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未来への階段

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「では、俺達は集落の方から回るか?」
 早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が、パートナーのヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)それから、優子の側にいるアレナと友人達に声をかけた。
 呼雪は地図を区切り、分担して調査をする案を、瑠奈に提出していた。
 イングリット達は街の方向を調査することになるため、もう一か所、建物が多く存在する地点――集落の方向から、この世界を視てみたいと思った。
「はい、建物を見てみたいです」
 アレナがきょろきょろあたりを見回しながら、答えた。
「んー、なんか見たことがあるようなないような。昔の事はもう大分忘れてるからね、知識面じゃ役に立てそうもないね。いやぁ、年はとるもんじゃないね」
 ヘルが笑うと、すかさずユニコルノから突込みが入る。
「その年で何を仰ってるんですか」
「ホントですね、良く思いだせないです。年でしょうか」
「アレナさんまで何を。さあ、参りましょう」
 ユニコルノは軽く笑みを浮かべて、アレナを機晶ドラゴンに乗せ、まずは集落へ向かうことにする。
「俺も行くぜ!」
 大谷地 康之(おおやち・やすゆき)は翼の靴で空を飛んで、ユニコルノ達の後を追った。
「では、私もアレナさんと共に行きますね。テレパシーで定期的に連絡するわ」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、調査の指揮者である瑠奈にそう言った。
「助かります、お願いします。こちらの地図を持って行ってください」
「うん、ありがと。行こう、ダリル!」
「ああ」
 地図を受け取り場所を確認すると、ルカルカとダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)はそれぞれ火炎比翼、氷華結翔で翼を発生させ、集落の方へと飛んで行った。
「残りの皆は、通信車と一緒に地図の中心点に向かい、そこから探索を開始する」
 優子が言い、その場に残っていたトラックに乗り込んで、皆で地図の中心点へと向かった。

「風呂を作るのじゃ!」
「やだ」
 中心点についてすぐ、ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)に風呂つくりを命じた。と思ったらすぐ拒否された。
「ううう、吐きそう……トイレ、もないんだよな」
 テレポート酔いで、アキラは要救助者となっていた。ダークレッドホールに飛び込んだわけじゃないのに! 既に足で纏いになり風呂作りさえできなくなっていた。
「2週間も風呂に入らずにいられるわけないじゃろう!」
 ルシェイメアは怒っていた。
 バーバ・ヤーガの小屋を持ち込みを希望していたが、大きすぎるという理由で断られてしまったのだ。
 定期的にテレポートで小屋まで送ってもらえないかという要望も拒否されてしまったため、最終手段としてアキラを使って風呂を作ろうとしたが、この有様だ。
「服を緩めて、少し横になっているといいですよ」
 医者のローズがアキラの症状を見て、アドバイスをくれた。
 「シャンバラの時間で2週間ですので、多分……」
 パートナー通信で確認をしていた瑠奈が、電卓を弾きながら時間を計算する。
「今の状態ですと、探索出来る時間は2、3日ほどだと思います。どうしても我慢が出来ないようなら、先に帰ってもらうことになるけど……」
 瑠奈が少し困った顔で言う。
「いや、それくらいなら簡易風呂で我慢できるじゃろ。それぞれがテレポートで行き来出来れば楽なんじゃがなあ」
 テレポートは習得したとしても、テレポートに必要な資材がなければ行う事が出来ない。
「それにしても……懐かしさを感じる場所じゃのう……」
 地面に倒れているアキラを蹴りながら、ルシェイメアは辺りを見回す。
 ずっと昔。ルシェイメアがこの地に生まれたばかりの頃。
 こんな風景を目にしたことがあるような気がした。
「私はここで皆様からの連絡を待ちますが、他にしておいたことがいいこと、ありますでしょうか?」
 通信車を持ち込んだヨンが優子に尋ねた。
「休憩や救護が出来るような場所作りをしてくれると助かる。風呂も、自分達が入るためというより、亡くなった人達のために、用意しておいてほしい」
「分かりました。ご飯の準備もしておきますので、皆様気を付けて行ってきてください!」
 そう言って、ヨンは皆を送り出し。
「というわけで、とっとと風呂を作らんか! 2つだ2つ!」
「うぐぐぐ、うー」
 ルシェイメアはアキラを尻を蹴って、風呂作りを始めさせたのだった。

