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第11章 皆殺し作戦

「みえたぞ。あそこだ!!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、飛翔するレイの操縦席から地上の様子を観測し、ついに目標の遺跡を発見した。
 それは、ステラレの街から少し離れた、小高い丘の上にあった。
 遥かな古代の遺跡。
 そこには、ステラレの街が外界から隔絶される要因となった異常気象を引き起こした、気象コントロールセンターがあるはずだった。
「周辺に敵の姿はみられない。遺跡の中にも生体反応などはない。盗賊が盗掘を行ったにしても、それはかなり前のことのようだ。いまはもう、盗賊からみて価値のあるものは残されておらず、女もいないので、全員撤退したとみていいようだ」
 同じく操縦席にいるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、冷静な口調でいった。
「まあ、俺は予定どおり銃を持っていくぜ。何が起きるかわからないし、銃は闘い以外にもいろいろ使えるしな」
 機内オペーレーター席から、夏侯淵(かこう・えん)がいった。
「思ったより古そうな遺跡だな。どんな錠前があるのやら」
 淵と同じ席から、コード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)がいった。
「とにかく、敵がいないのは幸いだよ。それじゃ、 さっそく降下させよう!!」
 ルカルカは、地上を移動している仲間に合図を出すと、自分たちのイコンを遺跡の近くに降下させた。

「いまごろ、街では解放のための闘いが行われているんだろうね。盗賊たちも、そっちに注意がいってるから、こっちは本当にガラ空きなんだろうな」
 イコンから降りると、ルカルカは、さっそくセンターの中に入り込んだ。
 念のため、銃や剣を携帯するのを忘れない。
 入り口の扉は半分破壊されていて、鍵も機能していなかった。
「本当に、何もいないぜ。魔物はいてもよさそうなもんだが?」
 淵は、ルカルカたちとともにセンター内部を探検しながら、意外そうな口調でいった。
「思うに、このセンターというより、この遺跡の一帯が、何らかの聖地であった可能性があるな」
 ダリルが、内部の機器類を興味深そうに点検しながらいった。
「聖地? 何の?」
 ルカルカが、驚いたような口調でいった。
「上空から観測していて思ったのだが、遺跡の建物の配置や、全体としてのかたちが、何かの神殿を思わせるつくりなのだ。この気象コントロールセンターにしても、遺跡の内部で、何らかの祭祀のためにつくられた可能性がある」
 ダリルは、淡々とした口調でいった。
「祭祀のために? いったいなぜ?」
 ルカルカは、なおも尋ねた。
 正直、この遺跡は予想以上に古い年代のもので、わからないことだらけだった。
「推測でしかないが、祭祀の日が快晴になるように気象をコントロールしたりと、もっぱら宗教的目的で活用された可能性もあるな。まあ、気象のコントロール自体は、他の遺跡でもそのための機器が発見されているが。ここの目的は何か、特殊だったような気がする」
 ダリルとて、全てがわかるわけではない。
 ステラレの街が襲撃されたときに、遺跡についての記録もかなり失われたのだ。
 この遺跡のいわれなど、全てがわからなすぎた。
「それと、魔物に出くわさないことと、何か関係があるっていうの?」
 ルカルカは、暗闇の中を慎重に進みながらいった。
 遺跡の照明関係の設備は完全に壊れているようだった。
 だから、闇の中で何かに遭遇するのではないかと、常にびくびくしていなければならない。
 しかし、それだけではなく、この施設を含んだ一帯には、異様にひんやりとした感じが漂っていた。
 邪悪な感じではないが、どこか気を抜けず、常に一定の緊張感が保たれることになる感じであった。
 その独特のひんやりとした感じが、ルカルカの戦士としての本能を、どこか刺激するのだった。
 刺激するというより、何か大自然を畏怖したくなるような、不思議な感情が湧いてくるのだ。
 おそれ、かしこむ。
 一言でいうと、そんな感じだろうか。
 だから、ダリルが聖地だったかもしれないといったことを、本能的に、信じたくなってしまうのである。
「もともと、この一帯には魔物が近寄れないような、不思議な結界が張られていた可能性が考えられるのだ。その後、遺跡は荒廃し、盗賊たちが入り込めるようになったが、魔物たちはなお、この周辺に漂う神聖な気配を恐れて、近づかないようにしているんだろうな」
