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リアクション
2)アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)
イルミンスール魔法学校の講師・アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)は、
公の場であることを考え、整った身なりで現れた。
「こんにちは、ようこそおいでくださいました」
トッドさんの微笑に、アルツールは、厳格な表情で会釈を返す。
「さっそくですが、こちらのお写真をごらんになって」
画面に大きく映し出されたのは、ハロウィンパーティーの写真だった。
ようこそハロウィン・パーティへ!
「娘さんのミーミルさんたちと
ハロウィンパーティーを楽しんでらっしゃるようですね。
普段は厳格な教師であるアルツールさんも、
娘さんの前ではメロメロになるそうですけれど、
ミーミルさんへの想いを、ぜひ、この番組で伝えてくださらない?」
ミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)の話題を出され、
アルツールは、トッドさんの言葉を少し訂正した。
「私はミーミルだけではなく聖少女達三人の父親代わり……
ネラはもう一人父親がいたりして色々複雑なんだが……
まあそういうつもりだ。
だから三人の父親として答えよう」
「ぜひ、伺いたいわ。
大人の契約者としてのご意見は、とても貴重ですもの」
トッドさんはうなずいた。
「今は冒険だの事件だのがそこらじゅうに転がっている時代だ。
特別な力を持っている三人が、それらに巻き込まれていくのは仕方の無い事かもしれん」
「ええ、パラミタでの冒険や、ニルヴァーナでのこと……。
契約者の皆さんは、それに立ち向かっていらっしゃいますね」
アルツールは軽くうなずき、続けた。
「だが、三人には特別な力があるからこそ、
心身ともに大人となるまでは、
良く学び良く遊んで、できるだけ『普通』の子供の生活をして欲しいのだ」
身体は大きくても、ミーミルはまだ3歳だ。
心身ともに大人になるには、まだ時間がかかるだろう。
「そうして、自らの力や境遇に縛られること無く
自分の人生は自分の意思で選択できる力を身に付け、
できれば普通の幸せを掴んで欲しいと願っている。
また、特別な力、特別な立場、
そういったものに子供の頃から知らず知らずの内に縛られ、
将来の選択肢を自ら狭めるようなこともして欲しくない。
娘達には、可能な限り将来の選択肢を増やしなるべく自由に生きられるようにしてやりたい」
「なるほど、アルツールさんが娘さんたちを、
とても大切に思っていらっしゃるのが、
よくわかったわ」
トッドさんが言った。
「この写真のミーミルさん、とても楽しそうね。
アルツールさんがおっしゃるとおりの、
『普通』の幸せを、きっと楽しんでいらっしゃるのではないかしら」
「そうだといいのだが」
アルツールは、わずかに笑みを浮かべた。
「では、次の質問をさせていただくわね。
あなたの将来の目標はなんですか?
それに向けて、今、どのような努力をされていらっしゃいますか?
まだはっきりしない、漠然としたことでもかまいません」
トッドさんの問いに、アルツールは遠くを見るような目をしていった。
「私自身について、か。
いつか、故郷に帰って普通の学校の教師になりたいね。
三人の娘達が無事に大人として一人立ちできるようになったら、
もう一度大学に入りなおしてみるのもいいかもしれん」
北欧神話の英霊ジークフリートこと、
シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)が、アルツールの発言の補足をする。
「彼は、家がオーディンを信仰する神官と言うか魔術師の家系でね」
アルツールの家は、ドイツのボンにあるルーン魔術の大家である。
「その縁で僕が地球に帰ったとき世話になったりしたんだが、それはさておき」
シグルズは、言葉をつづけた。
「彼は家伝の伝統芸能の様な形で魔術を学んだのであって、
大学を出たら普通の教師になるはずだった。
それが、家の次期当主としてパラミタに来るはずの妹さんが急逝したために、
その代役として契約者になって送り込まれたんだわ」
「まあ」
「シグルズ」
トッドさんの驚きと、やや、とがめるようなアルツールの声が重なった。
関係者にとって、周知のことであっても、これは公共の番組なのだから。
「まあ、いいだろ?」
シグルズは、肩をすくめた。
「だから、教員として術等を教える事はできても、
純粋な知の探求者ではない自分は
魔術師としては二流もいいところだってのが彼の持論でな。
堅い考えも性分なのだろうが……もう少し人生楽しく生きてもいいんじゃないかとは思うがね」
「君はもう少し……いや」
アルツールは、途中まで何かを言いかけて、やめた。
シグルズとて、何も考えずに、こうした話をしたわけではあるまい。
むしろ、公共の場で発言することの意味を、王族であるシグルズは熟知しているはずだ。
「……あとで覚えていろ」
「はいはい」
マイクに入らないよう、注意して、二人はそっと会話を交わした。
「アルツールさんは、娘さんのこと、お家のこと、周りの方々のことを、
常に考えていらっしゃるのね?」
「大人なのだから当然のことだろう」
トッドさんに、アルツールは苦い顔で答えた。
「アルツールさんは、
きっと、魔法学校でも、普通の学校でも、よき教師でいらっしゃるのでしょうね」
「ありがとう」
「では、次は、国頭 武尊さんからのご質問です。
異種族との恋愛や結婚について、
「地球出身の出演者全員」にどう考えているか答えて貰いたい
ということですが」
「あり得ると思うが、
したいならば差別や文化摩擦も覚悟した上で恋愛をすべきだ。
都合の悪い事を無視して希望に縋るのは不幸しか生まん」
「現実主義者のアルツールさんらしいお答えね。
次の質問です。
青葉 旭さんから。
キミの根源的な行動原則は、
どの集団(国や宗教等)の法律・規則や習慣・風習に根ざしている?
また、その行動原則とシャンバラの法律・規則や
習慣・風習が異なる場合はどちらにしたがって行動する?」
「行動原則は、ドイツ連邦共和国及びオーディニズムだ。
理不尽でない限りは、なるべく現地のものを尊重する」
アルツールは簡潔に返答した。
「では、最後の質問です。
リイム・クローバー(りいむ・くろーばー)さんからです。
皆様は夢のために誰かと争う事をどう思いまふか?
相手を打ち負かし、そして自分の道を進むのは果たしていいことなんでふか?
とのことです」
「案件による。
世の中、そう単純にはできておらん。
誰かと衝突したのなら、その時々で最良の選択を考えればよい」
教え子に向かって諭すように、アルツールは言った。
「どうもありがとうございました。
アルツールさんと娘さんたちの生活、
そして、第二の青春が楽しいものでありますように」
「こちらこそ、充実した時間をありがとう」
トッドさんに、アルツールは再度会釈し、
堂々と退場した。
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