渡って用意してもらい、それらを可能な限り運んでくるよう言ってあるのだという。
「戦争って滅茶苦茶大食いだから、正直それでも全然足りないんだけどね」
「いえ、大変ご立派ですわ」
セレスティアは心からの思いを彼女に伝えた。
船を修復するだけでなく、拠点本陣としても十分機能するように補強も施そうとしたり、集まった兵たちの軍議にも参加して教導団での修学を生かした助言も行っていると聞いている。正に拠点確立の中心選手として戦う姿には脱帽だった。
「そうですわ、大食いで思い出したのですが」
セレスティアは、持ちやすいサイズの弁当箱を手にとると、ゆっくりとその蓋を開けてみせた。
「食事を作りましたので、ぜひ食べてください」
「わ〜綺麗〜、あっ、チョコバーも付いてる〜」
「たくさん作りましたので、みなさんも、どんどん食べてくださいね」
戦艦修復衆だけでなく、開拓衆に建築衆まで集まってきた。
みなが思い思いに弁当を手にとる中で一人、弁当箱の蓋を開けたラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が硬直していた。
「おぃ……これ……」
「な、なによ」
五十嵐 理沙(いがらし・りさ)は腕を組んで斜めに言った。
「何か文句でもあるわけ?」
「文句っつーか…………何で飯の中にチョコバーが埋まってんだ?」
梅干しを乗せて日の丸弁当! のニュアンスなのか、ご飯の中にチョコバーがめり込まれていた。もちろん当然にチョコは溶けまくっている。
「しっ、仕方ないでしょ、そこしか入れる所がなかったんだから。イヤなら返してよね」
「いや…………これはこれで退屈しなそうだ。貰ってくわ」
そう言ってラルクは同じ弁当をもう一つ手に取ると、歩みながらに
「お〜い、マルドゥーク、なかなか見れない弁当があるぞ」
と呼びかけた。
「人の弁当を珍味みたいに言わないでよねっ!!」と言った理沙の言葉に場が沸く中で、マルドゥークはそっと弁当の蓋に手をのばした。
「ほぉ……これは……………………」
「笑えるだろ? 白米にチョコレートだぜ? いくら食材が限られてるからってコレは凄ぃ―――って、おい…………マルドゥーク?」
「いや、すまん。つい懐かしくて」
「懐かしい?」
彼は必死に隠そうとしたが、その目には、いっぱいの涙が滲んでいた。
「娘はチョコレートが大好きでな。娘の喜ぶ顔が見たくて、ザルバに内緒で娘にチョコレートをあげていた時期があったのだ。娘がまた可愛いことに、毎回少しだけ残してな「あとで食べるの」とポケットの中に隠すんだ」
涙も増したが、うっすらと笑みも増していた。
「ところがある日の食事時に、それがザルバに見つかってしまってな。「どうして持っているの?」と訊かれた娘は涙を必死に堪えて『ご飯と、いっしょに食べたら、おいしいと思って』と言い訳したんだ」
「……あんたを、庇ったのか」
「あぁ。そうだ」
もちろん、その後でオレはザルバにこっぴどく怒られたがな、と言った彼の顔は少しだけ嬉しそうにも見えた。
「ザルバってのは、奥さんか?」
「あぁ」
そう言ってマルドゥークは懐から写真を取り出した。手渡された写真には幼い女の子と若い女性が映っていた。
「ずいぶんと歳の離れた姉妹だな」
「姉妹? 何を言っている」
「あん?」
「こっちが娘のメートゥ、そしてこっちが妻のザルバだ」
「はぁ?!!」
ラルクは写真を食い入るように見つめ直した。娘? 妻? いや、娘はまだ分かる、3歳くらいか? しかし妻は……どう見ても20代、いやそれどころか20代前半にも見える。
「ラルク、手伝ってくれ」
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が声をかけたが、写真を見つめるラルクはピクリとも動かなかった。
「ラルク! ラ、ル、ク!!」
「んぁあ、すまん」
肩を揺すられてようやくラルクは帰還した。ダリルのパートナーの飛空艇が到着したので、運ばれてきた物資の運搬を手伝ってほしいとの事だった。
「あぁ、いま行くぜ」
マルドゥークに返す前に、もう一度、写真を見つめた。意志の強そうな瞳、それでいて気品漂う面持ちにピンと伸びた背。これがマルドゥークの奥さん、この若さで西カナン領主の妻……。
何度見ても信じ難かった……たしかマルドゥークは46歳だったはずだ……。
「なんだ……その……改めて大物なんだな、あんた」
「???」
腑に落ちないといったラルクの表情に、マルドゥークは最後まで不思議そうにしていたのだった。
「ほらよ、持ってきたぜ『なにもかも』」
「ごくろう。助かる」
すぐに荷物の確認を始めたダリルにカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)がボヤいた。
「あのな、どうせ分かってねぇだろうから言うけどな、『なにもかも』ってのは結構難しいんだぞ?」
「そのわりには期待した通りの物ばかりですよ。さすがです」
「当ったり前だ、俺を誰だと思ってやがる」
『水、食料、武器弾薬、医薬品に電池や無線の類、修理に必要な資材や精密機器など』などなどが、崩れんばかりに『小型飛空艇アルバトロス』に積み込まれている。どれも必要な物だが、荷をおろして解くだけでも大変な量だという事は一目瞭然だった。 「すぐにとりかかろう。ゴーレム! カルキノス!」
「あいよ…………つーか、ゴーレムと並べて呼ぶんじゃねぇよ」
届けられた救援物資。カルキノスにはもう何往復かする任務が残っているが、それらは全てこの国の血となり肉となるとダリルは信じている。
自分は技術面で、また戦艦の修復や土地の再生、建物の構築に警備体制の整備などに力を入れて貢献している者たちがいる。
やるべき事は多い、そしてそれ以上にこの国の為にやれる事は、より多くあるように思う。
今はただ全力を尽くすのみ、との皆の意気込みが伝わってくる。そんな気が、したのであった。
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