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2024種もみ&若葉合同夏祭り開催!

リアクション公開中!

2024種もみ&若葉合同夏祭り開催!

リアクション

 牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は、ちぎのたくらみで11歳の姿となり、当時のスク水を来てミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)の前に現れた。
「ミルミちゃん、キミを攫いに来たっ!」
 づばんと胸を無意味に張る。
 そのあまりない胸には『いけま』とひらがなで名前が書かれている。
 ひらがななのは、読めねぇよとクラスで評判だったからであり、他意はない。
「わかったアルちゃん、ミルミも当時のスク水でいくよ! 今でも着れるし」
 聞きようによってはちょっと悲しい事を言い、スク水持参でミルミ・ルリマーレン20歳はアルコリアに攫われ、お祭りに訪れたのだった。

「みるみむぎゅー、ミルミちゃん、海だ!!」
 泉を前にアルコリアが言う。
「アルちゃん、ここ海じゃないよ」
「それなら川だ!」
「ええと……」
「川岸だ!」
「違うよアルちゃん、川岸よりは冷泉の方が近いよここは! 若葉分校は川岸近くだけど!」
 仲良くそんな会話をしながら、2人は泉に近づいて、スク水の上に来ていた服をばっと脱ぐ。
 アルコリアは実家で発見した11〜12歳頃のスク水。
 ミルミは中学の頃の百合園のスク水だ。
「よし、ミルミちゃん準備運動っ! おしくらまんじゅう!」
 そんなにボリュームのない成長途中の身体を、アルコリアはミルミに押し付ける。
「お返しお返し〜おしくらまんじゅっ」
 ミルミの身体は女性的なボリュームは少な目だけれど、幼児的な柔らかさがあった。
 ふにゅぅふにゅう、むぎゅむぎゅと笑いながら押しあって。
「よし、そろそろいいでしょう」
「うんっ」
 程よく火照ったところで、泉にどぼーんっと飛び込んだ。
「てことで、やほー、ミルミちゃん元気してた?」
 水中から顔を出すと、アルコリアは浮き輪で浮いているミルミに、ざばんと抱き着いた。
「にひひー」
 笑いながらアルコリアはミルミのほっぺをうにゅうにゅして、かわいいかわいいと撫で繰り回す。
「きゃはっ、ミルミは元気だよー。世界とか学校は大変なかんじだけどね! ふふっ。
 アルちゃんも可愛いー。いつものキレイ系の可愛いとも、幼児の時の可愛いとも違う可愛さだ〜」
「そうだろうそうだろう。むふふっ」
 うりゅうりゅとアルコリアは猫のようにミルミに頭を擦り付ける。
「かわいいかわいい。あるちゃんむぎゅーっ」
 ミルミはほっぺですりすりしてアルコリアの頭をぎゅっと抱きしめた。
「かわいかろうかわいかろう。ミルミちゃんもむぎゅーっ」
「アルちゃんぎゅっ、ぎゅーっ。あははははっ」
 水の中で、うにうにし合ったり、抱き着いて回ったり、2人はしばらく2人だけの楽園を満喫していた。
「……っと、他にも水遊びしたい子いるみたいだから、もうちょっと奥いこっか。ミルミちゃん浮き輪あるから平気だしね!」
「うんっ」
 一頻り騒いだ後、アルコリアは混雑している水辺から少し奥へと、ミルミを連れて移動をした。

