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のぞき部あついぶー!

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第1章 のぞき部


 まだ夜が明けたばかりだが、“のぞき部”の部室には蒼々たるメンバーが集まっていた。もうお馴染みの以下の面々である。

弥涼 総司(いすず・そうじ)
クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)
サフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)
黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)
秋葉 つかさ(あきば・つかさ)
桐生 ひな(きりゅう・ひな)
ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)
坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)
影野 陽太(かげの・ようた)
緋桜 ケイ(ひおう・けい)
トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)
千石 朱鷺(せんごく・とき)
葉月 ショウ(はづき・しょう)

 彼らは、陽太が持ってきた野添貴神社の境内マップを見ていた。
「ここ……のぞき神社って言うんだ! のぞきの神がいるんだね!」
 しっかり「やそぎ」とふりがなが振ってあるのを無視して声をあげたのは、クライス・クリンプトだ。
 声を出さないように撮影していた大地が思わず呟いた。
「ち、ちがう……」
 が、陽太も目を輝かせている。
「本当だ! 俺、全然気がつきませんでした。やっぱりこの神社と俺たち、惹かれ合うものがあったんですかね」
「巫女さんいっぱいいるといいでござるなー」
 超重度の巫女さんフェチである鹿次郎は、早くも興奮してスケベブラッドを境内マップにボタボタ垂らしていた。
「あ……申し訳ない」
 そして、恐ろしいのは誰も訂正せずにそのまま話が進んでいくことだった。
「のぞきの神様が見守ってくれてるんだ。恥ずべき行為はできないな……」
 彼らにとって恥ずべき行為とは、のぞきではない。のぞきの失敗である。失敗こそが神を冒涜する行為と信じていた。
 大地はもう考えるのをやめた。カメラマンとして空気に徹すること、それを改めて肝に銘じた。
 いつもに増して真剣なクライスは、のぞき部副部長兼、戦略局局長として作戦を考えていた。
「今回僕はみんなのサポートにあたるよ。敵の配置を把握して、やりやすいように指示を出させてもらおうと思う。細かい作戦行動は各自に任せるけど、基本的には一人一殺以上。たとえ倒れるとしても、仲間ののぞきを成功させる礎となる……これがのぞきソウル。僕たちのあつい絆だ!」
 体験入部として部室の隅で話を聞いていた水上 光(みなかみ・ひかる)はガターン! と勢いよく立ち上がった。
「やっぱり噂通りです! 一人前の漢になるならのぞき部が一番の近道だと聞いてましたが、今、確信に変わりました。……漢になりたいんです。どうかのぞき部に入れてください!」
 このアフォな会話から何をどう確信したのかてんでわからないが、とにかく正式に入部してしまった。
 漢になるためにのぞき部に入るアフォは、2人目だ。
 1人目はもちろんのぞき番長の和希だが、番長は部活をサボっていて、この日はここにはいなかった。
「光さん。もちろん大歓迎だぜ!」
 部長自らがっちりと握手をして、他の部員も肩を掴んだり尻をもみもみしたり、思い思いの意味不明な方法で光を歓迎した。
「ああ、みんなあったかいなー。なんとかがんばってみるぞーっ!!」
 アフォか。
 と、そのとき、ガラガラガラ……。
 ドアが静かに開くと、ハーポクラテス・ベイバロン(はーぽくらてす・べいばろん)が顔をのぞかせた。
「なんだか楽しそうだね……」
 女か男か判然としないお人形のような美形で、肌も美しい。
 鹿次郎がまっさきに握手した。
「楽しいでござるよ。入りなよ。もう入ったね。ね。ね。巫女の格好も似合いそうでござるしね。ね」
「巫女はわからないけど、入部するよ」
 ガラッ。
 今度は思い切りドアが開いた。
「ここがのぞき部ですか!」
 入ってきたのは、鳥羽 寛太(とば・かんた)だ。
「のぞきなんて今まで恥ずかしくてできなかったけど……」
「のぞきなんて?」
 メイドとしてお茶を片付けていた女子のぞき部部長のつかさが、手を止めて語る。
「のぞきが恥ずかしいなんて思ってる部員は、ここには1人として……いらっしゃいません。のぞいて感じ、のぞかれて感じるは男女の性。のぞきこそ正義。皆様の誇り高き顔をよく見ていただけませんか」
 寛太は歴戦の勇者の頼もしい顔つきを見まわした。誰も恥ずかしがってなどいなかった。
「す、素晴らしい。皆さんの曇りひとつない表情。素晴らしいです! 僕もがんばります!!!」
 アフォがまた増えた。
 そのとき、出入口と反対側の窓から差し込むキンピカな光に、みんなが目を覆った。
「だ、誰だ?」
「まさか……キリン隊?」
「いや、この光には何か友好的なものを感じる。我らがツルピカ忍者の薫ちゃんでは……?」
 そのとき、女子のぞき部参謀の桐生ひなが叫んだ。
「違いますっ。あれは! イルミンのキンピカウィンド! エル・ウィンドですーっ!」
 窓の外で、ギルガメシュを連れたエルが光り輝きながらポーズをとっていた。
「おおーっ!」
 パチパチパチ!
 みんな、拍手で歓迎した。
 エルは窓をガラッと開けると、袋に入った大量のパンとジュースを差し出す。
「のぞき部の先輩方! これ食って気合い入れてくださーい!」
 腹が減っては戦が出来ぬ。
 みんなはパンを頬張りながら、連絡先を交換したり作戦を詰めたりしていた。
 鹿次郎はケイを見て、話しかけた。
「ケイ殿、久しぶりでござるな。修学旅行のとき、どこにいたでござるか?」
「ははっ。みんなに忘れられて、置いてきぼりにされちゃったぜーっ」
「そうだったのでござるか。はっはっは。今日は巫女さんだから楽しみでござるなー」
「そうだな。楽しみだぜ。はははっ」
 ケイは置いてきぼりにされたのがよっぽど悔しかったのか、目が笑ってなかった。
 そして、光るちんちん王にゃん丸が立ち上がった。
「そろそろ行こうかねぇ。周くんと薫くんが先にやってるみたいだし」
 廊下に出ると、隣室の表札から『キリン隊』の文字が消えているのが目に入る。
 総司の胸のホルスターから、機晶姫が顔をのぞかせた。
「おい総司てめぇ。見たか……」
 銃剣付き回転式拳銃の機晶姫、体長わずか40センチのガンマ・レイ(がんま・れい)だ。
「ああ、見た見た。かわりに新しい部ができるってな。えーっと、なんつったかな。あつい部だっけ? まあ、来るなら来やがれってとこだけどな」
 勇者にとって、相手が誰であろうと関係はない。
 女子が着替えるなら、のぞく。ただそれだけのことだ。これは酸素を吸って二酸化炭素を吐くのと同じくらい当たり前のことなのだ。
 こうして、のぞき部員は意気揚々と野添貴神社に向かった。
 
 だが、彼らはまだ“あつい部”のあっつい恐ろしさをぜーんぜんわかっていなかった。