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リアクション
居城へ。何にも目もくれず。
「やはり、護衛の方もいらっしゃいますわね」
リース・バーロット(りーす・ばーろっと)は城壁の周囲に瞳を向けて走り見た。壁の上部には兵の姿はない、しかし城外には背中に兵を乗せた『砂鯱』が3体いるのが見える。同じ様を見たのだろうが、高島 真理(たかしま・まり)は、
「それにしては少ないわね。舐められてるのかしら」
と口を尖らせて見せた。ちなみに今は真理の『小型飛空艇』の機体に、『宮殿用飛行翼』を装備したリースが掴まり飛んでいる状態である。
「突破しやすくて助かりますわね」
「まぁねっ。それじゃあ、はりきって行っちゃおうかなっ!」
いつまでも地面を這っているなんてガラに合わない。真理は一気に『小型飛空艇』の機首を空へと向けた。
敵さんもさすがに気付いたようだ。真理はパートナーたちと共に仕掛けていった。
それぞれに『小型飛空艇』を操っている。先頭を行くのは源 明日葉(みなもと・あすは)だった。
「力強い中にも決して忘れぬしなやかさ」
明日葉は『セフィロトボウ』を前方の砂地へ向けた。
「まずはその泳ぎを崩させてもらうでござるよ」
向かい来る『砂鯱』の進路の鼻先に『ケセドの矢』を射た。
氷結属性を持つ矢は流れ星のように軌道を白く彩りながらに飛びゆき、そして『砂鯱』の視界に飛び込んだ。これに驚き避けようと『砂鯱』は体を捻って進路を変えた。
「おぬしにもくれてやろう」
僅かに後方から迫っていた『砂鯱』にも、同じに射いては進路を変えさせた。しかし南に向いたこの進路は決して好ましいものではなかった。
「こちらに来てはいけません」
南蛮胴具足 秋津洲(なんばんどうぐそく・あきつしま)がこれを追った。黒く美しい長髪と『魔法使いのマント』をなびかせながらに『小型飛空艇』をシャチの泳路に回り込ませると、『アルティマ・トゥーレ』を砂地に向けて放った。
冷気は砂地の表面だけでなく空気中の水分も凍結させた。
とは言ってもこの氷壁は形だけ。巨体を誇る『砂鯱』にすれば直進するだけで障子紙を突き破るが如くに容易に大破できてしまうのだが、『砂鯱』はここでもこれに驚き避けようとした。
「そちらではありません」
『砂鯱』は更に南に向かおうとしたので、もう一度。
「そちらでもありません」
西へ向いたが、すぐにまた……。
「………… 困った子」
秋津洲は連続で地面を斬りつけて、進行方向に壁を生み出し続けた。
突進されれば突破される、それは大変に困るのだが、どうにもこうにも臆病なようでシャチはこれをどうにか避けようと進路を変えて泳ぎ続けた。
牛追い? いや、だとしても南へ進まれるわけにはいかない。南には居城潜入班が身を隠し回り込んでいるのだから。
さてもう一体は―――
「おやすみなさい」
敷島 桜(しきしま・さくら)は砂をかき泳ぐ『砂鯱』に『ヒプノシス』を唱えて眠らせた。
思った以上に『ヒプノシス』は効果的で、泳いでいるにも関わらずに眠りに落ちてしまうほどで。おかげで『砂鯱』は急ブレーキ、背に乗る神官は大きく投げ出されてしまった。
「あ。そうですわ」
『氷術』を、と考えていたが、直前で『サンダーブラスト』に切り替えた。
「目立つように、大きく、派手にです」
一帯に雷が降り注いだ。
シャチに投げ出されながら果敢にも挑み来た神官兵は直撃を受けてここに倒れた。
「もう一度」
追い打ち、陵辱、トドメの意は無いので少しばかり離れた場所に雷を降らせた。
効果は覿面。すぐに新手が城の南側から現れた。
「さて、出番かのう」
ミア・マハ(みあ・まは)は声を抑えたままにメルカルトに言った。彼は「もう少し…… あと一人」と視線を城壁へと向けていた。そして、