 理屈や論理で常に頭を満たしているように思えるダリルが、「不思議な」という言い方をすること自体が、ひどく珍しく、不思議だ、とルカルカは思った。
「それは、でも、どういうことなんだ? つまり、荒廃したこの遺跡にはなおも、魔物たちが恐れるような何かがあるっていうことか?」
 淵は、なぜだかひそひそした口調になって、いった。
 寒さのせいだけではない。
 この遺跡全体に、気を引き締めさせる何かが漂っていて、ルカルカ同様に、淵もその気配に影響されているのだった。
「何かがあるというか、その痕跡が強烈に残っているというところだろうか。正直、そういうのは俺の専門外だ。目的の機器をみつけたら、早急にことを済ませよう」
 ダリルは、施設の奥にある扉の前で、足を止めた。
 その扉は、施錠されているようだった。
「電子錠ではないな。ここは、俺に任せてくれ」
 しんがりをつとめていたコードが、進み出ていった。
「ニルヴァーナから来たばかりだろ。任せていいのか?」
 ダリルがいった。
「俺は、電脳に関してはダリルを信用しているぞ。だから」
 コードは、ダリルをみつめていった。
「なるほど。これに関してはコードを信用するとしよう」
 ダリルは、うなずいた。
 コードは、遥かな古代の錠前を解析するのに若干手間取ったが、無事に開けることができた。
 その後も、施錠された扉に遭遇するたびに、コードが開錠した。
 そして。
 ついに、センターの中枢ともいえる、多くの機器のコントロールを直接行えると思われる部屋にたどり着いた。
「何だ。着いてみれば、ここの窓は破られている。盗賊たちは、窓から入って、室内を物色し、野蛮にも機器を破壊してまわったのだな。その際に、異常気象が起きた」
 ダリルは、破壊の跡が目立つ機器を検分しながら、いった。
「さあ、ここからはダリルの世界だよ。ルカたちは、周囲を警戒してるから」
 ルカルカの言葉に、ダリルはうなずき、携行してきたコンピュータを接続して、解析を開始した。

「むう。上空からの観測時に察しはついたが、あらかじめ予想していた以上に古いものだ。他の気象コントロール設備とは、仕様が大きく異なっている。この遺跡の特殊性と関連するのだろうか?」
 ダリルは、センターの機器の独自性に驚き、また、面白いとも感じたが、仲間の手前でもあり、いまは速やかに任務を遂行するべきだと考えた。
 学術的に大変興味深いシステムなのだが、いまはそれどころではない。
 しかし、セキュリティが思ったより高度で、解析に異様に時間がかかりそうなのには閉口した。
 盗賊たちはセキュリティなどわからないから、物理的にぶっ叩いて破壊したようだが、修復となると、そうはいかない。
 また叩けば直るというわけではないから、システムの内部に慎重に入り込む必要があった。
 みれば、ルカルカは早くも欠伸を洩らしていた。
 もっと早くすむと思っていたようだ。
 ふと、ダリルはコンピュータのキーボードを操作する指を止めた。
 ディスプレイに、パスワードのようなものの入力を求めるウィンドウが表示されている。
 ようやく、本来システムを使用する際に表示されるインターフェイスを呼び出すことができたようだ。
 このパスワードを解析できればよいのだが。
 ダリルは、脳をフル回転させた。
 まずは、解析可能かどうかは判定。
 そして、次に、どのくらい時間がかかるか。
 その後に、作業工程を考案すべきだ。
 解析は、おそらくできる。
 だが、時間は、半日ほどかかる可能性があった。
 まあ、そんなに急いでいるわけではないはずだ、とダリルは思った。
 ルカルカに所用時間を伝えたら、うんざりされそうだが。
 そのとき。
 ダリルは、かすかな気配のようなものを感じた。
 その気配は、窓からくるように思えた。
「ちょっと、外の空気を吸わせてもらおう」
 そういって、ダリルは、破壊された窓の側にいって、外の風景を眺めてみた。
「ダリル? どうしたんだい?」
 ルカルカは、ダリルが普段とらない行動をとるので、少し驚いたようだった。
 外の空気を吸いたいなどと、人間味あふれるではないか。
 ダリルにしても、本当の理由を伝えたかったのだが、何か、それこそ非論理的なことを自分がいうことになるので、ためらわれたのだ。
 窓の外には、荒廃した遺跡を臨むことができた。
 ふと、ある種の彫像のようなものがあることに、ダリルは気づいた。
 何の彫像かはわからなかったが、この遺跡で祀られていたものを表すのかもしれなかった。
 どうしてかはわからなかったが、その写真を撮影したくなったダリルは、撮影して、その画像を自分のコンピュータで解析してみた。
 この画像に、一致するもの、あるいは、その正体のヒントになりそうなものが、このパラミタの知識という知識を自分なりに集成した、膨大なデータベースの中にみいだせないだろうか?
