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嘆きの邂逅~離宮編~(第1回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第1回/全6回)

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 続いて、白いスーツ姿のエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)が立ち上がった。
「エメ・シェンノートです。詳しい事はまったく判っていないですし……。まず、お聞きしたいのですが、ソフィアさん、そしてラズィーヤさん、何故離宮の調査をするのでしょうか?」
「資料やこれまでの会議で説明した通り、離宮鏖殺寺院の兵器が眠っているからです。その状態を調べて排除をしなければ、いずれその力はこの地に大きな災いをもたらすでしょう」
 ソフィアがそう答える。
「でも、5000年もの間、何もなかったのですよね?」
「それは、鏖殺寺院がその間活発に活動をしていなかったからです。現代においては、彼らが離宮に眠る力を狙っている兆候が見え隠れしているようですから……」
 エメの問いに、ソフィアは不安げな表情を浮かべながらそう言ったのだった。
「ラズィーヤさんは?」
 エメは普段の穏やかさを崩さずにラズィーヤに問う。
「地下にそのようなものが眠っていたら、心配で眠れませんもの」
 ラズィーヤはそうにっこり微笑む。
 前の会議の時もそうであったが。彼女の返答は『足りない』。微笑みといい、内心が感じられない。
 それでも、これ以上聞くことでもないと、エメは自身のアピールに移ることにする。
「私は、先遣調査において、後から来る方が攻略をしやすくなるためにも、西の塔から順番に、まずは詳細な内部地図、出て来た敵対する物や罠の詳細報告書を作る心積もりで行きたいと思います」
 ペンを走らせている優子の頷きを確認し、エメは言葉を続ける。
「自分は基本的に剣士ですが、ヒール・ナーシング・SPリチャージといった回復も出来るので、回復係も兼任できると思います」
「自衛と回復が行えるということだな。了解した」
「はい、よろしくお願いします」
 優子の言葉を受け、エメは一礼して席に着いた。
 蒼空学園最後の立候補者は志位 大地(しい・だいち)だった。隣にはパートナーの出雲 阿国(いずもの・おくに)の姿もあるが、彼女は立ち上がらない。
「志位大地です」
 眼鏡をかけ、大地は真面目で誠実そうな風体で話し出す。
「俺は率いる立場ではなく、サポートとして役に立てると思います。探索・索敵・鑑定等のサポートに適した技能を一通り習得しています」
「見たところ、クイーン・ヴァンガードのようだが……」
「あ、いえ」
 大地はクイーン・ヴァンガード専用の装備品を装備してる。
「今回はクイーン・ヴァンガードとして立候補しているわけではありません」
 実はクイーン・ヴァンガードに対して疑念を持っている大地だが、その辺りは会議では語らないでおく。
 何せ、百合園は蒼空学園、しいてはクイーン・ヴァンガードと協力体制を築いている学校だから。
「古王国の宝なども眠っているかもしれませんが、俺は物ではなく知識に興味があります。皆さんのサポートとしてお役に立ちますので、よろしくお願いいたします」
「知識か……。志望理由も色々あるものだな」
 優子が頷き、発言を終えた大地は席に着いた。
 蒼空学園所属の者、14名全てが発言を終えた。
 優子は名簿にメモを書き込んだ後、続いて百合園女学院の席に目を向ける。
「では、幻時想から頼む」
「はい」
 百合園に転校してきたばかりの幻時 想(げんじ・そう)が立ち上がる。
「僕は注目すべき場所を、やはり鏖殺寺院の根が張り巡らされていたという使用人居住区と考えます。危険度が高いと予想されますから、まずはその地域の周辺の足固めを終えたあと、精鋭をもって調査に当たるべきかと考えます」
「周辺の足固めとは具体的にどのような作業のことだ?」
