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リアクション
【2】緊張の夏、三悪人の夏……1
薔薇学の黒崎 天音(くろさき・あまね)は活気のある通りを悠々と闊歩していた。
黒地に白で金魚と水草が描かれた浴衣姿、汗で後れ毛が首筋に張り付くのが気になるのか、時々指で払っている。
「夏祭りか。我も何度も来たことがある訳ではないが……祭り囃子とか言う音楽や夜店の雰囲気は嫌いではないな」
ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)ははたはたと団扇で仰ぎながら言った。
彼は紺地に白抜きの昇り竜模様の浴衣、むしろ嫌いどころか気合い十分、結構楽しみにしていたのが窺える。
「……それにしても、見たところ空京の有名人が勢揃いしてるようだね」
「鍋物屋におからドーナッツ屋か。いずれも褒められた有名人ではなさそうだが……」
「そうだね。まぁ彼らも更正してここにいるんだろうし、僕たちがいたずらに騒ぎ立てるのも野暮だね……」
しかし、ふと天音は足を止めた。
視線の先にはカラーヒヨコを売る露店……店主は元動物密輸犯【ドン・バーバル】氏である。
かつて威厳のあったライオンの獣人である彼も獄中生活は辛かったようだ……。
黄金の毛並みはすっかり白くなってしまって、痩せ細ったホワイトライオンと言った佇まいだ。
「自業自得とは言え、枯栄衰盛を目の当たりにするのは胸が痛むね……」
「どうした、天音?」
「いやなんでもないよ。じきに鬼院達の参加する男尻神輿バトルだ、今のうちに良い場所をとっておこう」
「ああ。しかし天音よ、いつになく機嫌が良さそうだな」
「僕だってたまには心躍る気分になる時もあるさ」
そう言うと2人はスクランブル交差点のほうへ向かった。
そんな彼らとすれ違うようにあらわれたのは、隻眼の鍛冶士水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)である。
黒地に白桜と蝶の柄の浴衣姿……普段も和装の彼女だが、今日はいつもとは違う色気を纏って見える。
「夏といえば夏祭り、夏祭りといえば浴衣……YU・KA・TAよねっ!」
「まったく……浴衣ひとつ選ぶのに何時間も待たせおって……ブツブツ……」
相棒の天津 麻羅(あまつ・まら)も紅白の生地に桔梗と藤の柄の浴衣でとても可愛らしい。
「なんか言った、麻羅?」
「ええい、もういい。折角の祭りじゃ、今日は存分に楽しむぞ!」
「おーっ!!」
その矢先、瞳に飛び込んで来たのはセンター街っぽくないファンシーな店構えの夜店であった。
売られているのはおからドーナッツ、売り子はゆったりワンピの森ガールたち……とくれば思い当たるのはひとつ。
「うん、おからドーナッツ……? ドーナツではなく、ドーナッツじゃと……!」
「はいはい、いらっしゃいませ〜。ニコニコニコリーナのドーナッツ屋さんへようこそぉ〜」
ガシャコンガシャコンと非モテ系の足音を鳴らし出て来たのは、重ね着のし過ぎでモビルアーマー状の物体。
「……やはりきさまはあの時のっ!!」
「むむ、誰かと思えばこの小生意気なドブスチビは……!」
「……え〜っと、名前はなんじゃったかえ?」
ガクっとずっこけるモビルアーマー。
「脳味噌が湧いてるのっ!? 大自然の育んだアイドル【C.W.二コリーナ】じゃないっ!」
ええと、噛み砕いて言うと、恐るべきエコテロリスト集団の首領である。
いきなり第二次シボラ対戦を勃発させそうな空気だが……慌てて緋雨が割って入りなんとか2人をなだめた。
「こんなとこで会うのもビックリだけど、その……ニコリーナさんはこんなところにいて大丈夫なの?」
「態勢を立て直すのにもお金がかかるんだもん。空京井の頭公園に新しいアジトを作るためにもいっぱい稼がなきゃ」
「そういうことじゃなくて、ここ、敵の……アゲハさん達のホームでしょ?」
