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リアクション
【3】スーパードクターのサマーホリデイ……3
次の患者は浴衣姿の緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)と紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)。
読みは同じだが、微妙に漢字が違うので、読者諸兄には注意して読んでもらって、観察力を鍛えてもらいたい。
「……実はハルカはもしかたら変ななんじゃないかって思って、相談に来たんです」
「ハルカ……? 君の名前は緋桜遙遠さんじゃないのかね……??」
そこにいる人物はどう見ても、プロフィールにある長身の20代男性ではなく、10代前半の小さな少女である。
「すみません、男なんですー」
「??」
「きっかけは『バトルフェスティバル・ハロウィン編{7}』で遥遠と入れ替わりコスをしたことでした」
遙遠……いやハルカは語る。
「それから『学生たちの休日2{3}』でスカートを覚え、『【空京百貨店】音楽・美術フロア{4}』『【GWSP】星の華たちのお買い物{13}』じゃ、遥遠から『接客業をするなら可愛くないと駄目ですよ♪』と言われ、地祇の企みを併用して女装……ハルカちゃんとしてバイトをやるようになってからはどんどん自然になってしまってぇ……」
「『東西対抗『逃亡なう』{2}』で売り子をしたり『学生たちの休日7{2、3}』で魔法少女もしているようだな」
「はい。完全に中身入れ替わってるんじゃないかってくらいですー……」
気が付けば、参加した242シナリオ中女装回数38回……少ないとはいえない数字である。
イラストに至っては43枚中15枚が女装関連だ。
「遥遠としてはハルカちゃんも遙遠も大好きです」
伏し目がちに遥遠は言った。
「遥遠は可愛いものが大好きですし、遙遠とお揃いを着たいです。遥遠が着れない様な小さな可愛い服とかを遙遠が着てくれる事に自身を映して楽しんでたりもしたんですが、こんなに思い詰めていたかと思うと申し訳なくて……」
「ふむ」
「もしかして、そんな遥遠の方が何か精神に異常を抱えてたりするのかも……」
「ドクター、ハルカ達はこれからどうしていけばいいんでしょうかー……?」
「まぁ、あまり人に自慢できる趣味ではないのは確かだが……とは言え、そう悩むほどのことでもない。見たところ楽しくやっているようだし、最近ではその辺の趣味に対しても社会はおおらかだ。悩むほうがかえって病を生んでしまう」
そしてドクターが目配せすると、ファン子はスマートフォンでどこかに手続きをとった。
「会員制女装クラブの紹介状を処方しよう。同じ趣味の仲間が出来ればきっと気にならなくなるはずだ」
「わー、お友達が出来るなんて嬉しいですー」
「ちょっと年配のサラリーマンの方が多いが、基本的に気さくな人たちだからすぐになじめると思うぞ」
闇の世界に踏み込みつつある2人は喜んで夏の夜の喧噪に消えていった。
次に来たのは、二児の母コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)、背負う気配がどうも暗く重苦しい。
「見たところ深刻なお悩みのようですが……、今日はどうされましたか、リナファさん?」
「実はうちの娘のことなのですが、マホロバでの一件以来どうも心配なんです……」
「と言うと?」
「娘は姉の白花を助けたい一心で、女王の力を闇の力で斬り分けたように白花を扶桑から切り離そうとしたんです。けれども結果は失敗、扶桑を傷付けただけで終わってしまいました。傷つけてしまった扶桑を回復させようとしたのですが妨害に遭い叶いませんでした、しかもまともな裁判も行われず、一方的にパラ実送りにされてしまったんです。
彼らの野望達成の足掛かりにされた上、止めを刺すように現在、彼らは私達を『世界の敵』に作り上げようとしています。これでは夜魅を『災い』『化け物』と作り上げようとしていた鏖殺寺院の影使いと同じじゃないですか?
夜魅がこの世界に生まれ変わってから約1年半、精神はまだ幼いのにこの仕打ちを受け『どうして? あたしはおねえちゃんを助けたかっただけなのに?』と混乱しています。
同じことをセイニィやティセラがやってしまった場合、きっと彼らは擁護に入るのでしょう。もちろんイルミンスールを攻撃した大ババ様もパラ実送りにならず、無罪放免になることでしょう……。
『実母に夜魅を護る』と約束した姉に捨てられた哀しみを『弟の白夜を護る』ことで昇華しているようですし……。
再び闇に捕らわれない様に気を付けていますが……、夜魅の心を癒すにはどうすれば良いのでしょうか?」
「複雑な経緯のようだが……しかし、私は医者だ。君らの事情に口出しする立ち場にない」
「……はい」
「まずはその患者に会わせてもらおう」
すると、コトノハの後ろに隠れていた蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)が顔を出した。
コトノハは不安そうな彼女をドクターの前の折り畳み椅子に座らせる。
「ううっ、このおじちゃん、お酒臭いよぉ〜」
「君も大人になれば酒の魅力がわかる。しばし我慢したまえ。君からも話を聞かせてもらえるか?」
途端、夜魅の頬を涙が伝った。
「……おねえちゃんの目の前でとーまに殺される夢を見るの」
ドクターはカルテにある『内緒のお茶会』の6ページ、『Zanna Bianca』の25ページに目を通す。
「おねえちゃんはただ、あたしが殺されるのを見ているだけ。そして、あたしの死体を蔑んだ目で見つめるの……。冷酷なとーまと契約したから、おねえちゃんも変わっちゃったのかな……。ただの夢だよ、だから心配ないよ、とママはあたしを抱き締めて言うけれどやっぱり怖いの……。とーまの剣があたしの胸を貫く感触がまだ残っていて……」
「なるほど……。典型的なトラウマの症状と見える……」
ううむ、と考える。
「しかし、姉のすることをどうこうする権利は君にないし、彼女に振り回されるのも良いことではない。君は君であり、姉とは別の人間だろう。ならば、君は君の生きる道を見つけるべきだ。弟を護ることが君の光となるならそれもいい」
「白夜を?」
「君の生きる道を決定出来るのは君だけに許された権利だ。だが、それはなにも今すぐにと言うわけではない」
ドクターは夜店買ったわたあめを夜魅に差し出す。
「まず、今夜は祭りを楽しみたまえ。夜の闇にも光が溢れていることを知るといい」
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