 教導団から派遣され訪れていた水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は、パートナーのマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)と共に、地図の中心点の荒野から門へと向かった。
「危険な人造兵器が存在してるって話だったけれど、襲ってはきませんね」
 剣の花嫁のような生物と、エアバイクのような乗り物に乗った機晶ロボットが存在していると聞いていた。
 しかし、ここに生身の人間のような兵器の姿はなく、ロボットタイプの兵器は停止しており、襲ってくることはなかった。
「兵器については別に調べている人がいるみたいだから、私達は動植物や、この辺りの建物について調べていきましょう」
「うん」
 マリエッタから、感情のない返事が返ってくる。
「植物は……生えていた形跡はあるのだけれど、萎れてしまっていますね。樹木もボロボロ」
 火事があったのか、それともこの世界を支配していた熱のせいか、命を感じる植物は存在しない。
 荒れた大地と、岩があるだけで、門の方向には他に建物はなかった。
「そしてこの門」
 地図に描かれていた門の場所に近づくと、手袋をとって、触れてみた。
「……普通の、石造りの門ですよね。大きな門が荒野の中に1つ。周りには建物があった形跡さえもない。不自然ですね……」
 ゆかりは門の周りを回ってみたり、通過してみたり、下から覗き込んで調べていく。
「敷地への入口として作られたものではなさそうです。ここは封印された世界だと聞きました。封印後に、何かの目的で作られたのでしょうか」
 ゆかりは携帯電話で写真を撮り、周囲の様子と併せて、自分の考えをメモしていく。
「マリエッタ、土台を確認しましょう」
 相方の名前を呼んだが、反応がなかった。
 振り向くと、記録をする手を止めて何かを考え込んでいる。
(ここ最近、どこか思い詰めたような表情してるのよね……何かあったのかしら)
 ゆかりは不思議そうにマリエッタを見る。
 彼女が片想いの苦しい恋をしていることは、もう知っていた。
(そのせいで、妙に仕事にのめり込んでるのかしら)
「……あっ、地面も少し採取しておこうか」
 ゆかりの視線に気づいたマリエッタは膝を折って、大地の土を小瓶に入れた。
「それから、土台だっけ? どこかから移動してきたかどうか、わかるかもね」
 ゆかりとは目を合わさずに、マリエッタは門に近づいて、土台当たりを軽く掘ってみた。
 ……何かをしていなければ、心が悲鳴を上げてしまう。
(……あの人はもう、決して自分を見つめてはくれない。そんなことは判り切っているのに)
 それでも、どうしても諦めきれない自分がいて。
 ふと、気づけば同じことばかり、ぐるぐると考えていた。
 そんな自分に嫌気がさして、マリエッタはゆかりに背を向けた状態で唇をぎゅっと噛んで。
「土台浅そうよ。やっぱり、どこかから運んできたのかも!」
 笑顔でそう言った。
「……そうね」
 ゆかりは微笑みを浮かべると、しゃがんでいるマリエッタの頭にそっと手を置いた。
「無理しないでくださいね」
 そんな彼女の言葉に、マリエッタの胸が苦しくなった。
「なにやってるんだろう、あたし」
 呟くマリエッタの頭を、ゆかりが優しく撫でた。
「……大丈夫、無理してないわ、あたし」
 顔を上げて微笑もうとしたけれど、笑顔がどうしてもぎこちなくなってしまい、余計にゆかりに心配をかけてしまうのだった。

「命を感じない、寂しい世界、悲しい大地……」
 秋月 葵(あきづき・あおい)は、空飛ぶ魔法↑↑で空を飛んで、辺りを調べていた。
 ダークレッドホールに突入した一般人の遺体は、かなり状態が悪くて、焼けた瓦礫と区別がつかなかった。
 何かを見つけては、下りて、葵はそれが何であるのか調べて。
 持ち運べるものは抱えて拠点に戻り、持てないものは仲間に連絡を入れて場所を知らせて、取りにきてもらう。
「あ……っ」
 船であったと思われる瓦礫の側に、人の装飾品だとわかるものが、落ちていた。
 下りて近づいて、重なっている木材をどかした下に――自分より少し大きいくらいの焼けた身体が、あった。
「ごめんね。助ける事が出来なくて……」
 声を詰まらせながら言って、葵は持ってきた布でその遺体を覆って運び、拠点にいる優子の元に戻った。
「お願いします」
「ああ」
 優子は目を軽く閉じて黙祷し、葵から遺体を受け取った。
「ここから、ここまで、調べました。続いて、こっち方面に向かいます」
 拠点に置かれている大きな地図に、葵は印を残してすぐ、また行方不明の人々の身体と、物品を探しに飛び立つのだった。
 どんな形であっても、このままこの世界に置いていきたくなかった。
 シャンバラや故郷に連れて帰って、供養してあげたかった。
「どんな状態でも……待ってる人、いるから」
 親近者の下に、返してあげたいと。ロイヤルガードである自分が頑張らなければと、思いながら。浮かびそうになる涙をこらえ、葵は飛んだ。