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リアクション
4)葉月 可憐(はづき・かれん)
スタジオに現れた、
葉月 可憐(はづき・かれん)の表情は、穏やかなものだった。
「ようこそ、おいでくださいました」
トッドさんに、可憐は優雅に一礼した。
「こちらこそ、ありがとうございます」
画面には、修道女のような姿の、可憐の写真が映し出された。
全身カット
「可憐さんは聖職者としてご活動されていらっしゃるの?
詳しく聞かせてくださらない?」
トッドさんの問いに、可憐は静かに答えはじめた。
「私は……そうですね。
この地、シャンバラではアイシャ様……神に仇為す者として放校されて久しい身ですが、
遠くカナンの地ではイナンナ様――同じく神の名を冠する御方の「聖職者」として活動をしています。
……とはいえ私のそれは、一般のそれとはまた違った意味合いを持つものでもありますが」
「まあ、それは、どのようなこと?」
意味ありげな言葉に、トッドさんが重ねて訊ねる。
「私は、私の聖職者としての証は、イナンナ様の誓いそのものなのです。
…カナンに起こった争いについては、周知の事実かと思いますが
再び彼のような方をもう二度と生み出さぬように
私は、イナンナ様よりその洗礼を戴き、その誓いを見守る神官となりました。
その誓いを行使する力へとなりました。
そしてその誓いの破られた時には――私も彼の者のようになる、と
イナンナ様がそのお誓いを忘れられぬよう、その誓いの礎となりました。
私はイナンナ様の在り様を肯定し、
それを正しい認識の下広め、そして時には諌めるための神官。
……まぁ、ですからその在り方を変える訳にもいかず、
当時冷静さを欠いていたアイシャ様を諌めるために動いた結果として、
放校されてしまったわけですが」
静かに苦笑する。
「可憐さん、お聞きしたいことがあるわ。
あなたの大切な方はどなたですか?
その方について、そして、どう思っていらっしゃるか、
なるべく具体的に教えてくださらない?」
トッドさんの問いに、
しばし沈黙した後、可憐は答えた。
「大切な方は……これは、聖職者としては間違っているかもしれませんが。
本来ならばイナンナ様と真っ先に答えるべきなのでしょうが。
それでも誤解を承知で敢えて宣言するのならば。
私と出会い、私を知ってくれた方々全てが、私にとっての大切な方です。
それが今の私を形作っているわけで、感謝してもしきれません」
祈りをささげるように、両手を組み、可憐は、そう言った。
「なるほど、あなたらしいお答えだと思うわ。
では、最後の質問です。
あなたの将来の目標はなんですか?
それに向けて、今、どのような努力をされていらっしゃいますか?
まだはっきりしない、漠然としたことでもかまいません」
「主にイナンナ様付きの神官としてと私個人としてのものしての二つがありますが、
どちらも目標としてはひどく明快なものです」
可憐は、淡々と、言葉をつづけた。
「一つはイナンナ様の望む世界へと、
私達が誓った世界へと少しずつでも近づけていく事」
小さく息をつき、可憐は言葉を紡いだ。
「そしてもう一つは――天御柱学院に復学し、
置き去りにしてしまった子(イコン)……、
ヴェロニカ様と、たくさんの仲間と共に
『理不尽なこの世界、今のこの世界を――弱い者に厳しい世界』を変える為に戦った
ジェファルコン、雲隠を迎えに行くこと。
そしてあの居心地の良かった皆様の居る場所へ、再び胸を張って帰れる事です」
可憐は席をそっと立ち、
ゆっくりと、カメラに向かって歩を進めた。
「……実は今回、こちらへ出演させて頂いたのも、
それを為すために――私を皆様に罰してもらうためでもあります。
私は私の罪と罰に向かい合い、それを清算とまではいかずとも贖うためにここまで参りました。
どうか私にもう一度、チャンスを……あの学院へと戻るための機会を、お与えください」
そして、言葉が終わると、可憐は、静かに礼をした。
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