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横山ミツエの演義(第3回/全4回)

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横山ミツエの演義(第3回/全4回)

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武雲嘩砕二日目〜建国宣言


 日も暮れて文化祭市は終わりの時間となった。
 後はキャンプファイヤーを囲んで打ち上げパーティとフォークダンス、建国宣言をしたらこの祭りも終了である。
 参加者によりパーティ準備が進む中、本部ではキリンが意識を回復した。
 ミツエの顔を見たらまた暴れるかもしれないので、彼女は他の天幕で建国宣言への準備をしている。そうでなくても暴れる可能性を考え、邪堂が傍に待機していた。
 しかし目覚めたキリンは特に暴れたり怒鳴ったりすることはなく、裁きを受ける罪人のように神妙にしているだけだった。
 見かねたレティシアが一生懸命にキリンを元気付けようと、あれこれ話しかけたが返ってくるのは虚ろな唸りばかりであった。
「キリンさんは中国の人に頼まれたんだよね? だったらミツエさんが中国統一したら仲間になるんだし、どうせならこのまま一緒にいようよ」
 どういう理屈だ、と悠司は首を傾げたがレティシアは本気だったし、彼女の中では筋が通っている。
 悠司にはよくわからないその理屈に、キリンが反応を示した。
「ミツエガ トウイツシタラ ミツエタチハ チュウゴクジン……ナカマ?」
「そうそう、仲間」
「コンナ オレデモ ナカマ?」
「こんな悠司だってミツエさんの仲間やってんだから、キリンさんなら文句なしに仲間だよ」
 何気に酷い言われようの悠司だが、キリンは感動していた。昼間のトウモロコシの記憶や、昨日自分の哀しみを受け止めてやると飛び出した戦士の記憶が蘇る。
 キリンの目からぽろぽろと涙がこぼれていた。
 同時にキリンは体から何か澱んだものが抜け出ていくのを感じた。
 と、外が急に騒がしくなり、出入り口の幕が乱暴に開けられて竜司と劉備が入ってきた。他にもキリンの行方が気になる数人がついてきている。
「オレがキリンを倒したんだ。オレのものだ!」
「ちょっと、キリンは孫権にあげたいんだけどねぇ」
 割り込んで主張するのはカリンだ。
 何を揉めているのか察知した邪堂もすぐに参加する。
「わしはミツエ殿のところへ連れて行くために戦ったのだ。お二人の意見を許すことはできんのぅ」
 だんだん収集がつかなくなりそうな気配に劉備は大きく手を叩いて注目をさせた。
「まあまあ、待ってください。せっかくキリンが来てくれて、ほら、目覚めたばかりなのにうるさくしては、どこかへ行ってしまいますよ。どうでしょう、少し落ち着くまで国で預かるというのは?」
 会いに来るのは自由だと提案する劉備に、竜司はケッと不満を露わにして声を張り上げた。
「結局ミツエのものってことかよ!」
 言い捨てて来た時同様に乱暴に天幕から出て行ってしまった。
 ドライな関係ではあるが彼の努力を傍で見ていたアイン・ペンブロークは、さすがに不憫に思ってかそっと息を吐いた。とはいえ、そもそも竜司を唆したのはアインなのだが。 それから、キリンが落ち着いたと連絡を受けて、遅れて入ってきたミツエにある話を持ちかけた。
「あのアリスアイドルのマスコットにしたい?」
 提案を聞いてミツエは目を真ん丸にした。
 すると、そこに緋桜ケイも加わってきた。
「俺も似たようなこと考えてた! 新王朝グッズとしてこの可愛い虹キリンストラップとかぬいぐるみとか作って売るんだよ。きっと大人気だぜ」
「小さな収益にしかならぬかもしれんが、こういったまともな収益の積み重ねこそが大事であろう。今回おぬしが頭を悩ませておった略奪品バザールや人身売買への抑制にもなろう。無法国家を作りたいわけではあるまい?」
 悠久ノ カナタ(とわの・かなた)の言にはミツエも否はない。
 誰も飢えない国を作る手段が略奪というのは、ミツエの目指すところではないのだ。
「わかったわ。でもその前にキリンの承諾を得てちょうだい」
 アインとケイ、カナタの視線がキリンに集まる。
 キリンは澄んだ瞳で嬉しそうに了承した。
「オレガ ヤクニタツナラ」
 すっかり毒気が抜けたキリンは、きっと新王朝の明るい兆しになるだろう。
 キリンは国のものであるため、収益の5%を国に納めるという条件でアインとケイに事業は任された。
 商談が終わるのをウズウズしながら待っていた天流女八斗は、やっと終わったことを見ると飛びつくようにキリンに駆け寄り、打ち上げパーティへ誘った。
「出店を回ることはできなかったけど、パーティは一緒に行けるでしょ? それにフォークダンスも! みんなも待ってるよ、行こう行こう」
「オレガ イッタラ メイワクニ……」
「余計な心配はなしで!」
 戸惑うキリンの首を引っ張り、外に連れ出してしまう八斗。
 強引なパートナーの行動に苦笑してしまう伊達恭之郎。
「恭之郎、キリンのことよろしくね。思いっ切り楽しませてやって」
「おっけー。みっつんも早いとこおいでよ」
 ひらりと手を振り恭之郎は八斗とキリンを追いかけていった。

 建国宣言の最終確認をしているミツエと諸葛亮 孔明の天幕へ、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)とホウ統 士元がやや厳しい表情で入って来た。
 トライブは新王朝に敵対する可能性のある勢力やその他有力者の動きの調査を、ホウ統はキリンがミツエに頭を下げている様子と(これはトライブが加工して作った)との友好関係を示す動画をインターネット上に流し、そのアクセス解析を行っていたのだ。
「捕まりませんね。向こうも慎重なのでしょう」
 ため息混じりにホウ統が言った。
 キリンを送った人物が何者なのか探ろうとしたのだが、うまくいかなかったようだ。
「こっちもまあ、何ていうか。様子見ってとこだな。あんたが国を興すことには興味津々だが、どんな国なのかまだわからねぇから動きようがねぇんだと。ま、そりゃそうだな」
「邪魔になるようなら勢力を結集して潰しにくるかもしれませんね」
 諸葛亮の指摘に頷くトライブ。
 この二日間の市には様々な人種が来ていて、それは青木のように単に自分のための金儲けもいれば、ミツエの周辺を探りに来た者もいる。トライブは千石 朱鷺(せんごく・とき)と共にそういう連中に接触して彼らの感触を確かめてきたのだ。
「ところでさ」
 と、トライブが話題を変えた。
「約束のおっぱいの件だけど、誰のを揉ませると明言したわけじゃなさそうだし、代役を立ててもいいんじゃないの?」
「ダメよ。約束は約束よ。……ちょっと……ううん、だいぶ困った約束だけど……」
 しかめっ面になりつつもトライブの提案を拒むミツエ。
「ふぅん。ま、あんたがそう言うならいいけど。じゃ、これはもういらねぇな」
 突然、トライブは今日集めた数々の情報メモを篝火にくべた。
 それらは、トライブが相手から話を聞きだすためにと集めておいた、ミツエ側にとっては苦い映像などだ。
 ずいぶんカッコつけちゃって、と朱鷺がこっそり笑う。
 それから、中国の偉い人というのは国家主席かその近辺ではないかという予想に落ち着いた。それ以外考えられないというのもあった。
 後は董卓にちょっかいを出しているという鏖殺寺院だが、こちらはいっこうに足取りを掴めなかった。