 それからは、温泉でゆったりする時の様に、水の中で景色や遊ぶ人達をみながら、のんびりと過ごしていく。
「なんだか世の中は……」
 ふと、そんな言葉を発してしまい、アルコリアは途中で言葉を飲み込んだ。
 シリアスな話を、またミルミにしてしまうところだった。
「ん?」
 ミルミが不思議そうな、純粋な目をアルコリアに向けた。
「じゃなくて、人間の身体って案外浮くんですよね、水に。金槌で沈む人って、息はいてるんじゃないかとか思うんですよ、こんな風に」
 そう言うと、アルコリアは息を吸い込むことなく、大きく息をはいて……。
 ざぶん
 と、水の中に沈んでいった。
 潜る、ではなく、ゆっくりと水の中に沈み、落ちていく。
(……どれくらい沈みっぱなしだったら、ミルミちゃん来てくれるかな?)
 アルコリアほど身体能力が優れていても、長い間呼吸をせずにいられるわけではない。
 息をはいてしまっているため、長くは持たない。もう体は苦しみを感じていた。
 水底まで沈んだアルコリアは水面の方をぼへーっと眺めていた。
 ミルミが足をばたつかせていることがわかった。
(あ、心配かけちゃってる? そういうの、目的じゃないから)
 すぐに上がろうと、アルコリアが水底に足をついたその時。
 ミルミの顔が水面に見えた。
 浮き輪から落ちるように、外して、水中に顔を入れたミルミが、アルコリアの方に必死に手を伸ばしている。
 もう片方の手は、浮き輪を掴んでいるようだ。
 アルコリアはすぐに手を掴んで、ミルミを抱き留めながら浮上して水上に顔を出した。
「ふはーーーーーー」
「げほっごほっ、アルちゃーん」
 大きく息を吸い込んだアルコリアに、泣き出しそうな顔でミルミが飛びついた。
「ごめんごめん、水の底から世界を見るとか、普通に生きてると中々しないなぁと思っただけ」
「それなら最初にそう言ってよ。ホントに沈んじゃったんじゃないかって、びっくりしたんだからーっ」
 ぽかぽかとミルミがアルコリアを叩いてくる。
「ごめんね、ごめん、ミルミちゃん」
「もー、人にはできることとできないことがあるんだよ。できるような方法をみつけてから、やらないと危ないよ」
「うん、そうだね。ミルミちゃんはちゃんとわかってるんだね」
 ミルミには、危険なことはしないでほしい。
 そう思いながらも、自分に対してはそう思わないアルコリアだった。
 今回のことも、特に危険な行為だと思っていなかったし……。
「それじゃ、そろそろ上がろうか! 泉岸のかき氷屋が私達を待ってますよー」
 ミルミの手を引いて、アルコリアは岸へと泳いでいく。

 ミルミの笑顔は、美味しいかき氷を口に入れた瞬間に戻ったのだった。

○     ○     ○


 学校指定水着に胸パットを入れた姿で、秋月 葵(あきづき・あおい)は、親友のアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)とパートナーの魔装書 アル・アジフ(まそうしょ・あるあじふ)と共に、辺で水遊びをしていた。
「葵さん、もうすこし奥行きませんか?」
「え!?」
 突然のアレナ言葉に、葵が驚いていると。
「この辺り混雑していますし、もう少し先でも足つきますよ!」
 そう続けて、アレナはちょっと奥へと足を進めた。
「アレナちゃんの肩あたりってことは、私は落ちたら顔しか出ないよ〜」
 シャチの浮き輪に乗っかっている葵は、アレナに引っ張られて一緒に奥へと進んでいった。
「あたしも顔しか出ないですぅ!」
 葵のパートナーでアレナのファンのアルは、頭の上の使い魔の猫を押さえながらゆっくりと水の中を歩く。ひらひらのついた可愛いワンピースの水着が全く見えなくなるくらいの深さだった。
「ほぇ〜スイカって水に浮くのですねぇ〜」
 もう一つ、アルはネットに入れたスイカも持ってきていた。後でスイカ割りをやろうと思って。
 浮き輪代わりにはならなかったが、スイカはぷかぷかと水に浮いていた。
「波もないですし、ちょっと深いくらいの方が楽しいですよー。でも、ちゃんと浮き輪に掴まっててくださいね」
 アレナは泳げるため、怖くはないようだったが、葵はあまり泳げず、アルは全く泳げないのでこの深さはちょっと怖い。
「あの、あのー。アレナさん、泳ぎを教えてほしいですぅ……葵ちゃんは泳げないから教われないのですぅ」
 アルは頑張ってアレナに近づいて、お願いをする。
 彼女はアレナのファンであり、今日も葵がアレナを誘ってお祭りに行くと言う話を聞いて、アレナが行くのなら行きたいと、頼みこんでついてきたのだ。
「泳ぎのお勉強は、プールの方がいいかもしれません。今日は潜る練習と、浮き輪に掴まってバタ足をする練習くらいがいいでしょうか……葵さんも泳ぎの練習します?」
「え!? 浮き輪離すのはちょっと怖いな……」
「それなら、無理はしないで普通に遊びましょう! アルさんはここではちょっとだけ練習して、次は空いてる日にプールで練習しませんか?
「わかりましたぁ……で、でもいきなり潜るんですかぁ……っ」
「大丈夫です、何かの時には私、助けますから!」
「は、はい、頑張りますぅ。せーのっ」
 潜るのは怖かったけれど、大好きなアレナを信じて、アルはジャンプした後、水の中に潜った。
 使い魔の子猫はぴょんと飛び退いて、アレナの頭の上に乗った。
「いーち、にー、さーん、しー、ごー、ろーく、しーち、はーち、きゅー、じゅー……」
「ぷはっ。……はあ、はあ……」
 十までカウントしたところで、アルが水から顔を出した。
「……はあ、はあ……っ、苦しいですぅ」
「沢山もぐれましたね、やる気もあるし、すぐ泳げるようになりますよ!」
 アレナの言葉にアルは強く頷いて、それから葵のシャチの浮き輪に掴まって、バタ足の練習をも始めた。
「わわわ、揺れる揺れる〜」
 シャチが飛び跳ねるように揺れ、葵は必死にしがみつく。
「あー、ストップストップ、揺らさないで〜。アレナちゃん、やめさせてー」
 ちょっと怖かったが、面白くもあった。

