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君を待ってる~封印の巫女~(第1回/全4回)

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君を待ってる~封印の巫女~(第1回/全4回)

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第6章 花と蟻と(花壇)
「【ディフェンスシフト】!」
 突然の襲来。
 我に返った優希は、一匹のジャイアント・アントの真正面に立ちつつ、皆の防御力を高めた。
 繰り出される爪をランスで捌きつつ、雛子達へと近づけないよう。
「おおっいい感じ……っと、近づけさせるわけにはいかないよ!」
 ハンドガン型の光条兵器をクルッと取り出し構えた翔子は、襲い掛かってくる小山とも見えるアントに、光の弾丸をお見舞いした。
「一応、考えているらしいですね」
 メイスを構えたミコトがキリッとした表情を少し、和ませる。
 銃の軌跡は花や沙幸達を傷つけること無く、吹き飛ばされたアントの落下位置もまた、同じ。
「……え?、あ〜……うん、当然じゃん!」
 おぉそっかぁ、とか何とかいう呟きは幸い、ミコトには届かなかったらしい。
「とにかく、こいつらを花壇から引き離さなくちゃ!」
 銃をぶっ放しながらの翔子と、
「はい!」
 優希は頷き合い。
 タイミングを合わせ、
 翔やソール達が作った罠へと、押し出す。
「花壇や雛子さん達には手は出させません! 御柱さんを助ける為にも!」
 そこにいたのは、いつもの引っ込み思案な優希ではなく、弱き者を守ろうとする正しき騎士だった。
「火はダメだ、花まで焼いてしまう」
 とはいえ、このままでは花を踏み潰されてしまうのは必死。
 芳樹は咄嗟に【バーストダッシュ】でジャイアント・アントに体当たりした。
 諸共に花壇から弾き出す。
 勿論、アントとてただされるがままではない。
 鋭い顎で芳樹を噛み砕かんとする。
「させない!」
 そこにアメリアが……疾風のヴァルキリーがカットイン!
 手にした剣で巨大な顎を受け止め、力の限り弾き飛ばす。
 同時に。
「これで、終わりだ!」
 芳樹の【雷術】が、ジャイアント・アントを打ちのめした。
「優希もアメリアも頑張ってくれてるんだもん!」
 久世沙幸(くぜ・さゆき)はパートナーの藍玉美海(あいだま・みうみ)と共に、必死で花を植えていた。
「雛子達を助けたい、学園を守りたい……」
 そして今、自分達を護る為に危険を賭して闘ってくれている皆の為にも。
「私達はこんな瘴気なんかに、負けたりしないもん!」
 アントと共にもたらされた瘴気は、確実に沙幸達を蝕んでいた。
 足元がフラつく、呼吸が苦しい、目の前がスゥと暗くなる。
 諦めれば、ここで手を止めれば楽になる……そんな誘惑が時折心を掠める。
 ともすれば意識を持っていかれそうになる中。
「えぇ、わたくし達はこんなモノに負けたりはしませんわ」
 沙幸を支えるのは皆と、何より美海の存在だった。
「頑張りなさい、沙幸。頑張ったら後でご褒美を差し上げますわ」
 キュッ、握られた指先はひんやりしていて。
「うん! 楽しみにしてるね!」
 握り返しながら、沙幸はにっこりと笑って見せた。