「あら、ムカツク汚ギャルからお金巻き上げれば、敵の財力も削げるし一石二鳥じゃない?」
「正体がバレたら大変なことになりそう……」
「そんなことより、だな。ニコリーナよ……」
不意に麻羅は不遜な面持ちで言った。
「神であるわしと神対決をして負けたことをよもや忘れてはおらんだろうな」
「はぁ?」
「油ならぬおからドーナッツを売っておらんで、神であるわしのため、はよう麻羅教の信者を勧誘してくるのじゃ!」
「……なにほざいてるのかしら、このドチビはぁ。それ全部、あなたが言ってるだけでしょぉ」
「なにおう!」
「随分と賑やかだな」
突然の声に「ん?」と一斉に振り返る。
声の主はのぞき部部長弥涼 総司(いすず・そうじ)、カウンターに並ぶドーナッツを見回している。
「美味そうだな、すまない5つもらえるか?」
「あらぁ、お客さんなのね」チラリと麻羅を一瞥し「去れ、クソチビ!」
鋼鉄アームでひょいと持ち上げられ、あ〜れ〜と遠くの夜店の屋根まで放り投げる。
げげっと顔を引きつらせ追いかける緋雨を尻目にニコリーナスマイル。
「お待たせっ。はぁ〜い、5個で1000円になりまぁす。ゴルダで支払ってもいいよぉ」
「1000円?」
その途端、総司の眼光が鋭さを増す。
夏祭りでは世間一般の買い物の常識は全く通用しない……というのは値段がすごくいい加減なのだ。
結果、お祭り気分のパープリン共はすごくカモられてしまう。
しかし祭りの屋台の世界ではカモることは悪いことではない。騙されて買ってしまった奴がマヌケなのである!
ここでこのオレ、弥涼総司が買い物の仕方を解説しよう。
たとえば……、この場合「オレは浮かれ気分のヤツとは一味違うぜ!」という態度を取る。
「1000円? ハッハッハッハ、バカにしちゃぁいかんよ君ィー高い高いィーっあんまナメてるとおっぱい揉むよ?」
大声で笑おう。
するとニコリーナは「いくらなら買ってくれるの?」と、客に決めさせようと探ってくる。
「5個で250円にしろ!」
自分でもこんなに安くいっちゃって悪いなぁ〜というくらいの値を言う。
すると「ハッハッハッハッハッハ〜」マジ〜常識あんの〜と人を小バカにした態度で彼女が……。
なんかアゲハみてーだな。
「そんな値で売ってたらこの屋台のスタッフ全員飢え死にだもんねーっ」
ギィーーーッと首をカッ切る真似をしてくる。
しかしここで気負けしてはいけない。
「じゃあ他の出店でおっぱいの型抜きでもしようかな」
諦める真似をしてみよう。
「んなもんねーよ、スケベ! OKフレンド! わたしは学生に親切だから5個700円にしてあげるぅ」
……といって引き止めてくる。
「300にしろよ」
さぁここで値段交渉開始だッ!
「600」
「350」
「550」
「400」
「425」
「425! 買ったッ!」
やったーっ……半額以下まで負けてやったぞ。ざまーみろ儲けた儲けた。
「(いつもは5個で150円で売ってるもんねー)バイバイサンキューねっ」
「……っていきなり、無理矢理一人称にしてなに根切り術を披露してんのよ、あんたは!」
「あたっ!」
べしっと突っ込むのは、相棒のアズミラ・フォースター(あずみら・ふぉーすたー)、アゲハのケンカ仲間でもある。
アズミラは総司のドーナッツをパクパク食べつつ話しかける。
「アゲハといいニコリーナといい……、カリスマって呼ばれるヤツらはどうも変なヤツが多いわね」
「大きなお世話ですよーだ。って言うか、あの盛りすぎ汚ギャルと一緒にしないでっ」
「ふぅん」
ペロリと指を舐め、ニコリーナに言う。
「アゲハは敵か……、なるほどね。ねぇ……ちょっと面白い計画があるんだけど一口乗らない?」
「はい?」
目をぱちくりさせるニコリーナに、アズミラは不敵に微笑んだ。
To be continued
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