 少しの練習を終えた後は、皆で浮き輪に掴まって、漂いながらおしゃべりを始めた。
 ヴァイシャリーや空京に最近できたお店のこと、美味しい料理のこと、そして仕事のこと、家族のことと話は続いていく。
 葵はパートナーで恋人のエレンディラと結婚をすることになった。
 アレナは優子と戸籍上も家族になる予定のようだったけれど、今はまたあまり一緒には過ごせていないようだった。
「考えたんだけど、私が強く出来る子になれば優子隊長も仕事減って自由な時間ができるんじゃぁないかなーって思うの」
「え?」
 葵の言葉にアレナは不思議そうな顔をした。
「そしたらアレナちゃんと一緒にいる時間も増えるし……。でも優子隊長のことだからその分鍛錬とかに使いそうだよね」
 そう葵が笑うと、アルは大きく頷き、アレナの顔にも笑みが浮かんだ。
「自由時間の鍛錬なら、同行できますから……っ!」
「そっか、そしてより強くなって、2人とも仕事が増えるわけね」
「うう……っ。
 葵さんは、強くなりたいんですか? 葵さんの仕事が増えたら、葵さんが大変ですよ。
 優子さんは仕事好きだからいいんですけれど……」
「うん、あたし二十歳になって、今度結婚することにしたし、もっと頑張ってみんなの笑顔を守らないといけないかなーって思ったんだ」
「結婚するのに、みんなの笑顔、ですか? 大切な人だけのじゃなくて……」
 アレナの問いに、葵は当然というように頷いた。
「そうだよ、あたしや大切な人が笑顔でいるためには、みんなの笑顔が必要なの。皆が暗い顔してる世界じゃ、笑顔になれないよ」
「……はい」
「あと、結婚式には是非出席してほしいんだけど、来てくれるかな?」
 葵がアレナに尋ねると、アレナは驚いた表情になり、目を輝かせた。
「行ってもいいんですか? 行きたいです!」
「ありがと〜! 優子隊長も招待したら来てくれるかな?」
「今はちょっと体調悪くて無理だと思いますが、優子さんも葵さんの結婚式行きたいと思います! 女王様や世界が危なくなったり、しなければ、優子さんと一緒に行きますーっ」
 アレナは凄く嬉しそうな顔でそう言った。
「それじゃ、スイカも十分冷えたと思いますし、スイカ割りやりましょぉ〜」
 アレナが葵とばかり会話していることにじれて、アルが葵の腕を引っ張った。
「うん、辺に戻ろ〜……………………アレナちゃん、お願い」
「アレナさん、バタ足しかできませんが、あたしも頑張りますぅ」
 水の中を歩いて戻ろうとした葵とアルだが、足がつかないことに気付いたのだ。
 使い魔の子猫はアルの頭の上でのんびり丸くなっている。
「はい、戻りましょう〜。お魚さん、いきますよ」
 シャチの浮き輪のヒレの部分に腕をからめて、アレナは水辺まで泳いで皆を連れて行ったのだった。