「やはり実体があった方がやりやすい!」
 剣を振るう巽は、獰猛に笑んでいた。
「スキルに頼ってばかりじゃ、剣の腕が磨けないからな。修行には丁度いい!」
「回復は任せて欲しいけど、皆、怪我とかしないようにね!」
 巽らしい、思いながら皆に声援を送るティア。
 ぐるりと見回した瞳が、一つの危機を捉えた。
「わわわ、そこの人! 右から敵が! 気をつけて!」
「……え?」
 花を植えていたユアは、一瞬反応が遅れた。
 一本にしている緑色の長い三つ編みを揺らしながら、振り返った時。
 頭上に、黒山が迫っていた。
「ユアっ!」
 声と、黒光りした巨体が吹き飛ばされるのと、どちらが速かったか。
 一拍後、銃声が響き渡る。
「……涼」
「言ったはず……守る、と」
「ベアトリーチェ!」
「了解です!」
 応え、ベアトリーチェの【パワーブレス】の力が我が身に宿るのほ感じ。
「ったく、戦い甲斐のない相手ね」
 『音速の美脚』と称される俊足。素早く回り込んだ美羽は、花への攻撃を光条兵器で受け止めた。
「要は気の持ちようやで!」
 ハリセン形の光条兵器で迎撃するのは雪華。
「翔みたいに地味に戦ってなんかいられないね」
 小型飛空艇でもって、メイスを振り回しているのはソールだ。
「攻撃が単調ですね。知能は虫並み……とはいえ、そう断ずるのも危険ですか」
 輝樹もまた光条兵器を使用しつつ、敵を冷静に観察していた。
「一方的に襲ってくるわけではないのですか?」
 牽制しつつ問う美沙に、軽く頷いてやる。
「ええ。小鳥遊さんや陽神さん達が迎撃しているから気づきませんが、奴等は花や花を植えている人達を狙っている……そんな風に見受けられます」
「知能がある、と……?」
「或いは、何らかの意思……悪意とでもいうべきもの」
 輝樹の脳裏に浮かんだのは、ツァンダの昔話。

昔々、この地に悪しきものがありました
草木は枯れ、鳥も動物もじっと息を潜め、人々も笑顔を失っていきました
しかしある時、一人の巫女がこれを封印しました
そうして、この地に平穏が戻ったのです
悪しきものを封じた聖なる庭、巫女は今もそこで見守ってくれているのです

 輝樹はここでハッと背後……花壇を振り返った。
「まさか!?」

「ぜってぇ狙ってくると思ってたぜ!」
 視線の先。中央の花……ピンポイントで襲い掛かってきた顎を、駆け込んだ壮太のダガーが弾く。
「御柱のねーちゃんは、これを媒介にオレらに呼びかけてるんだろ。て事は、この花がダメになっちまったらねーちゃんの声が聞こえなくなるかもしれねえ」
 故に、ミミの【禁猟区】を頼りに、備えていたのだ。
「よお、ねーちゃん。シケた面し『申し訳ねえ』って思うより、応援の言葉でもかけてやれよ。そのほうがこいつら喜ぶぜ」
『ですが……この事態は全て私の責任で……』
「過ぎた事は過ぎた事、やっちまった事はどうしようもねぇ。ならさ、それを背負って前を目指した方がずっと建設的だろ」
「壮太が言うとすごく実感がこもってるよね」
「おうよ!」
 ミミに悪びれもなく返した壮太。御柱はそんなやり取りに眩しそうに目を細め。
『はい……皆さん、頑張って下さい』
 そう。両手を組み合わせた。
「いい笑顔だ」
 ふっと刀真は口元を緩め、得物を握りなおした。
「お前達では役不足だ……殲滅する」
 【轟雷閃】……ほとばしる電雷が、近づこうとした巨大アリを文字通り、殲滅した。

「私も雛子様と同じです」
 アリア・ブランシュ(ありあ・ぶらんしゅ)は、そう小さく小さく微笑んだ。
 自分にそんな大それた力があるなんて思ってはいない。だけど、蒼空学園を守る手助けが……御柱や雛子の手助けが出来たら、そう思うから。
「私にはこんなことしか出来ませんが……少しでも彼女の力になれるのなら……」
 心の中、祈りを捧げる。御柱の苦しみが少しでも和らぐように、それから今、自分達を信じて、自分達が花を植え終えるのを信じて、必死で守ってくれている人達の為にも。
 込み上げてくる、常の自分ではありえないほど強い、思い。
「これで……これが最後の花、です!」
 祈りを込めたアリアの手が、封印の最後の一輪を大地に咲かせた。