リアクション
◇ ◇ ◇ 「…………終わった、です?」 横たわる巨人の頭付近に、とぼとぼとヴァーナーが歩み寄った。 巨人の兜は遠くに転がって、銀色の髪が陽を弾いている。 「……そうだな」 と巨人は苦笑した。 「終わりだ」 「じゃあ、これからお友達になれるです?」 「まだ言ってるのか?」 巨人は苦笑する。 「物好きだな」 「……おじちゃんは、死ぬつもりでしたか?」 「そうだな。どうせ死に行く種族なら、最後に派手にやらせて貰うのも一興か、とは思ったな」 訊ねたことに、巨人は否定しなかった。 やっぱり、と、ヴァーナーは哀しくなる。 「そんなのはダメです。もうお友達です。一人じゃないです。 探せばまだ、仲間の巨人さんもいるかもしれないです」 ひた、とヴァーナーは巨人の髪に、額を寄せる。ふ、と巨人は目を伏せた。 その周囲が、俄かに慌ただしくなった。 駆け寄った医療班の一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)と久我 グスタフ(くが・ぐすたふ)が、負傷した巨人の治療に回る。 勿論医療班は、対巨人戦闘、対鏖殺寺院戦闘で負傷したシャンバラ兵を救護する目的のもので、巨人の治療は意外ではあったが、敵の捕虜を治療することは、そう珍しいことではない。 アリーセは巨人の傷を見、顔色を見た。 「酷い傷ですね。死ぬほどではないようですが」 顔を上げ、ヴァーナーもそれを手伝った。 巨人は渋い顔をしたが、抵抗はしない。 既に捕虜となった身に、逆らう権限はないと察しているのだろう。 「問いたいことがある」 呀雷號が巨人に向かい、彼は顔を向けた。 「今迄、一人で生きてきたのか? これからもそうするつもりなのか?」 「これから?」 くっ、と巨人は笑った。 「お前達は、女王殺しの大罪人を、生かしておくつもりなのか」 「まあ、未遂よね」 と、理子が酒森陽一らの護衛と共に現れる。 「シャンバラ代王、高根沢理子よ。 首謀格は、ラウル・オリヴィエなのね? とりあえずあなたからも話を聞きたいところだわ」 「話すことはない」 巨人は顔を逸らす。 「訊きたいことは、ラウルに訊け。答えるつもりがあることは答えるだろう」 「義理立てしてるの?」 「違うな。私には理由が無いだけだ」 「じゃ、ひとつだけ」 理子の言葉に、巨人は再び目を向ける。 「ガイメレフ、って言うんだって? このゴーレム。どういう意味か知りたいの」 「……」 巨人は身を起こした。 「まだ起きない方が」 というアリーセの言葉は無視する。 「我が一族の言葉で、『完璧な盾』という意味だ」 「なあなあ」 と、ヴァーナー達と共に巨人の治療を続けるアリーセに、パートナーの剣の花嫁、久我グスタフが声を掛けた。 「このままアイツを逮捕するとして、収容できる施設なんて存在するのか? 近年稀に見る凶悪犯、てヤツになると思うんだが、広さと強度を兼ね揃えたところなんてさー。 食い物とかどうすんだ? 囚人服とか用意するのか?」 「きょーあくはんじゃないです!」 ヴァーナーが反論を返し、アリーセは完全無視しているが、グスタフははっと思い出して手を打つ。 「演習場の弁償の件もあるじゃねーか! せめてイコンの修繕費用くらいはせしめたいが……何か金目の物は持ってんのかな。 見たとこ、いかにも体ひとつって感じだが……」 「本人に言ったらどうですか」 深い溜め息をひとつ吐いて、アリーセは言った。 「目の前にいるんですから」 「え、でもよ……」 グスタフは、途端に口篭って尻込みする。 アリーセの指示に再び横になった巨人は、じっと上空を見たまま動かない。 話し掛けずらかったので、わざわざアリーセに声を掛けたのだ。 「金の請求なら、ラウルにしろ」 目を合わせないまま、巨人が口を開いた。流石に聞いていたのだろう。 「しかし」 そう答えたのは、アリーセだ。 「あの人は、雇い人の給料を滞納するほど窮していると聞きますが」 「……それは、からかっているだけだろう。 私は、あの男が金に困っているのを見たことがない」 アリーセとグスタフは、顔を見合わせた。 歩み寄る昴に気付いて、巨人は、お前か、と呟いた。 「……これは、どちらの勝利になるのです?」 さあな、と巨人は言う。 「好きにしろ」 「では……、私の望みを、言います」 昴は、横たわって尚、頭上にある巨人を見上げた。 「もう一度……。 今度は、本当の全力で、……一対一で……色々な事情は、抜きで、また、剣を、交えましょう」 ふ、と巨人は笑った。 「お前達は、本当に……」 「……あなたの望みは、ありますか?」 「?」 「決着は……、ついていません」 そう言った昴に、巨人は少し考える。 「お前の、名は?」 目を見開き、昴は答えた。 「昴……です。九十九、昴」 「昴」 巨人は呟く。 「憶えておこう……」 |
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