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魂の研究者・序章~それぞれの岐路~

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魂の研究者・序章~それぞれの岐路~

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 第21章 そして、落ち着く先は

「やっふぅー! バイト先で出会うなんて奇遇でありますね、ファーシー様!」
 その数日後、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)はツァンダにある機晶装備を整備する店でファーシーと会ってびっくりした。まさかの偶然にテンションが上がる。
 驚いたのは、スカサハだけではなかった。ファーシーも目を丸くして彼女に言う。
「本当ね! 何だか最近、バイト先で良く知った人に会うんだけど……スカサハさんは、どうしてここに?」
「スカサハは、将来工房を建てて立派な調律者として活動していく為の資金調達中なのであります! 今日は一緒に頑張りましょう!」
「工房……そっか、それで……」
 初めて聞いたその話は、少しの驚きと共にすとんとファーシーの中に入ってきた。何となく、それは自然の理に近い物事のような気がする。なるべくしてなるーーというのだろうか。彼女だったら、きっと良い工房主になれるだろう。
「うん、よろしくね、スカサハさん!」

 店主も、ファーシーがアーティフィサーだからこそ採用したわけで、まさか基礎すら怪しいとは思わなかったのだろう。2人に別々の装備の整備を任せ、自分もまた奥の部屋に籠って仕事を始めた。スカサハは整備を進めながら、ハラハラとファーシーの様子を見守る。彼女は以前、スカサハが贈ったE.G.G.をインストールした籠手型HCと薄めの本を持ってきていた。本とHCを交互に見つつ、躊躇なく作業を始めようとする。
「ファーシー様、それは何でありますか?」
「あ、これ? これはエヴァルトさんが作ってくれたのよ。この前、子守に来てくれて、その時に。イディアのメンテナンスに役立てばって言ってたわ」
「イディア様の、ですか……」
 スカサハはちらりとそのマニュアルを見た。機晶技術のマニュアルより、更に初心者向けに作られている。何とか分かりやすくしようとしているのが見てとれた。
(そういえば、この前イディア様が危なかったと聞いたであります……)
 そして、満月から聞いた話を思い出して大体を察した。
 そんな事を考えている間に、ファーシーは自分の装備品を弄りだす。
「あっ、ファーシー様、一緒にやるでありますよ!」
 スカサハは、こっそりと彼女の手伝いをすることにした。

(ファーシー様……むむ、これは……)
 作業は、結構ドタバタだった。手伝う中で、スカサハは彼女のあまりのドジッ娘ぶりを見かねて潜在解放を使った。
「……あれ?」
 直後、ファーシーはぴたりと手を止めた。きょとんとして自分の手元を見て、装備品を見て、マニュアルを見て、首を傾げる。
「わたし、何か変なことしちゃったかな……」
 再び手を動かし、おかしなことになっていた部分を正しく直し始める。
(ファ、ファーシー様がまともに作業をしているであります……!)
 スキルを使ったとはいえ、何だか奇跡を前にしたようでスカサハはしばし彼女の整備に意識を取られていた。はっとして、自分の分の整備を始める。まだまだまだまだ手伝いは必要でも、もう滅茶苦茶な事はしなさそうだ。
「ところで、アクア様は工房を開くようですが……ファーシー様はどうなさいますか?」
「え? 工房? 何のこと?」
「知らないでありますか!?」
 アクア・ベリル(あくあ・べりる)が工房を探しだしてからもう随分経つ。ファーシーが何も聞いてないらしい事に驚きながら、スカサハはアクアが研究所兼工房を開く準備をしていることを彼女に話した。
「そうなんだ。アクアさんが工房を……」
「他にやりたい事があるならそれを尊重しサポートしますが、もし機工士として働きたい意思があるなら……アクア様と3人で一緒に働きませんか?」
 どこか安心したような、嬉しそうな微笑を浮かべるファーシーに、スカサハは提案する。アクアには、工房が決まったら一緒にやらないかと言って了承を貰っている。そこにファーシーも加われば、きっと毎日が楽しいだろう。
 そう言うと、その光景を想像したのだろう、ファーシーは夢を描くような表情になった。
「うん、楽しいかもしれないわ」
「それではスカサハ、アクア様に連絡してみますね!」
 喜び勇んで、スカサハはアクアに電話をした。3人で工房を、と言うと『えっ……』という声と間の後に『……構いませんが』という答えが返ってきた。
「大歓迎、ということであります!」
「……良かった! じゃあ、アクアさんに追いつけるように頑張らないとね」
 確信を持って、アクアの言葉の裏に隠れている真の意味を通訳する。すると、ファーシーは気合たっぷり、という感じで目の前の仕事に取り組み始めた。スカサハの作業も、嬉しさと共に順調に進む。
「大丈夫! 勉強はスカサハが心を鬼にして一から教え込むでありますよ!」