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リアクション
【3】スーパードクターのサマーホリデイ……4
「先生聞いてください。僕のアルバムに、覚えのない写真があるんです」
続いて、ドクターの前にちょこんと座ったのは大人しそうな少年ミミ・マリー(みみ・まりー)だ。
持参したアルバムを紐解き、その……身に覚えのない写真とやらを見せる。
そこにあった写真は確かに異質だった。なにせ顔つきがあまりに凶悪である。しかも見下すような視線だ。
「ふむ。君と顔を合わせるのはまだ2度か3度目だが……、それにしても別人のようだな」
「そうなんです。壮太に訊いても言葉を濁しておしえてくれないし……」
「ああ。光条兵器に定評のある彼か。そう言えば、今日は一緒ではないのかね?」
「ええと、向こうでカキ氷食べてるって言ってました。よくわかんないけど、ここに来るのは危険な気がするって……」
「壮太きゅん!?」
突如、ファン子の瞑らな瞳がクワワッと見開き、完全なる肉食獣の目となった。草食なのに。
当の瀬島 壮太(せじま・そうた)はと言うと、ミミの言う通り距離をとった屋台でカキ氷を食べていた。
「傍にいてやりたいのは山々だが、どうにも身に震えがおさまらねぇ。あのドクターの傍に行くと、またオレの病気が出そうな気がするしよ……、なによりあの象の獣人に見つかるとおっかねーしなぁ……、や、想像すんのはやめとこう」
無論、彼はミミの身に起きたことを知っている。
冥界急行ナラカエクスプレス、第二回の15P目、及び第三回の5Pに全ては記されている。
「オレとしては知って欲しくないんだよなぁ。なんとか言いくるめてくんねーかな、あのドクター」
ついでにオレの奇病も否定して欲しいんだけど……とか思ってると、尋常じゃない寒気に襲われた。
察知するや既に身体は動いていた。屋台の裏に身を隠し、今そこにある危機に対し、大量の汗を噴き出させる。
「壮太きゅん……、今、壮太きゅん的男子がこの辺に見えた……!」
SEを付けるなら、ゴゴゴゴゴゴゴ……が適切だろうか。アエロファン子、突然の来襲である。
新年会での一幕を機に、どうも彼女は年下の壮太きゅんにマグマの如き熱を上げている様子。
象のくせに鷹のような目で周囲をスキャンすると、ややあってドスンドスン去って行った。
「おい、兄ちゃん……。なんだありゃ、別れた女か、なんかか……?」
怪訝な顔で言うカキ氷屋の親父……がしかし、既に壮太は事切れていた。
「うおおおいっ! どうしたカキ氷が冷た過ぎたのか! こんなに冷たくなっちまって……! しっかりしろ!」
「うううう……、ぞ、象はイヤだ……」
顔面蒼白の彼はまぁそれはそれとして……診察に戻ろう。
「……この傷の位置も服装も確かに僕のものだし、ひょっとしたら僕、二重人格になっちゃったのかな……」
「むっ、素人が勝手に決めつけるな!」
「あ、す、すみません……」
「おそらくこれは間違いない。私が研究していた病気のひとつ、『ブスジェニック症候群』だ」
「ぶ、ぶす……って、あの、え?」
「フォトジェニックの対極とも言うべき奇病。何故だか、写真写りが悪くなってしまう女子の天敵のような病だ」
「で、でもヘンですよ。他のはキレイに撮れてるのに……」
「ネットを見てみたまえ。アイドルの不細工写真など幾らでも転がってる。油断すると誰でも感染してしまうのだ」
ドクターはさらさらとカルテに書き込み、アボビ社の画像編集ソフトウェアを処方する。
「えっと、なんですか、これ?」
「これで直しとけば大丈夫」
医学の進歩はとうとうデジタルに到達したようである。人類の未来は明るい。
そして入れ替わるように次の患者……彼はツカツカと靴を鳴らし、ドクターにすがるように前に立つ。
「せんせい! ボク、生まれてこのかた、モテたことが一度だってありません!」
実にソウルフル。彼の名は皆川 陽(みなかわ・よう)、とりたてて特筆すべきところのないメガネ男子だ。
「折角のお祭りなのに、彼女の一人もボクにはいなくて。一緒にいるのは男のパートナーひとりだけという始末です!」
「そ、そんな言い方はないんじゃないかな……」
男のパートナーテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)は悲しげな顔を見せる。
「昔、彼に真剣にプロポーズされたことがあったりなかったりした気もしますが、それはボクらが薔薇学生だからであって、そこに特に深い意味はありません! しかも、どこにでもついてくる彼が美少年な所為で、ボクは『隣りの美少年の引き立て役』にしかならなくてモテないんです! というか、女子の視界に入れてすらもらえてないと言って良い!」
「別に女子にモテる必要なんてないじゃないか!」とテディ。
「むっ」
「今でも超真剣に想っているし、お嫁さんにしたいと思っているのに!」
「リアクション『手を繋いで歩こう』の31ページ目でハッキリ言ってるじゃないか。ただ単に『家族が欲しい』っていうだけで、別に相手がボクである必要はなかったんだろ。契約してくれるなら、ボクじゃなくても別に、イカやヤツデやヤモリだって良かったんだろ! 変態……この変態男! イカくせーんだよ! あっち行け!!」
「ひ、ひどい……」
涙目のテディ、しかしグッと奥歯を噛み締め言い返す。
「よく31ページ目を見てごらんよ。めっちゃ鎖骨に食いついてるじゃん。いやもう、陽の鎖骨はたまんないって言うか、ムラムラハァハァきちゃって……ほら、ジェイダス様みたいなドーンよりチラリズムって言うか、あのね……」
「ぼ、ボクの鎖骨が目当てだったんだな。やっぱり愛なんてないじゃないかっ」
くるりと振り返り、完全に引いてるドクターを見やる。
「こんなホモ野郎じゃない、清くて正しくて美しい男にモテるには、どうしたら良いかおしえてくださいっ!」
「なっ。お、男にムラムラしたっていいじゃないか、てか自分だって……、別にいいですよね、ドクター!?」
「ま、まぁまぁ、落ち着きたまえ。まず、ひとつずつ整理しよう。アルタヴィスタさん」
「あ、はい」
「別に同性愛は病気じゃありません。大丈夫です。私もレズもののAVはひと粒で二度美味しいので嫌いじゃない」
テディはほっと胸を撫で下ろす。
「そして皆川さん。男にモテたいのなら、まず肉を食べなさい」
「に、肉ですかっ??」
「男にモテるのは美少年ではありません。むしろ、デカくて毛モジャの『熊系男子』こそ、最モテとされてるんです」
「そ、そうなんですか……?」
「新宿2丁目の薔薇系の間では概ねそんな感じです。なので、オージービーフを1キロほど処方しておきますね」
テディはなんだかイヤそうな顔したし、その薔薇界は違う業界のような気もするが、まぁ気にしないでおこう。
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