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リアクション
【2】緊張の夏、三悪人の夏……2
その横に横浜のヤンキー八ッ橋 優子(やつはし・ゆうこ)の露店がある。
売られているのは、1/8フリューネフィギュアに、フリューネのお宝盗撮ブロマイドなど……。
ここはタシガン空峡の英雄フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)グッズのお店なのだ。
商品は彼女の父【パパゲーノ・ロスヴァイセ】経営の『むすめカンパニー』の提供である。
「……店の場所しくったかも」
メンソール煙草をくわえながら優子は言った。
「向かい側鍋物屋だし。季節感がないにも程があるだろ。節電キャンペーンに楯突きすぎだろ。横はおからドーナッツとか売ってるし。健康食かよ。ちょっと口がパサつくんだよ。隅じゃカラーヒヨコとか。あー、あるよね、こういうの」
冴えない立地にため息を吐いてると、パパから電話が着た。
「あーもしもし、ハゲ?」
『ハゲじゃないよ、パパだよ、優子くん。どうだい、愛しのフリューネグッズは売れてるかい?』
「あんまし。つか、手伝いに来るって言ったくせにドタキャンしてんじゃねーよ」
『ごめんごめん。パパもほら、忙しくてさー』
「まぁいいや。ところでずっと訊きたかったことがあるんだけど?」
『なんだい?』
「次から次へと新しいNPCが出てきて、出番がなくなるのはどんな気分だった?」
『……え?』
「1年間なにやってたの? 職歴に空白期間ができちゃったわけ?」
『な、なーに言ってんの。パパは皆の見てないところで人知れずフリューネのサポートをだね……』
「パラミタのダンディ坂野って呼んでいい?」
『やめて!』
パパはちょっと泣いていた。
『パパだってシナリオに出たかったよ。でも、フリューネはカナンに行っちゃうし。マスターはナラカとかやってるし。て言うか、マスター今ほとんどフリューネのこと把握してないし。パパだって出るに出られなかったんだよおぉぉぉ』
「……ごめん、ウザくなってきたから切るわ」
『パ……』
傷つけるだけ傷つけて優子は電話を切った。あとまたかかってきそうだから着拒もしといた。
しかしひとりで店をやりくりするのは大変である……と、優子はポンと膝を打つ。
「ねぇ乞食衣装のあんたら、この前助けてあげたでしょ。ちょっとうちの店も手伝ってくんない?」
そう声をかけたのは隣りの森ガールたちだが……、一応断っておくとちっとも助けてない、彼女は怒らせただけだ。
「むかむか……。ちょっと何言ってんのか、わかんないですぅ!」
「そう言わずにさ。ほら、このフリューネの変態衣装着させてあげるから」
「自分で着ればいいでしょ〜!」
「いや、ありえないし。こんなの着こなせるのは森ガールくらいなもんだよ。私じゃゆるふわボブさが足りないから」
「むっか〜! やっぱりあの時、バラして湖に沈めとけば良かったですよぉ〜!」
エプロンの下からハンドガンを取り出し、森ガール達はわなわなと怒りに震え始めた。
「あの〜お忙しいところごめんなさい」
ふと、見ると引っ込み思案の腹話術師橘 カナ(たちばな・かな)がちょこんと座って商品を見ている。
「恋に効くお守りの『さくらんぼ』ってここには置いてないの?」
「さくらんぼ……?」
「実物は見たことないんだけど……」
『ナァニ、かな。好キナ子デモイルノ?』
カナの右手にいる市松人形『服ちゃん』がカタカタと不気味に語り始めた。
「えー、そういう訳じゃないけどォ」
『マー、かなッタラ。オホホ』
「うふふ」
「なんだコイツ。ひとりで喋ってら……」
目の前の薄気味悪いやり取りに、流石の優子もちょっと戦慄した。