「うん?」
 ダリルは、思わず声をあげた。
 ある言葉が、ダリルの解析結果に表示されたのだ。
 さすが自分、といいたくなったが、その解析結果をどうすればいいものやら、自分でも見当がつかなかった。
 そもそも、自分は何でこんな解析を行っているのだろう?
 非合理なことが多すぎるな、とダリルは自戒したくなった。
 このとき、ダリルは、高次元の存在の導きになど、全くといっていいほど思いあたらなかった。
 完全に、ダリルの専門外のことだったからだ。
 あるいは、全くそういうものに気づけないからこそ、彼は選ばれたのかもしれない。
 そして。
 次の瞬間、ダリルは、またしても、非論理的としかいいようのない動機に襲われた。
 まさか。
 どうして、そんなことを試したくなるのだ?
 いや。
 ある意味、論理的か?
 遺跡の中にあった、あの彫像。
 その彫像を撮影した画像を解析して、得られた言葉。
 その言葉をシステムのパスワードとして入力してみようなどというのは、ある意味論理的ではあったとしても、ダリルが好むような意味での「論理」とはほど遠い考え方だった。
 どうして、このような偶然の展開の積み重ねが、システムと重要な関連が持てると、いえるだろうか。
 いま思いついたことを実行して何かが起きるなどというのは、決して、絶対、ありえないことだ。
 しかし、ダリルは、結局、やってみるだけならいいだろうと考えた。
 ダメだったとしても、ほんの、数秒のことだ。
 そして。
 ダリルは、その言葉を、気象コントロールセンターのシステムにアクセスするためのパスワードとして、入力しみたのである。
 パンツァー
 とにもかくにも、その言葉を入力してみた。
 すると。
 ダリルが全く予想していない展開が起こった。
 そう。
 何かが、起きたのだ。

「な、何、何!? 急に動き出したみたいだけど?」
 ルカルカは、一瞬心臓が止まるのではないかというほど、驚いて、飛び上がった。
 ダリルが操作している中で、いきなり、センターの機器のランプ類が明滅して、生物が眠りから醒めたような動きを示してみせたのだ。
 施設の中で、何かが発動するぐいーんという音も聞こえてきた。
 意図的な結果ではないことは、ダリルの表情をみれば明らかだった。
「何が起きた? いまの入力で、システムには、正常なアクセスができたようだ。だが、アクセスと同時に起こったこの動きは、何だ?」
 ダリルは、ぶつぶつとひとりごとをいいながら、自らのコンピュータでシステムの解析を続けた。
 その結果。
 たいしたことではないように思われた。
 長い間正常に使用されたことがなかったシステムに、突然正常なアクセスが行われたことで、一時的に、放電のような現象が起きたようだった。
 放電というより、具体的には、いまの操作で、この付近のどこかに、落雷が発生することになったようだ。
 だが、一時的なことだ。
 ダリルは、深く息をついた。
 非論理的な展開があったとはいえ、システムには正常に、それも管理者権限でアクセスすることができた。
 あとは、ダリルの思考を機械言語として直接システムに送り込み、正常な機能を回復させるだけだ。
 思いがけずパスワードがわかってしまったことになるが、しかし、窓の外を眺めなかったとしても、ダリルなら、半日程度でセキュリティを突破することはできるはずだった。