○     ○     ○


 コスプレアイドルデュオ「シニフィアン・メイデン」の2人、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)
アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は多忙な毎日を送っている。
 空京大学生としての本分もおろそかにしたくないし、アイドルとしての仕事も落したくない。夏はサマーライブを始め、各種イベント目白押しで、2人に休む暇はなかった。
 ……ないはずだったが、今日は本当に奇跡的に休みが取れたのだ。
 これはもう羽目を外すしかないと、この種もみ学院と若葉分校の合同夏祭りに訪れたのだった。
「さあ、楽しむわよ!」
「ええ……ってちょっと待って!」
 泉に着くなり脱ぎだしたさゆみを、アデリーヌが慌てて止めようとする。
「ん? どうしたの?」
 不思議そうに尋ねるさゆみ……服の下からは、青のグラデーションのトライアングルビキニが現れた。
 それをみて、アデリーヌがほっと息をつく。
「さゆみのことですから、やりかねないと思ってしまいましたわ……」
「何が?」
「いえ、なんでもありませんわ」
 時間が惜しいからと、周りを気にせず水着に着替えだすさゆみの姿が思い浮かんでしまったのだ。
 さすがにそんなことはなく、しっかり中に着込んできていたようだった。
 ただ、さゆみの水着は、サイドを紐で結ぶタイプのもので……綺麗な彼女の身体が露わになっており、パラ実生たちの目を釘づけにしていた。
 アデリーヌの方は、彼らの視線を避けて水辺のパラソルの下で、そっと上に着てきた服を脱いでいく。
 彼女の白い水着も魅惑的なものだった。白い肌に美しい顔立ち、すらりとした足を持つアデリーヌは、パラ実生だけではなく、人々の視線を集めてやまなかった。
 2人は水辺で軽く水浴びして、少しだけ泳ぐと。
「わたくしは、そろそろパラソルに戻りますわね」
 勝手に肌を焼いてはいけないということもあり、アデリーヌはパラソルの下でゆっくり過ごそうかと思っていた。
 しかし。
「さ、毎年恒例の……やるわよ! 今日を逃したら、もう時間とれないかもしれないしね」
 さゆみが鞄の中から水鉄砲を取出して、アデリーヌに渡す。
 2人は毎年恒例のように、水鉄砲での勝負を行ってきていた。
「……わかりましたわ」
 一昨年、去年と2人の勝負は引き分けに終わっている。
(今年は勝ちたいですわね)
 アデリーヌはさゆみに続いて、水辺に向かって、背を向け合った。
「いくわよ」
「ええ」
 2人は逆方向へと十歩歩く。
 歩き終えた途端、振り向いて、互いに発砲! そこから水の銃撃戦が開始した。
「……!」
 さゆみが放った水の軌道を読み、アデリーヌが躱す。
「っと」
 アデリーヌが放った水をさゆみはステップで躱した。
 毎年バトルをしているせいか、互いに攻撃を相手に読まれてしまい、なかなか当たらなかった。

「アディ、そろそろ降参したらどう?」
「さゆみこそ、息が上がってきていますわよ」
 水辺を走り回り、相手を狙って2人は水を放っていく。
 最初はただの遊びに見えたけれど、次第に2人の動きは激しくなっていく。それでも、どこか優雅さを漂わせる殺陣のような動きだった。
 彼女達の女性としての魅力に惹かれていた観客たちの目が変わり、スポーツを観戦するかのような輝きが現れて、応援する声が飛んでいく。
 しかし、彼女達の目には互いしか映ってはいなかった。
 ……いつまでも、こうしていたいと思いながら、戦っていた。
「……あっ!」
「きゃっ!」
 そして最後は、互いの形の良い胸に水が命中。
 暑くなった体に浴びた水はとても冷たくて、2人はそろって小さな悲鳴を上げて。
 それから、満面の笑顔を浮かべた。
 種もみ学院、若葉分校生、訪れていた客達から拍手があがった。
「撮った、撮ったぞ〜! ディスクに焼いて、販売だー!」
 パラ実生のそんな声に、2人ははっと我に返った。
 どうやらビデオカメラで撮られてしまったらしい。
「しょ、肖像権……とか、ここじゃ主張できないよね」
「仕方ありませんね……。楽しませていただいたお礼ということで」
 2人はくすりと笑って、今度のサマーライブは水着で水鉄砲を乱射する演出もあるのだと宣伝をしながら、その後のパラ実生の撮影にも応じたのだった。


