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リアクション
【アヴドーチカ・ハイドランジア(あう゛どーちか・はいどらんじあ)の一日】
健全な精神は健全な肉体に宿る。医者の不養生はあってはならない。
そう思い、一心不乱にバールを素振りするアヴドーチカ。
一回一回魂を込めて、迷いなくバールが上へ下へと舞い踊る。
「99……100! ふぅ、こんなものか」
やり切ったいい笑顔で、アブドーチカが額を拭う。
「おっと、朝食を食べてクリニックの準備をしなくてはな」
そう言って、彼女は自分のクリニックへと向かった。
朝食を取り、昼を回ればアヴドーチカが勤めるクリニックも営業を始める。
施す医術は打擲医術。……あまり聞きなれない医術のせいか、患者さんはまばらだ。
そんな時彼女はパートナーである結和・ラックスタイン(ゆうわ・らっくすたいん)のレポートや課題を見てやる。
「どうでしょうか?」
「悪くはないと思うが、この辺は少し意味が捩れている。これを改善するためには……」
問題点を洗い出し、改善点を分かりやすく教えてやる彼女。
―お詳しいんですね。
「……私が口先だけのなんちゃってドクターに見えたかい?
馬鹿を言っちゃあいけないな。それではただの暴行犯と何ら変わらなくなってしまうよ。
大体、打擲医術とは……」
その後患者さんが来るまで、我々は眠くな、貴重な講義を聞かせてもらった。
日も暮れるとクリニックは店じまいする。
だがアヴドーチカは家に帰らず、街を歩き始めた。
―どうして帰らないのでしょうか。
「そりゃ君、街に患者がいるからだよ。体調が悪そうな人は必ずいるからね」
そう言ってのけたアヴドーチカ。彼女の顔はコロコロと喜怒哀楽の何れに染まる。
「ん! もしもし、そこの人どうやら顔色が悪いようだね。
失礼、あ、動かないように頼むよ」
「えっ、あ、何ですか!?」
軽い問診が終わると、彼女の顔が打つべき箇所を見抜く。
「さあ、そのまま。いいかい? ……気をつけぇ!! えぇいやあ!!」
「あふぅん!!?」
ホームラン確定、愛バールによるフルスイングが声をかけられた患者の臀部にヒットする。
「いっ……たくない? むしろ、なんか、清清しい?」
何も知らないと通り魔か何かに思われるが、その様子を見ればやはりちゃんとした医術らしい。
「お、そこをいくのは三号じゃないか!」
「な、なんだよ?」
アンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)を見かけて、声をかける彼女。
その顔は、今にも打たせろ!と言わんばかりだ。
「……じゃ!」
「おい! こらお前さん、いい加減その頭を治させろーーー!!」
「くっそう! 最近言い出さないから忘れたと思ってたのに……!
もう別に思い出さなくてもいいって言っただろー!! 本当に勘弁してくれよーーー!!!」
逃げる三号という得物、患者を追いかけていくアヴドーチカ。
こうして、来る日も来る日も街を歩く人々の悩みを(物理的に)解決するのだろう。
これがアヴドーチカ・ハイドランジアの一日――