シャンバラ教導団

リアクション

エピローグ　愛故に


　金剛、鷹山剛次の私室。
「戦いに負けて意気消沈かと思いましたけど……激しいですわね」
　黒鉄亜矢がベッドの上で気怠そうに呟く。
「フッ、ミツエが“ドージェと心を通わせた女”であることは誤算だった。西倉会長、いやニマ様以外にそのような女がいるとはな。……時間がない。ナラカ城で発見された以上、石原肥満が戻るのも時間の問題だ。次で決着をつける。ミツエは殺すには惜しい女だが、そんな余裕もない」
　だが、鷹山と寝た亜矢には分かっていた。
　この男はニマ以外の女など眼中にはない。
「で、どこで決着をつけるおつもり？」
「キマクから南、サルヴィン川とイルミンスールの森の西端が接する地、赤壁。現在は急激に勢力を拡大した御人良雄という男が、ヨシオタウンという街を作り、巨大な天体観測用ピラミッドを作っている。“ドージェ跪かせた”だの“クトゥルフの化身”だの、うさんくさい噂の絶えない男だったが、キマク・ザンスカール・ヴァイシャリーをつなぐ交通の要所を抑えるとはな。油断のならぬ男よ」
　数回、喉の奥で笑う剛次。
「自領を持たない乙王朝が生徒会に抗するにはここを狙うしかない」

　ヨシオタウン。

　ピラミッドの頂点にオシャレなソフトモヒカンの男がいた。
　現在では“星帝”と呼ばれる、御人良雄である。
「ここから見える全て光景、特に星空！　全ての我の物にできるのであろうな？」
「ハッ！　良雄様、ピラミッドの完成まであと僅かです。あなたのパラ実支配の象徴となりますでしょう」
　良雄のパートナーである魔道書“女の子の体のヒミツ”が報告する。
　元々はアル・アジフという魔道書だったが、アラビア語の読めないパラ実生によって表紙にマジックで“和訳”をつけられ、以来四天王達の不健全写真スクラップ帳とされていた悲劇の書物である。
　その本に良雄は、（恥ずかしいから）ブックカバーをつけたのだ。
　以来、二人はパートナーとなった。

（あの時の良雄様の慈愛の心、私は一生わすれませんぞ。必ずや天下を取らせてみせます！）

　裏腹に、良雄はまったく別のことを考えていた。

（るるさんが遊びに来やすいように、イルミんスールの森から近い場所にピラミッド作り始めたら、こんな大都市になるなんて！　これで完璧っす！　この星空の下でるるさんに告白すればっ！　そして全ての星空を征服して、るるさんにプレゼントするっす！）



　乙王朝陣営。

「達也さんに……奥さんがいたんなんて……メールも来ない……」

　ミツエはまだ高熱を出して倒れたままだった。
「“恋など路傍の花”と言っていましたのに……」
「フン、だらしのない女よ。あの生徒会長を倒し、ドージェを略奪すれば良いのだ！」
「いやいや、ミツエ女子校だったし、あの性格だからこれまで彼氏いなかったでしょ。初恋で不倫はキツいんじゃないかな〜」
　劉備・曹操・孫権がミツエを囲んで井戸端会議を繰り広げる。
「それはそれとしてです。お二人とも“それだけではない”事はお気づきのはず」
「うむ。ミツエから感じていた皇氣が感じられぬ」
「その代わり、異様な氣を感じるんだよね」
　三人が見ると、ミツエの周囲を伝国璽から出た黒い氣が取り囲んでいる。
　不意に、ミツエが起き上がった。
　目に尋常でない暗い光が宿っている。

「朕は乙王朝皇帝横山ミツエ！　これより朕に逆らう生徒会を殲滅する！」

　ミツエの言葉に呼応するかのように、地面から石兵、石馬が出現する。
　そして近くにあった本が突然燃え始めたのだ。
「……これは焚書！」
「外を見てよ、イナゴの大群がっ！」
　遙か東の空に黒雲が立ち込めていた。
　三人はそれが散々自分たちを苦しめたイナゴの大群だと知っていた。

　シャンバラの東の地カナンは、ナラカから大発生したイナゴの大群によって壊滅的打撃を受けている。
　そしてイナゴはミツエに引きつけられるようにやってきている。
「伝国璽は始皇帝が作ったとされていますが、黄帝がシャンバラ女王から貰った女王器とも聞いています。それがパラミタ出現後活性化。“神との交信”が途絶え、弱っていたミツエに憑いたのだとしたら……」
　劉備の予測を聞いてミツエは嘲笑った。
「だとすれば何だというのだ？　朕は伝国璽を手にしながら倒れた歴代皇帝の邪氣よ。朕の氣が災いを招いているのだろうな。だが、朕はミツエでもある。ミツエは中原の覇者になるために全てを捨てたのだ！」
　ミツエは高笑いを始めた。