 偶然の展開により、その半日の時間を節約できたことになるが、そのことが「何」を意味するかというのは、ダリルにも関知できないことだった。
 そして。
 決して傲慢ではなく、ダリルは、結果的にシステムにすぐアクセスできたことも、自分の才能のうちなのだろうと考えた。
 自分の深層意識が、驚くほど洞察に満ちた状況の分析を行い、知らず知らずのうちに解決法を導き出し、自分を動かしたのだ。
 そう考えれば、非論理的と考えた展開の説明もつく。
 そうだ。
 きっとそうに違いない。
 ダリルは、作業を続けた。
「よし。システムは修復できた。これで、異常気象はやむだろう」
 ダリルはいった。
「さすが!! それじゃ、街に向けて通信を送ろう」
 喜んだルカルカは、修復されたセンターの機器を使って、街に以下のような通信を送るよう、ダリルに依頼した。
「この地の異常気象はおさまった。安心して暮らされたし」
 と。
 すぐに遺跡を出よう、とダリルは思った。
 これも、ひどく、非論理的な感覚だったが、自分たちの役割は終わった、と感じたのである。

「う、うわあああああああ!!」
 街の奥の館を攻略して、捕らわれていた娘たちの救出にあたっていた生徒たちは、悲鳴をあげていた。
 炎をあげ、煙をあげている、崩れ掛った館。
 その館の上空に、突如、暗雲がたちこめたかと思うと、ものすごい稲光が走ったのだ。
 ぴかっごろごろごろごろごろごろ
 すさまじい轟音がとどろいた。
 落雷である。
 落雷が、燃え上がる館を直撃したのだ。
 それが、致命傷となった。
 ぐわーん
 音をあげて、館は瓦解した。
 落雷の衝撃で脆くなっていた壁が完全に崩壊したのだ。
 みるみるうちに、館は瓦礫の山となっていった。

「こ、これはいったい!? 異常気象が多いとはいえ、館を攻略しているこのタイミングで、落雷が起きるなんて!!」
 桜葉忍(さくらば・しのぶ)は、信じられないといった表情で、瓦礫の山をみつめていた。
 忍はもちろん、ルカルカたちが気象コントロールセンターで作業をしていたなどとは、知らない。
「偶然とは思えないな。もしかすると、これは、天の裁きのようなものなのかも?」
 忍は、何となくそう思った。
 たとえば、国家神が、ステラレの街のこの現状に怒り、盗賊たちを滅せんと、鉄槌を振りおろしたのではないだろうか。
 いや。
 あるいは、盗賊たちへの怒りを表現するためのものだったのかもしれない。
「まあ、天が味方していると考えれば、心強いな」
 そういって、忍は、かつて館だった瓦礫の山に背を向けると、仲間たちとともに、歩き出した。
 救出した娘たちは、既に、治療を行う生徒たちのもとへ導かれている。
 崩壊した館は盗賊の拠点だったようなので、これで、街は解放されたといってもいいのではないか、と忍たちは考えた。
 勝利だ。
 生徒たちは、凱旋パレードのような気分で、街を歩きたくなった。

「ちいっ、崩れてしまったか」
 生徒たちが去った後、崩壊した館の瓦礫の山の中から、巨大な手がぬっと突き出されてきた。
 盗賊たちの、ボスである。
 ボスは結局、館が崩壊するまで、欲望の解消に夢中になっていたのだ。
