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リアクション
第8章 花は静かに(花壇)
「ケガした人は申し出て下さい」
レティナがケガ人を【ヒール】して回るのに付き添いながら、光は安堵していた。
封印の形の花植えが官僚した瞬間、植えた花や苗が淡い光を放ち、瘴気の触手は掻き消えた。
そして事後、軽傷者はいるようだが、深刻なケガをした者はいないようで……それが嬉しかった。
「……フラジール?」
レティナから手当てを受けていた士は、感じた気配にハッと顔を上げた。
目にしたのは紛れも無い、離れ離れになっていた……ずっと探していたパートナーの姿だった。
だが、驚いたのはそのフラジールの瞳。
「……っ……っ」
あふれ出した涙が、頬に行く筋もの道を作っていた。
それは失っていた、悲しみという感情。
「ごめんね……迎えに……行けなくて……」
立ち上がる士。フラジールは泣きながら、士の両手を握り、言った。
「士……傍に、いて。ワタシ、が……守る……か、ら。」
そうして、フラジールは士の傍で泣き続けた。ずっと、取り戻した感情を、そして、決意を噛み締めるように。
その背から、漆黒の欠片がコロリと転がり落ちた。
「諒瑛、今の……」
「うん」
気づいた諒瑛とサイカが駆け寄る、前に。
黒き欠片は影に沈むように、消えたのだった。
「よく頑張りましたね」
尊敬する支倉遥に労われた緑は、だが、と言葉を切った。
「といってもおぬしらは大したケガはせなんだし、そう役には立たなかった気がするがのぅ」
「そんな事はないですよ。縁がいてくれたから、私達も安心して戦えたのですから」
「む、そうか。それもそうじゃな」
今度こそ嬉しそうに、誇らしげに胸を張った縁を、遥もサラスもベアトリクスも、微笑ましげに見つめていた。
「ほらクロ、さっさとお配りなさいな」
「皆様、お疲れ様でした」
そんな四人に、飲み物と軽食を配るクロード。
「どうぞお召し上がり下さい」
「よく冷えてて美味しいですよ」
その傍らで手伝う、ルナ。
「……いつの間に仲良くなったのかしら?」
それは喜ばしい事のはずなのに、何だかちょっと胸がもやもやした。
やはり性格的に、自分よりクロードの方が友達が出来やすいのか?
「蘭さんもありがとうございました。蘭さんが心を込めて丁寧に植えてらしたの、傍から見ていてすごくよく分かりました」
「べっ別に、いい加減に植えたら封印の補強にならないかも、と思っただけですわ」
「はい」
疲れた顔に、嬉しそうな笑顔を浮かべた雛子に、蘭はクロードがそっと寄越した飲み物を、突き出した。
「ぼ〜っとしちゃって、どうかしたの?」
ルナから飲み物を受け取り、零は「いや」と笑んだ。
見つめる先には、皆が植えた花。
中央の花。取り巻く苗や花と。外縁にはクローバーやハーブの緑が目に優しい。
それは一枚の絵画のようで。
早速カメラマン勇がシャッターを切っている。
「せっかく皆が植えた花だ。いつもまでも咲いて欲しいよな?」
零は願いを込めて、囁いた。
「守れて良かったわね」
「あぁ、まぁな」
封印の完成と共に、瘴気達は掻き消えた。
聞いた所によるとその少し前、水の蛇も倒されたという。
「政敏もお疲れ様」
カチュアに労われ頷きを返しつつ、政敏は小さく息を吐いた。
【花壇防衛班】を始め、怪しい動きをした者はいなかった。少なくとも、政敏の意識には引っかからなかった。
そして、兼ねてからの問いを御柱に尋ねる。
「以前、俺達以外と出会った奴っていなかったか」
御柱を助け出したい……そんな思いから、こんな騒ぎを起こしている者がいる、という可能性を考えていたから。
『いいえ。私が久しぶりに出会ったのは、雛子さんや政敏さん達だけです』
「そうか」
対して落胆もせず頷きながら、政敏胸にはどこかスッキリしないものがわだかまっていた。
「この間、パラミタウサギが暴走した時、ウサギたちが踏み荒らしそうになった花壇には、封印の要となっている花が咲いていたわ」
どこかスッキリしないのは、美羽も同じだった。
「パラミタウサギは何者かに誘導されていた……あの事件はそもそも、封印を破壊しようとした何者かによって仕組まれたのではないかしら?」
「何者か、ですか?」
眼鏡の奥の瞳を瞬かせるベアトリーチェに、美羽はやや躊躇いながら頷いた。
確信はない。
ただ……誰か、或いは何かが影で動いている、そんな気がしてならなかった。
「汗を流したので、プールに入りたいであります」
一方。人心地ついたロレッカは、ふと思いついた。
もう水の蛇も見えないし、とすればプールの騒ぎも終わったのだろうし。
「今からでもいきませんか?、師匠」
「ぬぅ。我輩は着ぐるみでありますからなぁ……プールに入るのは少々……その、溺れてしまう可能性があるですのですじゃ、から……うむ……。え、遠慮するですじゃ」
「それは残念であります。あ、雛子殿もいかがでありますか?」
「ええっ、プールですか……?」
特に他意があったわけではないが、雛子は妙に過剰に反応した。
「わっ私、ぺったんこ同盟だからダメです〜」
わたわたと何やら口走る雛子。
「いや、別に自分もそう誇れるものではありませんが」
「まぁ……確かに沙幸に比べてこの辺は寂しいようですわね」
「おおっ?!」
「美海ねーさま!」
後ろから抱きつくようにして素早くチェックする美海に、雛子やロレッカだけでなく沙幸の顔も赤く染まる。
「沙幸ったらヤキモチですの? 大丈夫、わたくしの一番は沙幸ですもの」
可愛いんですから♪、なぁんて言いつつ逃げる間もなく沙幸をギュッとする美海。
「あんっ……てねーさま、何でそんなに元気なの?!」
「それはわたくしの沙幸が、そんな風に可愛い顔をしてくれるからですわ☆」
「かわいこちゃんがたくさん集まって、随分と楽しそうだな」
美海はご満悦、ロレッカ達は戸惑い気味、男性陣は何となく視線を逸らす中、ソールは果敢にアタックだ。
「かわいこちゃん達、おれとイケナイ世界を体験しないか? 後悔はさせないぜ」
こちらも既に元気を取り戻している。
「あら楽しそうですわね。でも、沙幸はダメですわよ」
「だからねーさま、そろそろ放して下さいってば!」
真っ赤になって慌てる沙幸、呆気に取られていた雛子はそのやり取りに、ふっと口元をほころばせた。
それはやがて、静けさを取り戻していた花壇に広がっていった。
「にゃにゃ、でもプールは入れる状態じゃないニャよ……って、誰も聞いてないにゃ」
「ま、グダグダしてるより、笑ってる方が精神衛生上いいよね」
「そうですね、確かに」
パムの頭をぽむぽむっとしつつの、翔子のお気楽ともとれるセリフ。ミコトは苦笑まじりに如雨露を傾けた。
「この花たちが凛として咲けるように」
水は優しく、花達に降り注いだ。
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