「それは現地を見てからどのような作業が必要なのか話し合うべきかと……」
「つまり、周辺の地域の調査がまず必要ということになるな」
「はい」
 予想外の質問に内心軽く動揺しながら、唾を飲み込んで想はアピールに移る。
「僕自身の特技としましては、通常の剣の技に加え属性のついた魔剣を扱える事で、物理魔法の両面から戦え……特に弱点を持つ敵とは有効に戦える事。加えて未探査地域における鍵開け技術や回復魔法の心得もありますので多くの未知の状況に対応できる事でしょうか」
 優子は難しい顔でメモをとっている。
「最後に心得としまして……まずは百合園外からも今回の事態に協力する為、幸いにも多くの学校から、多くの得意分野を持つ皆様に集まって頂いている今、申し上げたい事が御座います」
 想は優子や役員ではなく皆の方に体を向ける。
「残念ながら一校で……また一人で出来る事には限界があります。頼るべき所は頼り助け合い、お互いの得意分野を最大限に生かし、最良の結果を出していけたら一番良いと考えています」
 想は白百合団に志願してもいる。
 団員としての初めての仕事として、先遣調査隊に入ることを望んだ。危険であることを覚悟の上、自分と仲間のために。
「ただ勿論、これは必要以上に他者におもねるという事は意味しません。僕は百合園でも新参の身で、こんな事を申し上げるのは分不相応とも感じますが……今回の事件の発端となっている百合園の生徒として、先遣調査隊の中で皆様との協調が円滑に進む役目を果たすべく志願し、率先して活動していきたいと考えています」
 転校して間もない頃、百合園で失恋もした。
 だけれど、大切な場所であることに変わりはなく。
 荒事にも自信がある自分が、危険も引き受けていきたいと、思いながら。
 皆を見回した後、深く頭を下げた。
「未曾有の危機ですが、皆様と共に乗り越えていけましたら幸いです」
 会場に賛同の拍手が響く――。
「期待してるよ」
 優子の言葉に想は顔を上げて「はい」と返事をすると、席に着いた。
「諸葛天華だ」
 続いて、諸葛涼 天華(しょかつりょう・てんか)が立ち上がる。
「私はその先遣調査を行う部隊として、イルミンスール生を班長とした魔術部隊の設立を提案する」
「魔術部隊の結成は良案なのだろうが、先遣隊ではなくこちらも後発の本隊の仕事であろうな」
 天華の提案に対してプロクルがそう言葉を発し、優子が頷く。
「本隊の方も、離宮に強襲して制圧しようというわけではない。まずは離宮を調査し、鏖殺寺院の兵器が残っているのなら処理するまでのこと。魔術部隊案については、本隊の部隊として検討しよう」
「先遣隊はそれ以前の調査というわけだな。しかし魔術的な罠が仕掛けられている可能性からも、先遣隊にもイルミンスール生がいた方がいいだろう。魔術が使える者は他校にも沢山いるだろうが、魔術の腕もさることながら調査に必要な知識だからな」
 天華の意見に、優子はメモを取りながら頷く。
「そうだな。イルミンスール生の中に適任者がいたら、だが」
「聞けばここには、白百合団の救護班、剣士班、騎士班の班長がいるというが、知識面を考えれば専門部隊として他校生を班長とした部隊を設立するのが良いかと思われる」
「それもその通りだ。今作戦には班長の資格を持った御堂晴海、風見瑠奈、ティリア・イリアーノがこうして志願している。彼女達は適任であるが為、それぞれ救護班、剣士班、騎士班……別名、「白百合乙女救護団」「白百合乙女剣士団」「白百合乙女騎士団」を任せることが多い白百合団の班長としてはトップクラスの実力を持つ3名だ。ただ任せることが多いだけで、いつでもその班を率いてもらっているわけではない。白百合団の班編成は任務により結成される班だからな。そして、今回の作戦は白百合団の任務ではなく、他校生を白百合団に組み入れる形で行うわけでもないため、その辺りはこちらでも考えに入れているし、部隊編成は先遣隊とは別に決めていくつもりだ。魔術部隊は是非設けたい。諸葛天華の意見も参考にさせてもらう」
「ではそれが決定してから、入る部隊を決めよう」
 言って、天華は席に着いた。