 そのお相手は、ボスの下に包み込まれるようにしていた。
 サヤカだ。
「大丈夫か? お前と楽しむのが、あまり心地よかったからよ」
 ボスは、ニヤッと笑った。
「……」
 サヤカは、何もいわず、両手で胸を隠して、瓦礫の中に立ち上がった。
「おい、服を着ろよ。そうだ、とりあえず俺のマントを」
 ボスは、瓦礫の中から自分のマントを引きずり出して、何も着ていないサヤカに羽織らせた。
「そろそろ、調子に乗っているあの連中を抹殺しなきゃいけないな。ちょっとやりすぎてボロ雑巾のような身体だが、なに、すぐに巻き返してみせよう」
 ボスは、よろめきながらも、瓦礫の中から武器を引きずり出して、身に帯びた。
「おい、何かいえよ! よかったか?」
 ボスは、立ち去ろうとするサヤカの肩をつかんで、振り向かせた。
「ええ。よかったわ」
 サヤカは、言葉少なに答えた。
「そうか。へへっ」
 ボスは、サヤカの頭をつかまえると、その唇に、自分の唇を押しつけた。
「んん……」
 サヤカは、無言のまま、口づけにこたえた。
 これで最後になるといいと、思いながら。
「ぷはあ。闘いが終わったら、またお前と寝たいな。このケツを、また拝むのを楽しみにしているぜ」
 唇を離すと、ボスは下卑た笑いを浮かべてそういって、サヤカのお尻をパンと叩くと、豪快に歩み始めた。
「野郎ども、支度だ!! この館をぶっ壊した連中を一人残らず叩き殺すぞ!!」
「へ、へい!! ボス、でも、もう少し早く行動してくれると助かるんですが」
 生き残っていた盗賊たちは、ボスの声に呼び出されて、あわただしく闘いの準備を始めた。
「おい。いま、何かいったのか?」
「い、いえ」
「そうか。じゃあ、出発だ。街の広場へ!!」
 ボスは叫んだ。

「よーし、あの広場にはステージがあるね!! あそこで、世界史に語り継がれる偉大な勝利の宣言をしなくては!!」
 他の生徒たちとともに意気揚々と街を歩いていた藤林エリス(ふじばやし・えりす)は、街の中心にある広場まできて、いよいよ興奮するのを感じた。
 女性たちを救出し、盗賊たちもおとなしくなったように思ったので、革命が前進したように思ったエリスであった。
 ステージの上に飛びあがって、街中に響く大声で、エリスは呼びかけた。
「同志のみんな、長く抑圧に苦しんだ、この街は解放された!! でも、革命はまだ、終わっていない。この街から、全世界に革命の輪を広げることを誓おう!! この、記念すべき、ステラレの街の人民の解放の日に!! 今後、各地の同志に呼びかけて、パラミタ・インターナショナルを結成しようではないか!! えい、えい、おー!!」
 エリスが、そこまでいって気合をあげようとしたとき。
「バカ者が。解放なんか、されていないぞー!!」
 すさまじい邪気のこもった声が、どこからか響いてきた。
「えっ、誰? どこから?」
 エリスはきょとんとして、周囲をみまわす。
「何だ、いまの声は?」
 他の生徒たちも、驚いて警戒を始めた。
 すると。
「どこをみている? 俺たちはここだぁ!!」
 再び、邪悪な声がわきあがった。
「な、何ぃ!?」
 生徒たちは全員、驚きの叫び声をあげた。
 広場を取り囲むように建っている建物の屋根という屋根に、無数の魔物たちが横に並んで姿を現したのである!!

