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リアクション
巨人は、姿が見つかっても、遠巻きにしているイコンには目もくれなかった。
荒野での戦いには、目的があった。
わざわざ教導団の演習場を襲撃し、姿を晒して、後を追うように仕向け、剣とゴーレムを回収させたのだ。
だが今回は、それがない。
この場に留まる理由はなく、今は先に進むことが最優先だった。
だが、さすがに集まって来る敵の数が多いと思ったのか、振り返って周囲を振り仰ぐ。
呪文を唱えた。
「あの巨人、鋼鉄みたいな体を持ってるのか? 何発かは当たっているはずだが……」
グラキエスは、言い掛けて、はっとした。
振り返った巨人の手に、炎の弾が浮かび上がっている。
両手にひとつずつ。
「火炎球!?」
「魔法だとぉ!?」
ハイラルは、半ばモニターに向かって身を乗り出すように、その光景に驚く。
巨人は、自らの頭よりも大きな火炎球を次々と作り出して投げ付けた。
「回避!」
イコンの武器よりも、そのスピードは遅い。
しかし数が多かった。
比較的後方に位置していた為もあり、回避するが、回避した火炎球が爆発し、その爆風に煽られる。
「うわっ……」
「くっ!」
レリウスは、ぎちっ、と力を込めて、操縦桿を握り締めた。
意地でも、今回はこれを離すわけにはいかない。
「驚きましたね。データにはありませんでしたよ……」
エルデネストが苦笑する。
「損害は!?」
グラキエスの叫びにシステムチェックを終了させたロアが、
「掠めた程度です」
と答えた。
「推進装置に僅かに異常。この戦闘中はもつでしょう」
「巨人は?」
「攻撃を終了し、前方の建造物に向かって前進」
「攻撃を再開する」
「ジェファルコンが仕掛けるようです。様子を見て援護します」
巨人に程近い位置につくイコンの動きに気付き、巻き添えを避けて様子を見る。
北都の機体は巨人から遠く、岩造の機体は更に遠い位置にあったので、巨人の火炎球を難なく逃れた。
「何か切り札があるんじゃないかと警戒はしていたけど、あの巨人、魔法も使えたんだね」
北都達は、上空からの急降下による突撃で、Gを乗せた一撃を叩き込もうとしたのだが、こともあろうに両腕で構えて受け止められた。
多少の負傷はしたようだったが、一撃離脱ですぐさま距離を置きながら、どんな鋼の体かなあ、と呆れていたところの魔法攻撃だった。
超感覚と行動予測で、咄嗟に更に上空へ距離を置いたので事無きを得ていたが。
一方。
「前回の続きだ……」
正直、巨人の目的などどうでもいい。ただ、巨人との決着をつけたかった。
柊 真司(ひいらぎ・しんじ)のゼノガイストも、巨人の死角を探し、巨人の行動を予測で読みながら、一撃離脱で攻撃を仕掛けていたところだった。
最も近いところで、真司の機体は火炎球の攻撃を食らう。
ビームサーベルで受け止めた炎弾は、爆発し、炎が広がった。
「くっ、簡単に剣を手放すわけだ……!」
炎に巻かれながらも、真司は素早く判断する。
この炎を目晦ましとして利用することに決めた。
「行くぞ、ヴェルリア!」
「はいっ」
エナジーバーストで突撃を仕掛ける真司に、パートナーのヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)は素早くレーダーを確認して方向を修正する。
爆炎の中から飛び出して来たイコンが突っ込んで来た。
巨人は咄嗟に身構えながら、後退しようとして体を引く。
一瞬体が浮いたところに、攻撃を受け、そのまま吹き飛んだ。
建造物の壁に激突し、壁が砕けて体がめり込む。
「ぐうっ……」
真司は構わず、そのまま連続攻撃で畳み掛けた。
巨人が構えた片腕に、剣が止められる。
「そんなもので、止められるか!」
真司はそのまま力を込めたが、巨人は、もう片手を真司に向けた。
風の刃が放たれる。
がつっとイコンの顔面に衝撃が来て、真司の機体が仰け反った。
その隙に、巨人は身を滑らせるようにして、崩れた壁から建物内部へ入って行く。
「逃がすか!」
「手伝うぜ」
グラキエスの機体が、真司の機体に続いて建物の中に入る。
中はイコンでも入れたが、決して広くは無い。
少しの戦闘で簡単に破壊されてしまいそうだ。
だが、そんなことで遠慮をしている場合ではなかった。
巨人は立ち上がって周囲の様子を見ていた。
「余所見かよっ?」
一気に懐に飛び込んだグラキエスの機体に、巨人は飛び退き、勢い余って背後の壁に激突した。
壁が砕け、巨人は体勢を崩して倒れこむ。
背後を見、何かを見つけて手を伸ばした。
壁の向こうに誰かがいる。
それを確認した時には遅かった。
巨人の姿が掻き消える。
「何!?」
崩れた壁の向こうで、何人もの人達が、慌てたように何処かに集まる。
魔法陣が描かれた、円形の台座のようなものがあり、亀裂が入ったかと思うと、砕けてしまった。
「壊れやがった!」
という叫びが聞こえる。
「……どういうことだ?」
グラキエスは呆然と首を傾げた。
それは、転移装置だった。
人が4、5人も乗れば定員が一杯になりそうな大きさで、それを巨人が使ったのだ、オーバーワークで壊れてしまったのかもしれない。
何にしろ、後は追えない、ということだ。
「巨人が、消えただと?」
岩造は、状況を知って唖然とした。
「まさか……、王宮にテレポートしたのか?」
「そんな……」
彼等は、巨人が弱体化するのを待っていたのだが、弱体化する前に、巨人はこの場からいなくなってしまったのだ。
「みすみす、行かせてしまうとは……」
レリウスは悔しそうにコンソールを叩く。
「……ま、やれるだけのことはやったさ」
ハイラルは呟く。本当にそう思う。
最善は尽くした。あとは、向こうの連中に頑張ってもらうしかない。
「置いて行かれたわ」
シルフィスティは、ぽつりと呟いた。
「これが放置プレイってやつかしら」
「また変な冗談を……」
イコンから降りて、リカインが深い溜め息をつく。
「全くもう……。どう落とし前つけてくれるのよ」
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