「冷たくて気持ちいい〜! やっぱり暑い夏は海だね。ここは泉だけど」
「理知、あんまり真ん中のほう行くなよ!」
 すいすいと泳いでいく辻永 理知(つじなが・りち)辻永 翔(つじなが・しょう)が呼び止める。
 しかし、理知は「まだ平気だよー」と進んでいってしまう。
「溺れても知らないぞ」
「監督係さんもいるしね」
 そう返しながらも、理知は足が着くところで止まった。
 翔を心配させたいわけではないのだ。
「ここから先は深そうだから行かないよ」
「まったく……そのまま向こう岸まで行くつもりかと思った」
「それもいいね。挑戦してみようかな」
「しなくていい!」
 理知がちょっと泳ぎだすふりをすれば、翔が抱き着くようにして引き止める。
「おまえ、絶対海で潮に流されるタイプだろ。気づいたらずっと沖のほうとか」
「そ、そんなことないよ」
「とにかく、足が着くところで。な?」
「ふふっ、保護者みたい。おとーさん、遊んで〜!」
「せめておにーさんで!」
 泉の心地よさに、二人は日頃の疲れを吹き飛ばすようにはしゃいだ。
 どれくらいの時間、そうして遊んでいたか。
 だいぶ体も冷えてきたのでそろそろ休もうかと、どちらからともなく岸に向かい始めたのだが。
「ま、待って翔くん!」
 突然、理知が慌てた声を出した。
 振り向いた翔がどうかしたのかと目で問いかけるが、理知は何て言ったらいいのか迷うように視線を彷徨わせた。
「……理知?」
「えと……そ、そうだ! 翔くん、後ろ向いてしゃがんでみて」
「何で?」
 と言いながらも、背をかがませる翔。
 その背中に、理知が貼りついた。
「理知? ……あれ、理知。水着どうしたの?」
「……ゆ、行方不明に……」
 ビキニのトップがいつの間にか外れてなくなっていたことに気づいた理知は、翔の背負ってもらって岸にあがろうと考えたのだ。
 その案は翔もすぐに理解したが、頭のもう一方はそれどころではなかった。
 背中にダイレクトに伝わるやわらかさに、このままいけない世界に突入してしまいそうだった。
 翔は、何かしゃべって気を紛らわすことにした。
「水着、後で探してくるよ。フリルのついた青いのだったよな。よく似合ってたから、もったいないよ」
「危ないよ! 確かに残念だけど、それ探してもし翔くんに何かあったら嫌だから。また新しいの買うよ。今度は翔くんの好きな水着にしようかな」
「俺の好みか……。う〜ん、理知は何でも似合いそうだしな。──オレンジ系は? また脱げないようにワンピースで」
「またって……こんなこと、滅多に起こらないからね」
「ちょっと、暴れるな!」
 密着したまま動かれると、せっかく忘れていた煩悩が蘇りそうになるのだ。
 どうにかこうにか自分達の荷物のある場所に戻ると、翔の陰に隠れて理知は素早く上着を羽織った。
 それでようやく翔のほうも落ち着いた。
「ごめんね。向こうのコンビニにテーブルあったから、そこで何か食べよう。お礼におごるよ」
「そんなのいいよ。困ってる妻を助けるのは当然だろ」
 それはそれで嬉しい理知だったが、それでも何かお礼をしたかった彼女は、かき氷を手ずから翔に食べさせるのだった。