「クックック。お前らは、ただの甘ちゃんだ!! この街に巣食うのは、盗賊どもだけではない!! いま、真のこの街の主は、俺たち、魔物軍団なのだ!! 聞け、そして、覚悟せよ、盗賊どもを倒せても、俺たちは殲滅できまい!! お前たちは、ここで皆殺しにされる運命なのだ!!」
 魔物たちは、広場の生徒たちを見下ろして、声たからかにそう宣言した。
 そして、何を思ったか、一人ずつ自己紹介を始めた。
「俺は、ホブゴブリン!!」
「俺は、スケルトン!!」
「俺は、ゲロゲロトカゲ!!」
「俺は、蛇男!!」
「俺は、スーパーオオカミ!!」
「俺は、妖怪パラミタじいさん!!」
「俺は、ネズミ男!!」
「俺は、ゲタロウ!!」
「俺は、人面犬!!」
「俺は、ジャイアントスコーピオン!!」
「俺は、ケルベロス!!」
「俺は、ウンコマン!!」
「俺は、アリゲーター!!」
「俺は、ゴースト!!」
「俺は、人喰い花!!」
「俺は、セクハラ触手ダコ!!」
(以下略)
 それらの魔物たちは、人間でないがゆえに、実にバリエーションが豊かで、姿も異形そのものとよかった。
「くっ、何てこと!! 革命の抵抗勢力が、こんなにいるなんて!!」
 エリスは、強く拳を握りしめて、呪いの言葉を吐かずにはいられなかった。
 魔物は、人間と違って、増えるのがはやい。
 分裂して増えるものもいれば、おびただしい数の卵を産んで増えるものもいる。
 一度、ひとつの街に住み込むと、次々に繁殖して、街中を覆い尽くしてしまう。
 一度、魔物たちにすみつかれると、その街を復興させるのは大半だ。
 ステラレの街。
 そこはまさに、絶望に黒く塗りつぶされていた。
 生徒たちもまた、絶望に沈みかかった、そのとき。

「諦めちゃダメだよ!!」
 一人の女生徒が、エリスに続いてステージに上がり、生徒たちに呼びかけた。
「ああっ、あんたは?」
 エリスの目には、その女生徒の姿が光り輝いてみえた。
 キラキラしている、その超ミニスカの女生徒、小鳥遊美羽(たかなし・みわ)は、声もたからかに叫んだ。
「みんな、何をしているの? この街に敢えて踏み込んだみんなは、生命知らずのイカれた野郎ばかりじゃなかったの? こんなことで怖じ気づいてちゃダメ!! さあ、全部やっつけてこの街を解放するよ!!
「おお!!」
 エリスは、美羽に、何かを教えられたと感じた。
「同志、美羽!! 革命の火を、絶やしてはいけない!! そうだね?」
 エリスは、美羽の手をとって、そういった。
「えっ? 同志? なに、それ? あっ、一緒に闘う仲間ってこと? そうだね。いまこそ闘おう!!」
 美羽は戸惑いつつもそう答えた。
「美羽、そうだ、闘おう!! 僕はやるぞ!!」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)も、美羽の言葉に立ち上がっていた。
「そうですね。みんなやっつけて、傷ついてる住民たちを回復させないと!! それができるまでは、死ねません!!」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)も、コハクとともに美羽を支持した。
 そして。
 他の生徒たちも、むろん、ここで負けるつもりはなかったのだ。
 美羽の言葉に、全員が目をさまされた想いだった。
 そのとき。
「ふう。では、そろそろ、始末してやろうか?」
 やっと全員の自己紹介が終わった魔物の軍団が、生徒たちを睨んでいった。
「うん? 何だその構えは? まだやるつもりか? 面白い!! 殺してやる!! いけえぇ!!」
 魔物たちは、闘志満々になった生徒たちを嘲笑いながら、いっせいに広場に飛び降りていった。
「みんな、いくよ!! とあー、スーパーキーック!!」
 美羽は、生徒たちを促しながらも、自らも思いきり強い蹴りを魔物に向けて放った。
 ちゅどーん!!
 爆発が巻き起こる。
「よし、いくぞ!! 魔物殲滅だぁ!! わー!!」
 生徒たちは、いっせいに戦闘を開始した。
 そして、魔物だけではない。
「くぉらぁああああああ!! よくもボスの館を破壊しやがったな!! でも、ボスは健在だぜ!! ボスの指示で、お前らをやってやる!! 覚悟しろよ!!」
 盗賊たちの生き残りも、いっせいに乱入してきた。
 まさに、大乱闘の始まりであった。