「今だ!!」
彼のかけ声で一同は一斉に飛び出した。
マルドゥークの片腕である戦士メルカルトは100名を越える部下を率いて、居城を奪還するべく抗戦を続けていた。
頻繁に拠点を変えながら、物資の補給を行いながらに戦ってきた。マルドゥークが挙兵してからは兵の多くを主君に返上し、十数名の部下たちと居城への侵入可能箇所の特定をはかった。それがここ、城の南東部だった。
普段は100名近い神官兵が『砂鯱』やら『サンドドルフィン』やらに乗って城外の警備を行っている。しかし今はその内のほぼ全てがこの戦いの主戦場に向かっている、残った僅かな兵も真理たちを排除するべく集まりつつある。
リース・バーロット(りーす・ばーろっと)の『ファイアストーム』と『ブリザード』を空に放ち続けるという演出がまた戦いを派手に見せていた。
巨大な城門、その上部に兵の姿はない。残る敵兵は『砂鯱』に乗った神官兵がただ一人。
「まずはセオリーじゃが」
ミアは『アシッドミスト』で視界を遮った。
「次はボク、というかボクたちだねっ」
レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は『オリヴィエ博士改造ゴーレム』に並んで駆けていた。
ゴーレムの背後にはメルカルトの兵士たちが、そしてレキの背後には居城侵入を目指す生徒たちがいる。
「ボクの役目はっ」
騎乗する兵士に捉えられるより先に『先の先』の構えから『アルティマ・トゥーレ』を叩き込んだ。
「あとは皆っ! お願いっ!!」
転げ落ちた兵士にメルカルトの兵士たちが飛びかかった。『砂鯱』はゴーレムが体で押さえ込んでくれるはずだし。ボク自身攻撃力はそんなに高くはないからね、皆にお願いしたってわけさ。
これで道は開かれた。
メルカルトを先頭に生徒たちは一気に城門をくぐり、そして眼前に現れた幅と高さがそれぞれ10mにもなろうという石階段を不乱に駆け登っていった。
マルドゥークの居城内。城の北部、3階最上部の王座の間。
ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)は窓の外を眺めながらに、
「外はだいぶ盛り上がってるみたいだけど」
何とも楽しそうに口端を歪めた。
「アンタは良いのか? 行かなくて」
「良いのですよ」
ティーカップからそっと唇を離してアバドンは応えた。
「『泳砂部隊』は私が仕込んだ部隊ですもの。いまさら何を言わなくても、するべきことは分かっているはずですわ」
紺色の神官服から僅かに見える萌黄色の髪がサラと揺れた。
「それに私は神官兵の指揮を執らなければなりませんから。城を離れるわけにはいきませんわ」
「ふぅん。随分とネルガルに気に入られてるんだねぇ。一族まるごと人質にでも出したのか?」
「人質?」
「出すんだろ? ネルガルの傍に仕えるためには」
「そんなものは出していませんわ。というより、この城も神官たちも私が『お願い』して頂戴したんですのよ」
「ですのよ♪ じゃねぇよ。お願いして城を貰うだぁ? ホステスかってんだ」
笑い捨てながら部屋を出て行こうとするゲドーにアバドンは「どちらへ?」と問いかけた。
「見回りだよ。奴らが侵入してくるなら、そろそろだろうからな」
「侵入? 『泳砂部隊』がしくじったとでも?」
「いや、そうじゃねぇ。というか、そうじゃなくても侵入くらいなら平気でやってのけるんだよ、シャンバラの生徒ってのはな」
「それはそれは」
「厄介だろう?」
手首だけを振って見せてゲドーは部屋を出ていった。アバドンはこれを、最後まで慈愛に満ちた笑みで見送ったのだった。
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