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メインイベントその1 ストロングスタイル王座争奪戦

――最弱決定戦が終了した後の長めの休憩が終わる時間になると、会場が暗転する。
 ライトで照らされた花道から、和 泉空がゆっくりと歩いてくる。その腰には王者の証であるベルトが巻かれていた。
 リングへと歩み寄り、中央でベルトを外すとレフェリーへと手渡し、自分のコーナーへ寄りかかる。
 歓声が止み、少し間が空いてから花道にその選手は現れた。観客がその姿を目にすると、先程の泉空以上かと思われる歓声が上がり始める。
 花道に姿を現したのは”ザ・ゲーム”涼介・H・フォレストこと涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)であった。【カーニバル・オブ・チャンピオンズ】を使った威風堂々とした入場ではあるが、その歓声はそれだけの物ではない。
 少し前に行われたラダーマッチを制したことによりタッグ王者になった涼介が、王者の風格を纏いリングへと上がる。
 もしも涼介が最後まで勝ち残ったのならば、ストロングスタイル王者に合わせてタッグ王者と二冠王となる。
 現ストロングスタイル王者と現タッグ王者。この組み合わせにいやが上にも観客の期待が高まる。
 果たしてどのような結果を迎えるか、ざわめきが起こる中ゴングが鳴り響いた。

 序盤、両者共に一歩も退かない打撃戦が始まった。
 涼介は右ジャブを顔に、泉空は蹴りを身体に叩きこむ。両者一歩も引かずに重い一撃を叩きこむ。
 そのやり取りを打ち破ったのは涼介。右ジャブを叩きこむと、泉空に蹴りを打たれる前に更に右の拳を叩きこむ。
 二発、三発と放つ度に速度を上げ、動きが止まった泉空を見ると溜めを作り、大きく振りかぶり右の拳を叩きこんだ。
 レフェリーから拳の使用についての注意を無視しつつ、涼介は倒れず堪える泉空を即座に捕らえるとロープへと押し込みスルー。そして自身もロープへもたれ掛り、反動をつけてから戻ってきた泉空にジャンピングニーを放つ。
 身体を横に流し、膝の外側が泉空の顔面にヒット。だがこれに泉空は倒れず、その場を旋回してのローリング裏拳を顔面に叩きこみ、涼介がダウンしてから自身も倒れ込む。
 激しいぶつかり合いは流石王者同士の戦いである事を思わせる。最初の試合という事を考えると涼介も泉空も少々ハイペースに攻めている。
 涼介は相手の力量を見てペースを作るということを考えていたが、相手は現王者。(出し惜しみして負けた、なんて笑えないからな)と考えていた。

――試合の流れが変わったのは、中盤の涼介の一撃であった。
 泉空の首を抱えてのDDT。脳天からリングに突き刺さった泉空は真っ直ぐ倒立し、全体重を首に受けた形になる。
 ここでダウンしてからの泉空の動きは明らかに鈍くなっていた。更にダメージを加えようと、組み付くと首を捻り背中合わせになってからのネックブリーカーを連続して放ち、ダメージを溜める。
 ダウンしても中々泉空は立ち上がれず、立ち上がってもしきりに首を機にする仕草を見せるようになった。
 涼介は更にアブドミナル・ストレッチ、所謂コブラツイストで痛めつける。首に加え、背中を始めとした身体にダメージを与えていく。
 だがこれを泉空は、腰投げの要領で投げて抜ける。そして直後に起き上がった涼介の背にローキックを叩きこんだ。
 痛みを堪え、立ち上がる涼介を見ると泉空はロープへと走る。反動を利用し、戻ってくるが涼介は泉空を抱え上げると、旋回しつつ前方へスパインバスターで背中から叩きつける。
 そのまま倒れ込んだ泉空の両足を掴み、シャープシューターへと移行するが泉空が飛びつく様に三角絞めを極める。
 だが形は不完全で極まりきっていない事に気付くと、涼介はそのまま体重をかけフォールへと持ち込もうとする。すると泉空は重心を移動させ、涼介の右腕を極めるオモプラッタの形で回り込んだ。
 しかしそのまま右腕を極めずに泉空は立ち上がると、涼介の身体を抱え引っこ抜くようにジャーマンスープレックスを決めた。
 着地時に泉空の両足が浮くほどの勢いのジャーマン。これで試合は決まるかに思えた。
 だがカウント2の時点で、技が解かれたのである。これに一番驚いたのは涼介だ。何故ならば自分はフォールをまだ返していないのだから。
 わざと解いたのか、と涼介は泉空に目を向けるが、その姿を見てその考えは違うという事に気付く。
 うつ伏せに倒れ、苦しそうに息をする泉空。ジャーマンを仕掛けても、その形を維持できなかったのである。
 涼介がタッグ王者になったラダーマッチ。その試合には泉空も参戦していた。しかし終盤、他の選手による大技により泉空は長テーブルとリングに叩きつけられ、背中と首を痛めていたのである。
 特に首のダメージは深刻であったようで、先程の涼介のDDTにより影響が出始めていたようだ。
 これ以上試合を続けさせるのは涼介の目にも危険に感じた。だが苦しそうに顔を歪めながらも、泉空の目は死んでいない。何とか立ち上がろうと手に力を込めている。
 ならばと、涼介は泉空の髪を掴み無理矢理立たせると身体を屈めさせて両腕を固定。頭を足で挟むダブルアームスープレックスの体勢になる。
 だがその状態で涼介は泉空の身体を持ち上げると同時に、自分も飛び上がる。空中で腕の固定を外し、そのまま前面から泉空の身体が叩きつけられた。
 涼介のフィニッシュホールド、ペディグリーである。本来ならば腕の固定は外さないが、現在の泉空の状態を考えると大怪我の危険があるため、受け身を取れるようにと外したのである。
 説得力のある一撃。これはこれ以上泉空に試合を続行させない為の介錯的な意味を持っていた。
 フォールされ、返す力のない泉空はそのまま3カウントを聞いた。ゴングが鳴らされ、慌てたようにスタッフが駆け寄り、泉空の首にコールドスプレーを吹きかける。
 それを横目に自軍コーナーにもたれ掛る涼介は、勝者であるが複雑な表情をしていた。
「……不甲斐ない試合させて申し訳ない」
 苦しそうな表情で泉空が力なく呟く様に涼介に言う。
「いや、気にしないでくれ」
 苦笑して答える涼介に申し訳なさそうな表情を浮かべたまま、泉空はスタッフの手を借りリングを降りるのであった。
 何とも不完全燃焼な、不本意な結果に、再度涼介は複雑な表情を浮かべるのであった。
「……こりゃ、中途半端な形で終われないな」
 だが、まだ試合が残っている――むしろ始まったばかりである。そんな事を考えている間にも、次の選手が花道に姿を現す。
 両頬を叩いて涼介は気合を入れ直すのであった。

●和 泉空(10分21秒 体固め※ペディグリー)涼介・H・フォレスト○
※ストロングスタイル王者が防衛失敗。
 涼介・H・フォレストが暫定ストロングスタイル王者となる。