「恋のお守りだからきっとピンクだよね。ファンシーでチェリッシュな可愛いマスコットだと思うんだ」
『携帯すとらっぷニぴったりダトイイワネ。デモココ変ナものバカリアルワネェ、モット流行ものモ置キナサイヨ』
「この客うざい。つか、さくらんぼってコレだろ。あるわ、ちゃんとうちの店でも取り扱ってるわ」
そう言って、ドンと蛮族の生首を二つカウンターに置いた。
アイテム解説によれば『蛮族の作った干し首二つを紐でつなげた物。死後も離れない恋のお守りとしてパラ実ギャルに人気のアイテムだが、彼女たちは本当の人間の首とは知らない。もちろん効力もない』とのことである。
「えっ、何コレ!?」
『ぎゃああああああ、何得体ノ知レナイもの見セトンジャあほんだらーーーっっ!!』
「フリューネにケンカを売った蛮族をパパがアレしたヤツだって。限定バージョンだから高く売れんじゃね、たぶん」
「あたし達が探してるのはこういうのじゃなくて、恋のお守りの『さくらんぼ』で……」
『ぱちもんニシテモ、モット上手ク作んナサイッテノヨ!』
「知らねーし。つか、ギャルには人気あんだろ。解説によると」
『ぎゃるッテ、アノ肌ノキッタナイけばけばシイやつラデショ!? 一緒ニシナイデホシイワ!』
その言葉に、やり取りを見ていた森ガール達はニッコリ。
「なんだか気が合いますねぇ。良かったらおからドーナッツ食べてください。美味しいですよぉ」
「え、くれるの?」
『ナンカ知ラナイケド、得シタワネ!』
とその時、空気をつんざく絶叫が上がった。
「何故だ! 何故、巫女さんがいないでござるか! 普通はアホほど巫女さんがいるでござるよぉぉ!!」
この世の終わりのような顔で絶叫してるのは、言わずと知れた巫女キチ坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)。
どうやら祭り=巫女の理論で来たものの、巫女さんなんてどこにもおらず発狂……もとい憤慨してる様子。
それもそのはず、別に神社主導でやってるわけでなく、町内会でやってる祭りなんだから当然だ。
「巫女さん達の巫女装束はだけそうな巫女巫女祇もとい巫女神輿はどこでござるかー?」
「な、なになの人……」
「ちょっとあれなんじゃない。精神病院かなんかを脱走してきた……」
「えー、やだー、誰かスーパードクター梅呼んでよー。さっき缶ビール持ってブラブラしてたの見たよー」
犯罪ものの視線を周囲に向けまくる彼に一般客は完全なるドン引きである。
知り合いであるカナは「げっ……」と小さく言うとコソコソと優子の店に隠れる。
ところが、ちょっと遅かった。鹿次郎はニッコリ笑うと軽やかな足取りでこっちに向かってきた。
「おおー、カナさんではござらんか。奇遇でござるなぁ。おおっ、折角のお祭りなのに制服なのでござるか!?」
「あ、どうも。着慣れてる服だからいいかなって思って……」
嫌な予感しかしないカナは若干目を逸らし気味。
「いや、そんな格好では夏祭りを満喫できんでござる。やや、偶然にも巫女装束があるでござる。さぁこれに……」
「や、やだー」
「おい、ひとの店の前でうるせーよ、変質者」と優子。
「おおっ。キツイ感じのヤンキーギャルでござる。そんなおぬしにはちょっと大胆なスリットの入った装束を……」
と、優子はじゅんっと煙草を鹿次郎に押し付けた。
「熱っ!!」
「巫女装束なんかどーでもいいから、うちの変態フリューネ衣装着て、売り子やれ」
「や、やめるでござる! そんな股間への責め苦がアグレッシブな装束など……!」
しかし聞く耳もなく、優子は無理矢理に且つ荒々しく鹿次郎の着物を脱がす。
「せ、拙者の純血が〜っ!!」
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